パーティに参加
「すいません。お見苦しいところを何度も」
「ハハハ。悪い気はしていないさ。私の為にあれ程、涙を流してくれたんだからね」
「うぅ、出来れば忘れて欲しいような、忘れて欲しくないような」
「ハハハハハ。それは無理な相談だ」
その後も他愛も無い話を続けていたら、外で待っていた使用人が扉の向こう側から声を掛けてくる。
「そろそろお夕食の時間です。お楽しみの最中に申し訳ありませんが」
「え……?」
しまった!
城でパーティがあるんだった!
ソニアさんと話してたらすっかり忘れてた!
「どうしたんだ? そんな真っ青な顔をして」
「いや、実は城で開かれるパーティに呼ばれてたんです。だから、もう戻らなきゃ間に合わないかも……」
「それなら、急いだ方がいいかもしれないな」
「すみません。それじゃ俺は――」
「待ちたまえ。私も着いていこう」
「え?」
「不思議そうな顔をしないでくれ。こう見えても私は王城への出入りは許可されているんだ。だから、今回のパーティにも参加できる」
「いいんですか?」
「まあ、行けばわかるさ。さあ、準備をするかる少しだけ待っていてくれ」
「ああ、はい」
訳の分からないままソニアさんを待つことになった。準備が出来たソニアさんは白衣ではなくドレスに着飾っていて、言葉では言い表せないほどに綺麗だった。
「どうした? 見惚れているのか?」
「う……はい」
「ははは。素直だね。それよりも急がねばならないのだろう? 君なら間に合うんじゃないのか?」
「まあ、本気を出せば余裕かと」
「なら、よろしく」
「へ?」
いきなり、抱っこの要求をされるものだから思考が停止してしまった。確かに俺がソニアさんを担いで走った方が断然速いが、今のソニアさんの格好は刺激的すぎる。
「え、あ、いや、え?」
「ほら、早く私を抱っこでもおんぶでもお姫様抱っこでもいいから担ぐんだ」
「い、いいんすか?」
「いいに決まってるじゃないか。早くしないと本当に間に合わなくなってしまうぞ」
「わ、わかりました。それじゃ、失礼して」
思わずお姫様抱っこを選択してしまった。おんぶにしておけばよかったと思うが、ドレス姿のソニアさんを見ておんぶと言う選択肢は俺には無かった。
「ほほう。お姫様抱っこか。初めてされるが……うん、悪くない」
その笑顔は反則でしょう!!
くそ!
可愛いな、ちくしょう!
「ちょっと、本気出すんでしっかり捕まっててくださいね」
「うん。しっかり抱きしめててくれ」
「っ~~~!」
敵わないなと顔を真っ赤に染めた俺はソニアさんを抱えて地面を蹴った。街中を駆け抜けるより、空を駆けた方が圧倒的に早いので俺は障壁を足場にして空を駆ける。
「おお~! 凄い凄い! このような芸当が出来るとはやるじゃないか!」
「舌噛むんで喋らない方がいいですよ」
「ふふっ。気付いてないと思っているのか? 私を気遣って障壁を張って風除けをしているんだろ。それにさっきから全く揺れていない所を見ると大分私の安全を考慮してるんじゃないかい?」
「……」
「はははは。照れるな、照れるな」
図星だったので恥ずかしさに、また顔を真っ赤に染めてしまう。ご機嫌なソニアさんは笑いながら俺の頬を指で突いて来る。
そうこうしている内に城にまで辿り着いていた。城門の前に降りると、門番達が驚いていた。最初は警戒されたが俺とソニアさんと分かると、すぐに中へと通してくれた。
俺とソニアさんは聞いていたパーティ会場に向かう。
「君はその格好でいいのか?」
「あー、いいんじゃないんすかね?」
「私は構わないと思うが中には口うるさい輩もいると思うぞ」
「んー、今回だけなんで別にいいでしょ。今後関わらないようにすればいいんですし」
「それもそうか」
俺とソニアさんが会場の前に着く。扉の前には警備兵がいたけど、俺とソニアさんの顔を見たら中へと案内してくれた。
ついでに、ヴァルキリアのメンバーは既に会場内にいることを教えてくれた。親切で有り難がったのだが、怒っていないか不安である。一緒に観光していたのに俺はソニアさんに会いにいったのだから。
「ん? どうした、こちらを見て?」
横にいるソニアさんを見ていたら、俺の視線に気がついたソニアさんが可愛らしく首を傾げる。可愛らしい一面を見てしまい、思わずそっぽを向いてしまった。
「いえ、なんでもないです」
「そうか? それより、ほら。国王陛下に挨拶をしに行こうか」
「うっす」
俺とソニアさんが会場内を歩いていると、視線が集中する。俺の格好が目立っているのかと思えばソニアさんに視線が注がれていた。
「ソニア」
「久しいな。元気にしていたか、ニルナ?」
「貴方の方こそ。それにしても珍しいわね。貴方が来るなんて」
「なに、彼がいたからだよ」
なんとソニアさんはニルナさんと知り合いだったのだ。さっきから周囲の人がソニアさんに注目していたのは、ニルナさんの言うように珍しい客だったからだろう。
「彼って……ああ、ララちゃんを護衛してくれた冒険者の」
「知ってるかと思いますけど、ショウって言いいます」
「ええ。ゼオンから話は聞いています。それより、ソニアとはどういう関係なのかしら?」
「いっ……それは――」
返答に困っていたら、ソニアさんが腕を絡めて密着してきた。突然の事でパニックになった俺を差し置いて、ソニアさんはとんでもない事を言う。
「こういう関係さ!」
「まあ……!」
ニルナさんから見れば恋人同士にしか見えないだろう。俺は誤解を解こうと必死に試みる。
「いや、ちが、あの、これは」
だめだ。
上手く言えない!
「ふふ。そんなに慌てなくてもいいじゃないか」
「おめでとうと言えばいいのかしら?」
「ちが、俺とソニアさんはまだそんな関係じゃ」
「まだ!? つまり、ショウは私とそういう関係を望んでいると言う事か?」
「そ、それは! 言葉の綾で!」
「まあまあ。ふふ、奇人と言われていたソニアにも春がやってくるのね」
ヒートアップしていく二人に翻弄される俺は、もう会場から逃げ出したいほどだ。誰でもいいから、この状況をどうにかして欲しい。




