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アホで不憫な彼は異世界で彼女を作る為に奔走する  作者: 名無しの権兵衛
最終章 彼の願いは

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最後の戦い

 結果から言うと四日目の戦闘は惨敗に終わった。タカシ、大輝、剛史の三人を筆頭としたグループはほんの僅かな時間で戦闘員が戦闘不能になった。



 一番最後まで戦っていたのが一真であったが、その一真も負けてしまった。詩音が一真が戦っている場所に向かっている時、一真が空から降ってきたらしく大怪我を負い戦える状態ではなかったらしい。



 そんな状態でもスキルの副作用により暴れ回ったが詩音のスキル【歌姫】により沈静化した。詩音が持つスキル【歌姫】は歌により様々な効果を与える能力で、その中には対象を沈静させる効果を持つ歌があるのだ。故に、一真と詩音は組まされていた。



 今、クラスメイト達はイスカンテに戻り夕食をとっている。怪我こそしたがスキルにより身体に怪我の跡を残す事はなかった。そんなクラスメイト達の雰囲気はお通夜状態だ。



 それもそのはず。威勢よく吼えていたが、誰も彼もがたった四人に成す術も無く負けたのだから。しかも、最後にはサイファから明日終わらせると告げられていたのだ。



 暗い表情ばかりで碌に飯も食べられない。話す余裕すらなく、出された食事を前にクラスメイト達は沈痛な面持ちであった。



「明日……死ぬのかな」


「っ!?」



 誰かがぽつり零した言葉にクラスメイト地は過剰に反応する。肩を震わせて、ただ俯くばかりである。



「……多分、死ぬだろう」


「福田っ!?」


「今更だろう? これはそういう戦いだったはずだ。もう俺たちに選択肢は残されちゃいないんだ。戦って死ぬか、何もせず殺されるかのどちらかしかな」


「その通りね。わかってるとは思うけど明日は最後の戦いになるわ。だから、提案があるの」



 タカシがクラスメイト達に語り掛けて優衣が提案を出す。その内容にクラスメイト達は戸惑う事になり悩む事になる。



「明日の戦いに参加したくない人は陣内先生の所に行って。ただ、サイファの言葉通りなら世界は滅ぼされちゃうから、あんまり意味が無いんだけどね」



 苦笑いで言っている内容が本当に苦笑いしか出来ない。どの道、死ぬけど戦って死ぬか、何もしないまま死ぬかの違いなだけで大差はない。ならば、答えなど決まっているようなものだ。



「最後まで戦うよ」



 皆の答えは一致した。嫌々な顔をしている者も多少はいるけど、何もしないまま死ぬよりはマシだと思っていた。



「みんな……じゃあ、明日に備えて沢山食べて寝ましょ!」



 沢山食べた。沢山笑った。途中、涙が流れたけど笑って誤魔化した。震えていたけど武者震いだと強がった。



 そうして、最後の晩餐を済ませて勇者達は眠りに着く。明日、死ぬことになろうとも最後まで諦めずに戦うことを誓って。



「……」


「タカシ様。眠れないのですか?」


「……ああ」


「子守唄でも歌ってあげましょうか?」


「……抱きしめてくれ」


「え?」


「だから、抱きしめてくれ」



 自室に戻ったタカシは早めに就寝したのだが、眠気などなく寝ることが出来ないでいた。そんな時、一緒のベットで寝ていたエレノアが茶化すように声を掛けてくる。しかし、タカシの返しに茶化していたエレノアの方が焦りだす。



「え、えっと、では失礼して」



 焦ったもののエレノアはタカシを抱きしめる。すると、タカシもエレノアを抱きしめた。



「ひゃっ! タカシ様!?」


「明日、死ぬかもしれん。いや、多分死ぬ。だから、最後にエレノアの温もりが欲しかったんだ」


「タカシ様……最後まで貴方のお側にいさせて貰ってもよろしいですか?」


「駄目だ。いて貰いたいけど俺は最前線で戦う。だから、エレノアは――」



 タカシは最後まで言い切れずエレノアによって唇を塞がれてしまう。



「んぅ……タカシ様は分かってませんね。私もタカシ様と同じ気持ちです。だから、どうか最後くらいはお側にいさせてください」


「エレ……ノア……」



 夜だというのに輝かんばかりの笑顔を浮かべるエレノアを見てタカシは涙が溢れてくる。出来るならば守ってやりたかったと嗚咽を漏らしながらエレノアの胸の中でタカシは涙して、眠りに着く事になる。



 場所は変わり天空の城ではサイファが優雅に酒を楽しんでいるところだった。サイファの眼前に跪く四人を見ながらサイファはグラスに入った酒を飲み干した。



「さて四日間にも及ぶ戦いご苦労であった。明日はフィナーレだ。存分に楽しんできてくれ。もしかすると死に際に強くなるかもしれんから、案外もっと楽しめるかもしれないな」



 うっすらと笑みを浮かべるサイファは明日の戦いを楽しみにしていた。出来れば、もうすこしだけ刺激が欲しかったところだが所詮はこの程度と割り切り、夜が明けるのを待つ。



 そうして、時が経ち夜が明ける。日が昇り、世界最後の日が訪れる。勇者達クラスメイトがいつもの場所にいつものように向かう。



「みんな! よく寝たか? ちゃんと朝飯食ったか?」


『鉄人!!!』



 誰よりも先にいつもの場所、防壁の上にいたのは担任の教師陣内鉄也であった。



「私は君達に何もしてやれない。君達を見送ることしかできない、不甲斐無い先生だ。もしも、私の命でみんなを救えるなら救いたい。だが、向こうは聞く耳持たないだろう。だから、どうか言わせてくれ。君達のような素晴らしい生徒を持てた事をありがとう、と」



 頭を下げる鉄人にクラスメイトはどう答えればいいかわからないでいる。戦争に行く人間の気持ちなんて一生分からない場所にいた彼等は戸惑いながらも鉄人に答えた。



「私達のほうこそ最後まで付き合ってくれてありがとうございます。出来る事ならみんなで生きて祝勝会とかやりたいですね」



 クラスの代表である委員長の言葉に鉄人は涙を堪え切れず教え子達の前で号泣してしまう。これから死地に向かおうとする教え子達に何も出来ない自分が憎くて悲しかったから。



「卒業式みたいだね」

「はは、この世からってか」

「物騒な卒業式だな」

「卒業旅行は天国です! なんてね」

「笑えないな~」



 愉快に笑ったクラスメイト達の視界に映るのは天空の城。そこからブラックリミナーレが溢れ出して来る。きっと、昨日戦った四人もいるのだろう。



 五日目、最後の戦いが始まる。



次回更新は月曜日にします

ここまでお読み頂きありがとうございます

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