主役は遅れてやってくる
視点変わります
「一体、何者だ!?」
そう言われても答え難い。いや、ここで全部バラらしてもいいんですけど、もう少しだけカッコつけたい。
最高のシチュエーションなんだから最高の見せ場を演じたい。だけど、困ったことにどういう感じが一番かっこよく見栄えするのだろう。
やはり、委員長が自然に気付く方か?
それとも自分で正体を明かしたりとか?
うーん……
決めた!!!
俺は委員長を離れた場所に避難させると、喚いているアルファに向かう。事前にマーニから情報を貰っているのでどういう状況かは分かっている。
さて、俺の大切な人達を傷つけた罪を償ってもらおう!!
「速い!」
「しっ!」
上段蹴りで側頭部を狙ったがアルファに防がれてしまう。だからといって攻撃の手を緩めるわけは無く蹴り技でアルファを攻め立てる。必死に俺の蹴りを防いだり受け流したり避けたりとしているアルファだが徐々に余裕がなくなってきている。
「くっ!? これほどの使い手がまだ残っていたのか!」
「吹き飛べ」
「ぐわぁっ!!」
体勢を崩した所に蹴りを入れてアルファを吹き飛ばす。追撃はせずに委員長のところに戻ろうとしている所にアルファが起き上がり俺のほうに向かってくる。
待っていたぜ!
さあ、本気で打ち込んで来い!!
「相当な実力者だ。だが、私はサイファ様に造られた至高の兵器! あの程度ではやられはせん!」
「……」
そんな事を垂れながら猛攻を仕掛けてくる。派手な演出の為に俺はワザと攻撃を掠らせる。元々、ボロボロだったフードがさらに破けていき、最後は散り散りに風に流され消える。残ったのは顔を包帯でぐるぐるに隠した俺だけだが、その包帯も千切れ始める。
「どうした! 少し本気を出したらこの程度の攻撃も満足に避けられないか!」
どうやら、アルファは俺が演出の為にワザと攻撃を受けている事に気付いてない様子だ。マーニからの情報だと体術ではリュウホウ師匠に劣っていたというから気付かなくて当然か。
千切れて始めていた包帯もいよいよ終わりのときを迎えるのかと感慨深く見守っていると、アルファが今まで以上に攻撃の速度を上げた。
「その鬱陶しい包帯ごと顔を切り裂いてやる!」
ズバババッとうい効果音が聞こえてきそうな程の手刀を連続で振るってきた。大きく飛び退いて委員長の前に着地する。すると、顔を覆っていた包帯がビリビリと破けて地面に落ちる。
アルファの野郎!
俺じゃなかったらホントに顔面ごと八つ裂きになっていたところだぞ!
まあ、結果的には最高の演出になったからいいんですけど!
「あ、あぁ……そんな嘘。だって、だって、貴方はあの時……」
「死んだと思った? 悪いけど悪運の強さじゃ誰にも負けないよ」
後ろにいる委員長に顔を向ける。顔を向けた先には何故か涙を流している委員長の姿があった。戸惑う事はあっても泣くことはないんじゃないかなと困惑しつつも決め台詞を言う。
「主役は遅れてやってくる。なんてね!」
かっこよく決めるつもりだったけど、委員長を前にして急に恥ずかしくなったので最後に一言付け足しておちゃらけた。
「貴様は勇者ショウ!」
「はい。ご名答。そんで今はバイバイだ!」
「ごっ!?」
アルファでさえも知覚できない速度で近付き殴り飛ばす。遥か彼方とはいかないけど目に見えない距離までは吹き飛んだ。しばらく、時間が出来たので委員長の元へ向かいこれまでの経緯を話すことにした。
▼▽▼▽
「……っ!?」
目が覚めたら水の中にいた。正確に言えば何かのカプセルのような物の中にいる。息を吐いたらゴポリと気泡が上に昇っていく。しばらくすると、マーニが現れる。目が合うとマーニは口元を手で隠し震えてゆっくりと俺のほうに近付いてきた。
「私の声が聞こえますか?」
返事が出来ないのでコクリと首を縦に振ると、マーニは喜びの声を上げるとすぐに俺をカプセルの中から出してくれた。
「よかった。本当によかった」
「えっと……何が起きたか教えてくれる?」
「はい。貴方が意識を失っている間に今世界で何が起きているか全てお話します」
マーニに説明してもらうと俺は運よく魔方陣から逃れる事が出来て助かったらしい。しかし、ブラックリミナーレは消えず連合軍が混乱しているときにサイファと名乗る男が現れた。サイファ曰く世界の記憶を改竄した上にブラックリミナーレを生み出したのは自身だということ。そして、一ヶ月後に世界を滅ぼすと宣言して消えたらしい。
それで、今は既に宣言から二十日経ってるらしく期限まで残り十日しかない。その間に勇者達ことクラスメイトがリュウホウ師匠やアイリス、アテナに鍛えてもらっているとのこと。
「どこでこれだけの情報を仕入れてくるの?」
「小型のカメラをイスカンテ内部に潜入させてますから」
「なる……ほど?」
プライバシーの侵害じゃね?
「なにか変なことを考えていませんか?」
「いや、何も。ただ、なんで潰れた目が治ってんのかなと考えていたんだ」
「ああ、それならこちらの方で判断して治しておきました。片目だと不便かと思いまして」
「傷は男の勲章なのに……」
「そうかもしれませんが、普通に考えれば両目があったほうがいいですよね」
「まあ、はい。仰るとおりで」
何も言い返せない俺は縮こまるばかりである。やはり、どこへ行ってもヒエラルキーのトップにはなれないのだろうか。
なんてことを考えているとマーニから提案が出される。
「他の方々も訓練をしてらっしゃるので貴方もどうでしょうか?」
「俺も? う~ん、今の俺レベルだと相手がいないな……」
「一つだけあります」
「え? マジ?」
「はい。ただし、こればかりはあまりお勧めすることが出来ません。何せ、先代勇者の方々が面白半分でお作りになったものですから」
「めっちゃ気になるけどなにそれ」
「戦闘シミュレーション、対決ザ俺たち」
「だっさい名前だな!」
「仕方がありません。深夜テンションで作ったと言ってましたから」
「納得の理由だった。それで肝心の内容は?」
「簡単に言いますと先代勇者達と戦うだけです。ただし、覚悟していてください。本人たちもやりすぎたというくらいの代物ですから」
こうして俺は先代勇者が深夜テンションで作り上げたとされる戦闘シミュレーションを用いて修行することになる。
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