彼からの電話
「ほらでて!」
その言葉と同時に、プルプル震えているケータイを手に取る。
応答ボタンを押して耳に当てた。
「じゃ、じゃあ聞きたい気持ちは山々だけどさ、みんな、でようか…」
るなが気の利いたことにみんなに声をかけて、部屋から一旦出てくれる。
やっぱり、私の友達は優しい。
『えっと…もしもし?』
『…あ、もしもし…みう…?』
普段は決して聞くことのない、ちょっと不安そうな彼の声にドキドキしてしまう。
『はい。』
『どうした、その機械的な返事は』
『ううん、なんでもない!』
初めての電話は、一言一言が頭の中に響いていた。彼のそっけない言葉も、なんでだか全部忘れられなくて。
『それで、どうしたの?』
本当はもっと話していたいのに、こんなこと言ったらこの時間がすぐ終わっちゃうなんて分かりきったことなのに。
つい、言ってしまう。
『あ、そうか!ごめんやっぱり忙しいんだよな…よしじゃあ本題に入るぞ…』
『ん…』
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『ん…』
電話の向こうで、彼女がどんな表情をしているか、どんな事を考えているかなんて、分かるはずがない。
でも…やっぱりこんな夜の電話なんて…迷惑に決まってるよな…
『えっと…都会行くって話なんだけどさ、オアシズ32ってとこがなんか楽しそうなんだ。だから、そこはどうかなと…』
こんな夜に電話をしたのは、特に急ぎの用があるからといったわけでもない。
ただ、ただどうしても声が聞きたくなって、明日は学校が無いからなんて自分に言い聞かせて…
こんなこと言えるはずがないや。
『うん!なんか楽しそうだね!………て、名前聞いただけだけど…』
『あはは…』
何気ないこの会話がまだずっと、続いて欲しいのに。
こんなこと言ったらこの時間がすぐ終わっちゃうなんて分かりきったことなのに。
つい、言ってしまった。
『あ、もう夜だし本当迷惑だよな…長くなってごめん。それだけだから…』
『え……うん……。』
『じゃあな』
『また月曜日にね…』
耳に当てたままのケータイから、ピー、ピー、と五月蝿い音がなる。
それでやっと、ケータイを机に置いた。
「あーあ………」
もっと、なにかを期待していた訳ではなかった。でも何か、足りない気がして…。
わずかに鈴虫の音が聞こえる。
『電話、俺は楽しかった。』
これだけメールを送って、布団に入った。
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『じゃあな』
『また月曜日にね…』
あっけなく、彼との電話は終わってしまった。
私は、全然良かったのに…彼は迷惑だっただろうか。そう考えると、まだ電話を続けていたいなんて考えてしまったことが恥ずかしい。
「電話…終わったぞ…」
寝室のドアを開けて、リビングにいるみんなに呼びかける。
どうやらみんなで映画を見ていたらしく、私の電話は一切聞いていなかったようだ。
よかった……。
「電話終わったーー?!」
「じゃあ!」
「みうの話を聞くのと同時に!」
「コイバナさいかーーーーーーーい!!!」
───相変わらず私の友達は賑やかで、大好きなみんなは私の中で考えていた色々なことなんて、一気に吹き飛ばしてくれた。