漲る力
三人で連携して攻めるも圧倒的な実力差である為、呆気なく三人纏めて殴り蹴られ腑行き飛ばされる。
「ぐはっ……!」
「うぐ……!」
「ぎゃ……!」
俺が壁にめり込み、タカシ君は床を転がり、桐谷は瓦礫に突っ込む。壁から抜け出そうとしていたら、サイファは俺を標的にしており物凄い速度で突っ込んでくる。
寸前のところで壁から抜け出してサイファの攻撃を避けると、すかさず魔法を撃ち込む。連発して爆煙がサイファの姿を掻き消す。あの程度で死ぬような相手ではないので周囲を警戒すると天井を突き破ってサイファが現れる。
上から降ってくる瓦礫をよそにサイファと殴りあう。数瞬殴りあっていたが、すぐに殴り飛ばされる。俺が殴り飛ばされた瞬間、入れ替わるようにタカシ君がサイファに突っ込む。
しかし、タカシ君も俺と同じように数瞬は渡り合えるが続かない。蹴り飛ばされて、起き上がろうとしていた桐谷とぶつかっている。
「でやああああ!!!」
気合一閃とばかりにサイファへと近付き腕を振るうが空を切る。しゃがんで避けたサイファに腹部を打ち上げられる。
「ぶっ……!」
「ふん!」
そのまま天井に殴り飛ばされた俺は天井を突き抜けて、放物線を描きながら瓦礫の山に落ちる。瓦礫をどかしながら立ち上がろうとしているとサイファがこちらに向かってくる。先程の攻撃で上手く立ち上がれない俺は成す術も無い。
だが、そこにタカシ君が俺とサイファの線上に割り込んでくる。勇ましく見えたタカシ君がサイファとぶつかり合う。一瞬の攻防であれどタカシ君が稼いでくれた時間のおかげで俺は瓦礫の山から脱出できた。
床に叩きつけらるタカシ君を心配しながらもサイファに立ち向かう。俺とサイファがぶつかり、格闘しているところに魔法が飛んでくる。それは、見事に俺とサイファが離れた一瞬の隙を突いてサイファに当たる。
雷の魔法だったので僅かにサイファの動きが遅れる。流石に麻痺はしなかったがそれで十分である。
「がああああああ!!!」
全力でサイファの顔面を殴りつけて吹き飛ばす。瓦礫の山を吹き飛ばしてサイファが飛んでいく。そこに俺は魔法を浴びせる。さらに俺だけでなく復活していたタカシ君と先程ナイスアシストをした桐谷も加わって魔法を浴びせる。
どれだけ撃ったか分からないが、少しはダメージが入ってるだろうと期待する。だが、その期待は簡単に打ち砕かれる。
「少し、服が破けてしまったな」
土埃を払いながら煙の中を歩いてくるサイファを見て挫けそうになる。本当に勝てるのかと。どうやれば勝てるのかと。
「化け物かよ……」
「そんな、あれだけの魔法を受けて無傷だなんて……」
俺と同じような感想を垂れ流す二人。どうやら、二人もかなり精神的にきているようだ。だけど、諦めてるわけではなさそうだ。
そうだよな。
俺も負けてられないな。
もう一度、力を込めて拳を握り直そうとした瞬間膝から崩れ落ちた。力なく俺は床に前のめりに倒れる。
「は、れ……?」
「お、おい! どうした!?」
「大丈夫か!?」
まさか、そんな……
まだ一時間は経ってないだろ!
なんで動けないんだ!!
「ん? 限界が来たのか?」
限界?
馬鹿な!!!
検証したから一時間は間違い――
いや、待て。
覚醒を使用してここまで戦いはしていない。
つまり、あくまで覚醒は一時間だが激しい戦闘で使用すれば制限時間は変動するのか!?
不味い、不味い、不味い!!!
「くそ! おい、返事しろ!!」
「すまん。スキルの反動でしばらく動けん」
「なんだと……っ!」
「そ、それでどのくらい動けないんだ?」
「十分ほどだ」
「じゅっ!?」
「つまり、その間は全くの無防備って訳か」
「ごめん……」
十分という時間はサイファ相手にとっては絶望としか言いようがない。驚く大輝に歯噛みするタカシ君。二人は俺を守るべくサイファへと立ち向かう。
「なんとか稼いでやるって言いたいが悪いけど多分無理だ」
「俺も頑張るけど……ごめん」
申し訳なさそうに謝る二人だが、謝らなければいけないのはこちらである。今の状況で一人でも欠ければ相当キツイのに俺が真っ先にぶっ倒れてしまったのだから。
「三人がかりでも私に傷一つ負わせられないのに二人だけとは。しかも、ショウが抜けた状況では万に一つの勝ち目もないぞ」
「やってみなきゃわかんねえだろうが!!」
突っ込むタカシ君は殴られ蹴られながらも粘り強くサイファと戦い続ける。元々ボロボロだったのに拍車をかけて傷つきボロボロになっていく。そんなタカシ君の健闘が実を結びサイファを羽交い絞めにした。
「今だ。桐谷!!! 俺ごとこいつを消し炭にしちまえ!!」
「貴様! そんな事をすれば貴様も死ぬんだぞ!」
流石のサイファもこれには驚いたのか慌てたように声を出す。
「俺は一日に一回だけなら死んでも蘇れる! だから、遠慮なんかいらねえ。やれ、桐谷ぃ!!!」
「なぁっ!?」
タカシ君の言葉に桐谷は覚悟を決めた。桐谷の方から魔力の奔流が吹き荒れ、桐谷の頭上に太陽を思わせる火の玉が出現する。
「手加減はしないよ」
「馬鹿が! さっさとやれ!」
「や、やめろおおおおお!!」
極大の炎がサイファとタカシ君を包み込む。そして、大爆発を起こして消える。爆風により俺は吹き飛んでしまい、どうなったかわからなくてキョロキョロと目を動かす。
「私の演技も中々のものだろう?」
「あ、あぁ」
炎に飲み込まれて消えたと思ったサイファは生きており、桐谷の首を掴んで持ち上げていた。その光景に俺は目を疑った。先程の魔法は俺の目から見てもとんでもない威力を秘めていると分かった。
それをまともに受けて傷一つないなんて目を疑うしかないだろう。いけ好かない桐谷ではあるが今は共に命を掛けて戦う仲間だ。なんとかして助けに向かおうとするも身体が動かない。
くそ!
どうして!
「うおおおおおお!!!」
タカシくん!?
もう蘇ったのか!!
サイファと共に魔法を受けたタカシ君は一度死んだだろう。傷一つない身体になっており雄叫びを上げながら桐谷を助ける為にサイファへと走る。
「なるほど。一度死んで蘇ると傷が全快するのか。便利なスキルだが先程の説明によればもう死ねぬだろう?」
「っ……」
「馬鹿め、怖気ついたか!!」
「ぐわぁっ!!!」
死というワードにタカシ君は思わず足を止めてしまった。一度死んでしまったからもう彼には後がないのだから怖気つくのも無理はない。動きが止まったところを狙われてタカシ君はサイファの魔法で吹き飛ぶ。
そして、サイファは桐谷を無造作に投げ捨てると俺の方へと向かって歩いて来る。
「他愛もないな。お前に止めを刺せば地上の勇者達も崩壊するだろう。これで幕引きだ」
ここまでなのか……!
ここで終わりなのか!!!
まだ俺は戦える!
頼むっ……!
もうどうなったって構わない!!!
俺の命も魂も想いも全部くれてやる!!!
だから、今だけ戦う力をくれよぉ!!!
願いが通じたのか動けないはずだった俺の身体に今まで感じたことのない力が溢れ出す。その力は俺の身体に収まりきらず光の柱となり天へと昇る。
ああ、そうだ。
この世界はいつもそうだったな。
願えば力になる。想いは形になる。
「なんだ、何が起こったのだ!?」
うろたえるサイファに俺は漲る力を込めた拳で殴り飛ばす。
「限界突破。これが俺の新しいスキルだ」
不定期更新ですがよろしくお願いします
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