罠に掛かる
旅は順調に進み、アルカディアの関所前まで到達していた。道中、魔物に襲われる事もあったが難なく撃退し、一度も苦戦することなく進んでいる。後は関所を越えてアルカディアを目指すのみ。
今回は何事もなく無事に終わりそうだ。前回は最終日にノウェムが襲い掛かってきたけど、今回は干渉してこないから安心して旅を続けられる。
だが、その事実に油断していた俺は足元を掬われてしまう。
「こ、これは!!!」
「わぁ~捕まっちゃったあ~」
「何を呑気に言ってるんですか!」
「なに、これ……!?」
前回と同じように罠を仕掛けえられており、捕縛用魔方陣に引っ掛かってしまった。すると、木の陰から大勢の男達が姿を見せる。
「へへ。久しぶりだな~お嬢ちゃんたち」
「あ、あんたは! 王都でララちゃんを攫おうとしてた!」
「覚えててくれたか~! あの時はよくもやってくれたな?」
「はあ? あんた達がララちゃんを攫おうとしたのが悪いんじゃない! 逆恨みなんてされる筋合いはないわよ!」
「そうかもな。だが、商売を邪魔されちゃこっちも黙ってられないんだよ」
「人身売買は禁じられているはずです! 犯罪を取り締まって何が悪いんですか!」
「正論なんて聞いちゃいねえんだよ。俺達の邪魔をしたから仕返しに来ただけさ」
「執念深い男は嫌われるよ~?」
「ははは! おい、女はいつも通り遊んだ後、売り飛ばせ。ガキは傷つけるなよ。価値が下がるからな。男の方は殺せ」
どうやら、四人は目の前にいる男達と面識があるらしい。会話を聞く限りだと、王都でララちゃんを攫おうとした奴隷商あたりだろう。
前回はのノウェムが手を回していたが、まさか今回は直接的に関係していたようだ。流石に予想できなかった。
しかし、今の状況は非常に危険である。捕縛用魔法陣は魔法が使えない上に光の紐で身体を縛られている。しかも、上手く力が入らないので成す術もない。
まあ、俺には効かないけどね!
武神と気功術舐めんな!
冷静に相手を観察しながら、どのようにしてこの状況を打破しようかと考える。出来れば、目立つような事は避けたい所だけど、今回は油断していた俺が悪い。
馬鹿、俺の馬鹿!
自分を責めても状況が改善されるわけも無いので、しばらくは様子見である。
「ひ……っ!」
俺の側にいたララちゃんが小さく悲鳴を漏らした。振り向いてみるとガタガタと震えている。そして、助けを求めるように俺の目を見上げた。
黙ってるわけにはいかないよな。
「大丈夫。安心して。必ず俺が助けるから」
「ショウ……」
俺の言葉に安心したのかララちゃんの震えが治まった。俺は期待に応えるべく動き出そうとする。
「はははっ! こいつは勇ましい! 自分の立場を見てみろよ! どうやって助けるって言うんだっ!!!」
どうやら聞かれていたらしい。目の前にいた男が笑い声を上げた後、不愉快そうに俺へ向かって声を荒げる。
「そうだな……こうやってだ」
拘束していた光の紐を力任せに引き千切って見せた。その光景が信じられなかったのか男はあんぐりと口を開けている。
「な、え、あ?」
「そんな馬鹿な! 身体強化も使えない上に身動きも取れなくしていたんだぞ! それにSランク冒険者だって捕まえる事が出来るほど強力な魔法陣なのに!」
呆けている男に代わって、如何にも魔法使いといった風貌の男が喚いている。残念ながら、気功術には対応していなかっただけなのだが説明する暇は無い。
「悪いが速攻で終わらせる。誰一人逃がしはしない」
「あ、ぐ……くそぉぉぉおおおお!」
自暴自棄になった男達が俺に向かって来る。逃げ出さない所は評価してあげるが、容赦はしない。
「ふう」
僅かな時間で男達を気絶させてから一息つく。これから、どうやって言い訳をしたらいいかと考えると憂鬱である。
「な、ななな!?」
「えっ? え?」
「わぁ~! すご~い!」
「凄い、ショウ!」
四人の方へと振り返り、親指を立ててニッと笑って見せた。そのあと、四人を解放したら怒涛の質問攻めだった。
「ちょっと! どういうこと? 確かに捕縛用魔法陣に縛られてたわよね!? あの男達が言うようにSランク冒険者でも抜け出せない程の力があったのになんで!?」
「ショウさん。私との模擬戦は力を抜いていたのでしょうか!?」
「キアラ~今それ聞くの?」
「ショウは凄い強いの?」
「いや、まあ、色々とありまして」
「色々ってなによ? 私たちにも話せないわけ?」
「そういうわけじゃないんですけど。今は俺なんかより、あいつらをどうするか決めましょうよ」
話題を逸らすように奴隷商である男達に指を向ける。四人も釣られて男達の方へと顔を向けて、憎悪を露わにした。
「そうね。あの屑共の始末をしなきゃね」
「ええ。一切の慈悲はありません」
「これ以上、犠牲者を出さない為にはしっかりやるべきだね~」
恐らく三人は殺す気満々だ。俺は特に反対ではないけどララちゃんはどうするのだろうかと顔を向ける。
「いいの?」
「……どうにか出来ない?」
「俺としては三人と同意見だよ。ララちゃんもあの男達の話を聞いてたよね。だから、きっと罰を受けなきゃならないんだ」
「殺す以外に道はないの?」
「……兵の監視下で重労働とかが無難かな?」
パアッと明るくなるララちゃんだが、俺はすぐに暗くなる事を述べる。
「でも、それじゃ被害に遭った人達が許すかどうかだけどね」
「あ……」
「今回は三人が許さないみたいだから、止められない」
優しいだけじゃダメなのよ。
現実って辛いね!




