あなたの世界に私はいらない
誰かが誰かを好きになって、それが報われたり、報われなかったり、ただそれだけの理が恋愛なんだと思っていた。
彼女が好きだった。少し地味だったけれど、性格は明るくて、優しくて、穏やかで、誰かに嫌われるなんて考えつかない、そんな彼女が。すごく。とても。
ふんわりと柔らかく微笑む笑顔も、耳に心地いい小さめの声も、細くて器用な指も、運動音痴な所も、ぜんぶぜんぶ好きだった。
涙が零れた。学生時代に彼女と私が好きだった曲が流れて、白いウェディングドレス姿の彼女が、今日旦那様となった私の知らない人と並んで高砂に座る。
照れた顔を俯けて、司会者の進行をその耳で聞いているのだろう。
「すごく綺麗ね」
同じテーブルに座った彼女の友人達が口々にそう褒める。
私は彼女の高校時代の友達だから、それ以降の付き合いであるこの人達のことは何も知らない。
「……ほんと」
すごく綺麗だ。高校の時の彼女の面影はあるのに、化粧のせいだろうか、それともドレスのせいなのだろうか。
とても神々しく、幸せに溢れた純白の花嫁姿の彼女は美しいと同時に、初々しく愛らしい。
キャンドルサービスなんて誰が考えたのだろう。不必要なサービスだ。
わざわざ会場内を練り歩いて、キャンドル一つ一つに火を灯して、おめでとうとありがとうの応酬を聞かされる。
「……来てくれたんだね。ありがとう」
彼女が私に気づいて声をかけた。相変わらずの可愛い声だ。
好き。好き。やっぱり好き。
「友達だもん。当然だよ」
そう。友達。あなたの中では、私はずっとお友達だった。
高校を卒業してから、私はそれが辛くてあなたとは簡単に会えなくなった。
避けるように、逃げるように、あなたへの想いをひた隠しにして、今まで生きてきた。
「招待してくれて嬉しかった。なかなか会えなかったから、もう、」
私のことなんて忘れてしまったのかと思った。
「そんなことないよ! だって、」
大事な、大切な、ずっと大好きなお友達だから!
「……うん」
彼女の目からぽろりと涙が溢れた。それ以上に私の目からはとめどなく涙が流れていく。
あなたが好きだった。
あなたが本当に好きでした。
報われないとわかっていたから、諦めようとしたけれど、そんなの到底無理だった。
この気持ちを悟られたら終わりだと、ずっとあなたの良いお友達であろうとしたけれど、この秘密の想いはあまりに重くて、抱えきれなくて、私はあなたの目から逃がれ続けた。
いつか言おう、もしかすれば報われるかも、なんて期待を持ったまま、ここまで来てしまった。
馬鹿だな、私は。
この想いはこれから先も伝わることなく、伝えることなく、今日で終わる、終わらせなければならない。
どうせ私がここで泣いたって誰も責めないし、むしろ感動している良いお友達だと周りは思うのだろう。
ははは、皆、知らないでしょう?
この涙は彼女の幸せなんて喜んでいない。
ただ私の不幸を嘆いているだけ。
「あの、これ……」
見るに見かねた隣の人がハンカチをくれた。
優しい。好きになりそう。なんて、嘘。
「ありがとうございます……」
もう、あの子の中で私は大切な存在でも何でもない。
優先順位なら何番目だろう。きっと随分下の方になるんだろうな。
そのうちに、子供なんて産まれたら、もっともっと下になってさ、いつかは私の存在も消えてなくなるのだろう。
彼女の目に映る世界に、
彼女の思い出の中の世界に、
彼女の心の中の世界に、
もう私は要らないのだ。
「っ……ぅぁぁ……うぅ……」
泣いて泣いて、引くほど泣いて、私は願う。
いつか、私の世界にも彼女が要らなくなればいいのにね。
「……き」
あなたのことが好きでした。
「す……」
でも、もう、要らない。
「……しあわせに、なって、」
この世界にあなたへの私の愛はもう要らない。




