帰り道での発見
「いっやぁ〜、かわいいなぁ先輩は。もうさ、心の中が透け透けなんだよねー」
放課後の教室、窓からから見える夕暮れが早く帰れと居残り組の私たちをせかしている。
「えと、あのそれって…百合ってゆーやつ、ですか、」
同学年なのに敬語の天使は鈴花ちゃん。うっ…もう天然だったりちょっと非常識な感じが可愛くて可愛くて…
「はぁぁぁぁぁ!?いや違うから違うから違うから、かわいいって言っただけで百合にはならないんだよ!?鈴花ちゃんだってかわいいし!みんなかわいいからっ」
「うぁ…すいませんっ」
ごめんね。でも言われてみれば待ってよ!?『うっ…もう天然だったりちょっと非常識な感じが可愛くて可愛くて…』待って私、駄目だ、駄目な方に行ってしまうかも知れない。
いやもう行ってるのか。
「あーあ。でもね、先輩ったらさ、意外とピュアで乙女なんだよ、ああ見えても!だってね、もうなんか分かりやすすぎるほど思いっきり照れてるし、それよりまず都合が悪いと人を殴るって特性自体めっちゃわかりやすいじゃんね。すっごいほっぺたは赤いしそれに…あ。」
気付けばついさっきまで彼女の居たはずの場所にはもうすでに何もなく、たった1人、夕暮れの教室の中に百合確定の私の恥ずかしい妄言がただただ響いていたのだった。
いざ帰ろうと教室を出ると、遠くの方にたった今話題になっていた先輩の姿が見える。大好きな先輩に声を掛けようと近づけばそこには。
先輩ともう1人。
幸せそうな話し声。
先輩の笑顔。
楽しそうな笑い声。
先輩の隣には、同じく楽しそうにしている男の子がいた。
「もうっ!やめてよ」
「おいすぐ人を殴るな!落ち着くって事が出来ないのか!?」
「あははっごめん、ごめんって」
…あぁ、先輩って都合が悪いときじゃなくて楽しいときも人を殴るんだ。
違う、今はそれじゃなくってあの人は…?
「ていうかお前友達とかとは帰らないのかよ」
「え、いつも帰る後輩がいるけど今日は1人、かな…」
先輩、待ってください案外恋のスピードは早いじゃないですか!見直しましたよ!そうですね、このまま一緒に帰っちゃって下さい。私はばれないように尾行して応援するので。
「そうか、じゃあしょうがないから」
「あ。」
「あ。」
ふと振り返った先輩は廊下の真ん中で突っ立っていた私を見つけてしまった。こんな事なら隠れておくべきだった。お互い想定外が訪れて言葉が出ない。
「あー、こんにちは、え、なに、みうの後輩?ごめんな、いっつもこいつに殴られるでしょう、殴り癖があるから、あははは…」
「帰る。」
「あ、先輩いま話の途中ですってうわぁぁぁ!」
私は見るからに不機嫌な先輩に引きずられその場を後にすることになってしまった。先輩のお友達…?からいろいろと聞き出すためお話の途中だったんですけどね。まあしょうがない。
この世界から私と先輩意外誰もいなくなってしまったかのように感じさせる静かな誰もいない帰り道はいつもの事。今日は風なんてふいていないはずなのになぜか先輩がいつもかぶっているフードだピコピコと動く。
「で、いつからいた?」
「え、いやそんなに見てないです!にこにこと盛り上がってた所くらいですかね!えー、やっぱりあの人なんですね、分かりやすすぎですよ、可愛いです!」
まいにち帰り道になると先輩の「デレ」の部分が見られるので私にとってはまさに至福の時である。今日は絶対収穫があるはず。さあどんどん先輩をつついていきましょう!
「ねぇねぇ先輩あの人は誰ですか?」
ぴくっ
「えっと…い、いやお前には関係無いっ」
「そんなこと言っちゃうと先輩のメールハッキングしちゃいますよ?」
ぶんぶん
「クラスメイトのあつきって奴だ!これで満足か」
そういえばさっきから先輩のフードがピクピクぶんぶんとせわしなく動いている。今思い返してみると何か感情に合わせて動いているかのようにも思えてきた。
「むふふ、それでどんな関係で?」
「ただの迷惑な友人だが?というよりもう駅だぞ」
たったこれだけの会話でも先輩はもう心の中が滲み出てしまっている。いや、駅着くの早すぎませんかね。もう少し話したかったのに、時間が経つのがすごく早く感じられてしまう私。
「さよなら先輩!今夜もメール待ってますからね」
「ん。」
なるほど、そろそろ先輩のうまい取り扱い方が分かってきたかも知れない。今夜のメールで徹底的に聞き出してやろう。そう決意した私の目には、車窓から見える夕焼けが映っていたのだった。