プロファイル02「魔法少女その二」
プロファイル02「魔法少女その二」
滝下浩毅には結婚を約束した女性がいた。名は桜木保奈美。
彼は本気で彼女を愛した。愛するが故に戦いに身を投じると同時に距離を置いたのだ。
それが彼女のためだと彼は信じて疑わなかった。結果、それは最悪の形となって滝下浩毅と、そして彼女に連なる人々を悲しませることとなる。
エレメンタルモンスター。それになってしまったのだ。
「魔力を帯びた魔石に触れると、魔法少女になれるわけではない」
彼の脳裏に保奈美が覚醒した場合は、魔法少女だろうかという疑問が浮かぶ。浮かんですぐにそれを忘却させる。
滝下浩毅は未だに自身を許せていない。後悔と懺悔を日々繰り返し、彼女の残した教え子たちだけは守り通すと、心に刻んで業務に励む。そんな繰り返し。
彼自身もその繰り返しに、なんの意味もないことはわかっている。それでも後悔をして、懺悔をして、未練が強く残り、誰にもぶつけられない憤りを背負うだけであった。
今もそのルーチンに入りかける。入りかけたが、両手、薬指にハメられた指輪が閃く。
優しく輝いて、彼の苦悩を和らげる。
彼はその光を見るたびに、保奈美に許されている気分になっていた。
「百面相なんて、らしくないな」
「慣れてくれ。しばらくこうだ」
新堀金太郎はそうかいと軽い口調で言う。
「現状の未使用魔石は?」
「ないよ」
滝下浩毅は眉根を釣り上げた。
「初耳だぞ。魔法少女への強化ユニットに全部使ったのか?」
「まあ、そんな感じだな。事後承諾ってことで」
「何か危険なことでもしたのか?」
金太郎に後ろめたい気持ち湧き上がり、それを鋭敏に感じ取った滝下浩毅は問う。
問われた彼は苦笑いする。
滝下浩毅は深い深い溜息を吐いて、不愉快を示した。
「わ、悪かったって。でも、この前の戦いより強く、安定しているぜ?」
「保奈美に叱られるな」
つぶやくように、彼は自分に言い聞かせた。
あまりの声の小ささに新堀金太郎は聞き返す。
「なんだって? 何に何されるって?」
「なんでもない」
半目して疑問を封殺。
彼の苦悩を知っているのは、明樹保たちくらいである。
保奈美の死に立ち会っていない金太郎は、彼の心変わりの原因を知らない。
知ろうとしなかったのだから、知らないのも当然である。
滝下浩毅は話を強引に進めることにした。
「魔石に触れると、良くて魔法戦士になる」
「悪くて魔物。そして大体が魔物になる。なった、だな。エイダにゃんの話によると、魔物が昆虫や動物、巨人になるのは原因不明だとさ」
金太郎は、猫に化けていたエイダを、ハイエルフの状態の彼女をからかうときに、語尾ににゃんとつける時がある。この場にいないが、いれば呆れられていただろう。
滝下浩毅はそれを無視する。原因不明の部分にのみ、自分の考えを述べた。
「一度、失われかけた秘術だ。わからないこともあるだろう。だが、私はそれを内なる人間性が表出されているのだと、考えている」
「お、それっぽいね」
「茶化すな」
エイダの世界の、一度忘れ去られ、伝承でしか記録が残っていない禁術である。
非常に危険を伴う覚醒。リスクをかけるだけの、リターンはある。それでも失敗のほうが多く、その度に災厄を呼び起こしていた。廃れるのも無理からぬ話だ。
「そして、エレメンタルモンスターになる――か」
言い終えるまでに、万感の想いが彼の胸中を過ぎ去った。
今も滝下浩毅の耳朶に刻まれた彼女の怨嗟の悲鳴。
「命ヶ原でなった人物は三名。美剣美咲、須藤直――桜木保奈美」
「美剣美咲ちゃんはしおりんの友達だよね?」
滝下浩毅は胸中の暗い感情を顔に出してしまう。金太郎はそれに気づいたが、そのまま気づかない振りをして、話を進める。
「彼女は、紫織くんが倒してくれた。そのお陰で被害は少なくて済んだ」
明樹保達が魔法少女として覚醒する前の出来事だ。
星村紫織が魔法少女として覚醒した時、側にいた友人がエレメンタルモンスターになってしまうという悲劇。彼女は友人を殺し、そしてその現場に運悪く駆けつけてしまったのが、滝下浩毅が指揮するタスクフォースの面々だ。
元々アウターヒーローに対して、いい感情を抱いていなかった彼の決断は早かった。
――抹殺せよ――
その指令を思い出し、彼は苦い想いを抱く。
「そして次が、桜木保奈美ね」
「それで最後に須藤直だ」
滝下浩毅は話を終わらせようと急ぐ。桜木保奈美に触れられないようにするためだ。
「いや――」
金太郎は話を終わらせない。
「――まだいるぜ。アネットだ」
滝下浩毅は十数秒ほど、思考が停止する。
「あのゲテモノも、最終的には超常生命体亜種一号と処理したけど、あれもたぶんエレメンタルモンスターからの超常生命体になったんじゃないかってのが、俺の予想」
「なるほどな」
内心、ほっと胸を撫で下ろすタスクフォースの司令官。
「そしてこれらに対しての対抗手段が殺すしかない。ということだ」
「忘れているぜ。直ちゃんの魔石を」
滝下浩毅はわかっているといい。面倒臭そうにする。
「救出手段は唯一、須藤直くんが残した《浄化》の魔石だけだ」
内心で時間制限ありだがな。と、彼は毒を吐く。
唯一の救出例が彼女である。白河白百合はその影響か、魔鎧をまとえるようになり、先の大戦で皆を手助けしたのだ。
「直くんの犠牲がなければ、助けられなかったというのは、少々皮肉が過ぎる」
「だからこそ、こうして情報をまとめているんだろう?」
滝下浩毅は弱々しく笑って、同意した。
~続く~




