旅立ち
ショウが目を覚ますと、ベットの上で寝ていた事を知る。周りを見渡すと、どうやら病院のような場所だと分かる。
窓の方には花瓶が置かれており、鮮やかな花が咲いていた。きっと、誰かがお見舞いに来ていた証であろうことがわかる。
ふと左腕を見てみると、そこには傷跡一つない左腕があった。ショウは何故左腕があるのだろうかと首を傾げたが、面倒なので考える事を止めた。
もう一度、ショウは寝直そうとした時、勢い良く上体を起こす。馬鹿なことを思い出したからだ。
(あああああああ!!! 俺ってば脱獄囚じゃん! 魔獣の件であやふやになってるけど、闘技大会の件はまだ終わってなかった! 不味い、不味い、不味い!!! 魔獣討伐でチャラになんて……ああ、もう! 逃げるか……! 逃げるしかない!! 逃げよう!!! どこか遠くへ!)
幸いなことに資金は沢山あるし、魔力も体力も完全回復してる。これならいつでも行けると判断したショウはベットから降りる。
正面から行くのは危険なのでショウは病室の窓を開ける。すると、見計らったようにタイミングよく病室のドアが開かれる。開いた先にいたのは様子を見に来た看護婦と思われる女性がいた。
ショウと目が合う。
「あっ、ども……」
「あ、あ、あ、ああああああ!?」
「やばっ!!」
看護婦が悲鳴を上げたので、やばいと思ったショウはすぐさまに病室の窓から飛び出す。
しかし、思わぬ事態が発生する。どうやら七階建てだったらしく想定していた以上に高い場所だった。ショウは最上階の部屋に入院していたようだ。
だが、止まれないショウは捕まりたくないという気持ちと彼女欲しさの強欲に身を任せて飛び降りる。魔法を駆使して器用に地面へと着地した。
ショウは直ぐに身体強化を施し全速力で森がある方角へと突っ走る。ショウの頭の中には、煩悩しかなかった。
真っ暗な空間で二人の人物が佇んでいる。
「どうしたんですか?」
「……」
「黙っていてはわかりませんよ」
「見ていたのだろう?」
「なんのことです?」
「惚けるな! 我の計画が失敗した所だ!」
「ふふっ。その事ですか」
「貴様、知っていたのでは無いか?」
「クフフフ……アッハハハハハ!」
「何が可笑しい!!」
「いえね、彼の事を思い出したんですよ」
「彼? 魔獣を倒した男のことか?」
「ええそうです。それにしても彼の底力は侮れませんねぇ」
「……」
「それにしても、まさか彼女が欲しいと叫ぶなんて。いやはや予想もしませんでしたよ」
「くっ……!」
「それにしても何故あそこまでして彼女が欲しいのですかね??」
「我の知ったことでは無い」
「おやおや、冷たい方です」
「ふん……」
「さて、彼はどこに向かうのでしょうかね? クフフフ……楽しみで仕方がありません」
真っ暗な空間にいた二人は、音もなくどこかへと消え去る。
「な、何ぃ!? 小僧が病院から逃げただとお!?」
ルドガーは部下の報告を聞き、つい大きな声を出してしまった。あれから一週間も寝ていたショウが目を覚まし病院から逃げたということに。
ショウは腹には風穴が開いていて血も流し過ぎていた。本当なら死んでもおかしくなかった怪我だ。
生きているたがまさに奇跡と言えよう。
だが、そのショウが目を覚ました途端に逃げたそうだ。何故逃げる必要があるのかはルドガーには分からなかった。
確かめようにもショウは逃げている。ただし、捕まえてもショウが逃げ出した理由を語るかどうかは分からない。
ルドガーは頭を抱えるだけで、何もいい案が浮かび上がってくることは無かった。
『えええーーーーーーっっっ!!!』
リズ達は全員驚きの声を上げる。
ルドガーに呼ばれて、来てみたら驚きの事実を告げられたからだ。それはショウが病院から逃げたこと。
全く以って逃げた理由が分からないリズ達は、ルドガーに尋ねる。
「理由はなんなんですか!?」
「それが何も言わずに逃げたそうだ」
「嘘……」
リズ達は余計に混乱する。誰にも何も言わずに逃げたというショウについて。本人に問い質したい所だけど、その本人がいないからどうしようもない。
「ショウちゃん。どこ行ったんだろうね~」
「ソフィ先輩。気楽ですね」
「セラはどこに行ったか見当つきます?」
「わからないかな……」
全員がため息をついてしまう。仕方がないことではある。ショウは知らなかったが、この場にいるほとんどの女性がショウを好意的に思っているのだ。
知っていれば、逃げ出す事などしなかっただろうが馬鹿なショウは勘違いにより逃げ出してしまった。悲しきアホである。
「ねぇ、みんな!」
「何ですか?」
「何~」
「何でしょう。リズ先輩?」
「ショウを捜しに行かない?」
その言葉に全員が固まってしまった。思わぬ反応にリズは戸惑ってしまう。良案だと思っていたのに、まさか何の返答もないとは思わなかったからだ。
『行くっ!!!』
どうしようかとリズが焦り始めた瞬間、固まっていた全員が行くと頷いた。パアッと笑顔を見せるリズ。
すると、今まで黙っていたルドガーが勢い良く立ち上る。
「なっ、セラ!! 小僧がどこに行ったかもわからないんだぞ?」
「それでも行きます!」
「ど、どうして?」
「それは……」
セラはリズ達の方をチラリと振り返る。リズ達はそれが何を意味するのかを理解している。だから、全員でルドガーへ一斉に告げる。
『好きだからですっ!』
ルドガーはその言葉を聞くと、まるで見えない何かに吹き飛ばされた。
「そんな……セラが……」
心ここにあらずといった具合にルドガーは壊れてしまった。
なにはともあれ、リズ達は仲間であると同時に恋のライバルとなる。絶対に振り向かせて見せる全員が意気込んでみせる。
大輝はショウ話をしに行こうとしたらショウが逃げたことを知る。沢山、話したいことがあったのにと大輝は落ち込む。
ちなみにショウの左腕は沙羅のスキルがレベルアップしたことで再生することができた。
大輝は沙羅達からいろんなことを聞いている。
それはあの骸龍との戦いで大輝が気絶した後、ショウに説教されたことだ。
その一件で沙羅達は自分達を省みて猛特訓をしたのだ。とは言ってもショウには遠く及ばないが。
そのことで謝罪も含めて話をしようと伺ったのだが、まさかショウがいないなんて少しも思わなかった。
ショウには返しきれない程の借りが出来てしまった大輝は、いつか必ずショウに追いついてみせると密かに誓った。
国境付近にまで辿り着いたショウはバイクを異空間から取り出す。誰も見てないのに、格好良くバイクへ跨るショウ。
「ブルンブルルン!! うはっ! テンション上がって来ましたよ! さぁ、どこへ行こうかな!」
ショウはバイクに跨り、颯爽と荒野を駆け抜ける。当てもない旅に一人出る。きっと、美女が自分を待っていると甚だしい勘違いをしながら。
改訂済み




