彼を思って
今、ルドガーは急いで学園へと向かっている。ルドガー達が学園へと向かっているのはたった一人で伝説の魔獣と戦っているショウを助ける為だ。
ショウは地下牢に捕まっていた。しかし、どう言うわけか脱獄しており、ルドガー達の元へと駆け付けてくれたのだ。
ショウはルドガー達の元へと辿り着くと魔獣と戦い傷付いた冒険者達を逃がす為に一人戦うことを決意したのだ。
かくいうルドガーも魔獣に一人立ち向かい、満身創痍となりながらも戦っていた。しかし、血を流しすぎた為に長期の戦闘ができなかった。
だが、ルドガーが退けば街に魔獣が向かい甚大な被害が出ることはわかりきっていた。ショウが来た時もルドガーは退くという選択がなかった。
しかし、ショウがルドガーに言い放った言葉は、一旦引いて回復をしろという言葉だった。
無論ルドガーは断った。だが、さらに衝撃な言葉をショウは言った。それは娘が心配している、と言うことだった。
それを言われたルドガーに戦闘を続けると言う選択はできなかった。
だからルドガーはショウを残して愛する家族がいる街へと戻ると同時に回復をする為に、退却したのだ。
だがそれが行けなかった。街には尋常では無い数の魔物が蔓延っていたのだ。最悪な事に戦える者はルドガー以外にはいなかった。
先陣を切り魔物の大群を相手にルドガーは向かって行った。後ろに続くのはリズ達を含めた冒険者達である。
全員がまともに走れる訳では無いのだ。あの魔獣により大怪我をしている者もいる。肩を貸さなければ歩けない者だっていた。故にルドガーしか戦える者はいなかった。
だから、例え血を流そうとも傷を負うとも歩みを止めることもせず魔物を倒して行った。
そして、ようやく街の中心部へ行くと、先程よりも魔物の数が多かった。
その中でも一際目立った場所がある。そこは魔物の数が他より多かったが魔物が一番倒されていた。
目を凝らしてそこを見る。そこにいたのは、ルドガーの友でありオルランド王国騎士団、団長ナイザーだ。自分と同じように傷を負うっている。
だが、それでも剣を振るうことを止めず魔物をどんどん斬り倒している。ルドガーはそれを見て負けていられないと思い、剣を握る力を強くする。
そして眼前にいる魔物の大群を薙ぎ払う。
大量の魔物が薙ぎ払われたことによりナイザーは目を見開く。その先にルドガーは立っていた。
「ルドガー!!」
「どうしたナイザー? 苦戦しているようだな?」
ナイザーはその言葉にきょとんとする。そして数秒後には笑い始めた。
「ふっ……ハッハハハハハ!!!」
「はは……アッーハッハハハハハ!!!」
戦場のど真ん中でお互いに笑い合う。周囲で見ていた者達は可笑しい事でもあったのかと首を傾げている。
「どうした、ルドガー。その様は?」
「そう言う貴様こそ情けないツラだな!」
「何を!?」
「やるのか!?」
ルドガーとナイザーは睨み合う。その間に魔物に囲まれてしまう。だというのに睨み合いを止めない二人。
そして、魔物が襲いかかる。
「邪魔を!!!」
「するなぁ!!!!」
二人はお互いに背後の魔物を剣で斬り殺す。そして互いに背中を合わせる。二人とも満身創痍だというのに、笑みを浮かべていた。
「久々の共闘だな」
「遅れるなよ!」
一気に魔物を倒して行く。魔物はどんどん数を減らして行く。お互い傷を負っているがそれを感じさせぬ動きで魔物を倒して行く。
圧倒的な強さに周囲の者は度肝を抜かれる。先程までの睨み合いはなんだったのかと疑ってしまう程に連携が取れている。これが王国最強の二人なのだと再認識した。
「フハハハハ。懐かしいなぁ!!」
「そうだなぁ!! 昔もこんな事があったな!!」
そして最後には大量の魔物の死体の上にルドガーとナイザーは立っていた。
周りを見てみると、いつの間にか魔物が全て倒されていた。その中には、まだショウと同じくらいの少年少女達の姿があった。
「ナイザー。あの子達は?」
「ん? ああ。彼らは勇者の子達だ」
「勇者……か。全員黒髪なんだな」
「そういえば勇者達は全員が黒髪だぞ?」
「黒髪か……確か小僧も……」
ルドガーが考え事をしていた時に住民達が集まってる所から声が上がる
「ルドガー!」
『お父さん!!!』
ルドガーを呼ぶ声は妻と娘と息子からだった。振り返ったルドガーは家族の無事に安心する。
「セリカ! マリー、セラ、マルコ!! よかった。怪我は無いのか? どこか痛い所は?」
「心配しすぎよ……私達が無事だったのはショウ君のおかげね」
「小僧が?」
「そうよ。お父さん。ショウが私達を助けてくれたの」
「そうだよ! ショウ兄凄い強かったんだよ!!」
「ええ。そのあとショウからこれを預かったの」
そう言ってマリーはある盾を取り出した。ショウに助けられた後は、この盾を使って身を守りながらここまで来たらしい。
「そうか……小僧が助けてくれたのか」
「お父さん! ショウさんは!?」
「今は一人魔獣と戦っている。ショウに言われて回復する為にこちらへと来たんだ」
「なっ……それじゃ今ショウさんは……」
誰一人何も答えることが出来ない。正直言うとショウが今も生きていることが信じる事が出来ない。
確かにショウは強くはなった。しかし、それでもあの魔獣は次元が違う。生きている保証はない。
「あのルドガーさん!!」
「ん? リズくんか」
「私達も傷を癒して貰ってショウの援護に行かないと!」
「ああ。わかっている。ナイザー!」
「なんだ?」
「お前も来てくれるか?」
そう言うとナイザーは周りを見渡す。ナイザーは他の騎士を呼ぶと、この場を任せるように指示する。
「私も行こう。娘も心配だしな」
「お、お父さん!!」
ナイザーはリズをからかい、リズは少し恥ずかしそうにしている。
「あの!」
後ろをから声を掛けられ、振り向くとそこにはショウの知り合いであるクルト夫妻がいた。
「君は確かクルトさんだったかな」
「は、はい!」
「それは??」
「これは彼から受け取った盾です」
「そうか」
「彼に恩を返したいんです。僕も連れてってはくれませんか!?」
「……それは」
「私からもお願いです!」
クルト夫妻が頭を下げる。だがこの夫婦を連れて行くわけには行かない。しかし、ルドガーは連れて行くことを決めた。
「わかった。だがひとつだけ約束してくれ。危険だと判断したらすぐに逃げ出す。それだけだ!」
「は、はい!!」
クルト夫妻は再び頭を下げる。
ルドガーは傷を回復してもらう為に回復魔術師がいるであろう住民達の元へと歩く。
「すいません!!」
だが途中で声を掛けられ立ち止まり声を掛けられた方へと顔を向ける。
そこにいたのは黒髪の少年少女達とクリス王女だった。確か、この子達は先程魔物相手に戦っていた子達だ。
「俺達も連れて行って貰えませんか?」
「君達を?」
「はい!!」
「……君達は小僧、いやショウのなんだ?」
「俺たちは……彼の友達です!!!」
「そうか。わかった。付いて来るがいい」
「ありがとうございます」
その少年少女達は頭を下げる。正直言うと彼らが本当に友達かは確証はないが彼らの目を見たらルドガーは断れなかった。
ルドガーはそのあと彼の仲間である少女により完全回復をした。こんなスキルは見たこと無かったが、これが勇者の力だと言うことを思い知った。
ショウを思って大勢の人が集まった。ルドガーとナイザーを先頭に学園へと向かう。
改訂済み




