闘神リュウホウ
時は遡り、リュウホウとアルファが激しい戦闘を繰り広げている。リュウホウはアルファに近付き接近戦に持ち込もうとするが、アルファは距離を取り魔法で戦う。
魔法が使えないリュウホウにとっては苦しい展開となってしまっている。魔法を掻い潜り、懐に侵入して拳や蹴りを打ち込んでもアルファに上手く避けられてしまい決定打に欠けていた。
アルファに魔力切れがあれば勝ち目は見えてくるのだろうが、先ほどから強烈な魔法を乱発してきている。だから、リュウホウは魔力切れを狙うことを諦めた。
しかし、勝つことを諦めたわけではない。魔法が使えずとも己の肉体が無事な限りリュウホウは戦い続ける。今までだってそうしてきたのだから。武術に全てを捧げて【武神】という規格外なスキルを発現させ魔法使い達を打ち破ってきたのだ。
ならば、やることなど一つしかない。持ち得る全ての武を叩き込むだけだとリュウホウは小さく笑う。
「ふんっ!」
「くっ!? とんでもない威力だな」
音すら置き去りにするリュウホウの拳がアルファの魔法を掻き消した。ギリギリのところでアルファは避けるがあまりの威力に目を瞑る。
その一瞬の隙を狙い、アルファの眼前にリュウホウは飛び上がり連続で拳を放つ。連打を障壁で防ぎつつアルファはリュウホウから距離を取り、魔法を連続で放つ。
空を飛べないリュウホウは自然落下をしながらも魔法を弾き飛ばす。着地したリュウホウは大地を切り裂く蹴り上げを放つ。
「おっと!」
大袈裟に避けるアルファだが、アルファでさえそれくらいせねばならないのだ。リュウホウの蹴りは大地を切り裂き、蹴りを放った直線上にいた多くのブラックリミナーレは消え去っている。
戦いは続き、どちらも引かぬ攻防にやがて変化が訪れる。リュウホウの体力に限界が近付き、リュウホウから荒々しい呼吸音が聞こえる。
「……やはり、歳か」
残念そうにアルファがリュウホウを見下ろす。恐らく、このまま戦っていれば自分が勝つだろうとアルファは確信した。だが、どうせなら寿命ではなく自分の力で勝ちたかったとも思っている。
「歳か……そうかもしれん。ワシも随分と長い事生きてきた。そろそろ寿命が来てもおかしくはなかろうて……」
「やはり、そうか。少し、残念だ。お前が最盛期の肉体だったならば面白い戦いになりそうだったのにな」
「惚けた事を言うな。仮にワシが最盛期の肉体だったらすぐに勝負がついていたと思うぞ」
「それは老体である今が一番強いと言いたい訳か?」
「当然じゃろう? ワシが磨き上げてきたのじゃからな。今のワシが最も強いに決まっておるわい」
「ふ……そうか。しかし、最早お前の体力は限界に近いのだろう? このまま戦い続ければ私の勝ちだ。それでも続けるか?」
「愚問じゃな。分かりきったことを……」
「そうだったな……ならば、寿命が来る前にお前を殺してやろう!」
それはアルファなりの意地なのだろうかは分からないが、アルファは魔法を使わずリュウホウとぶつかる。ぶつかり拳を交え、リュウホウは笑う。
いつぶりだろう。何年ぶりだろう。このような本気の殺し合いは。
命を削り、アルファと熾烈な殴り合いを繰り広げる。拳を避け蹴りを反らしアルファの全てを叩き伏せ自分の拳を叩き込み蹴りを入れる。
ああ、楽しい――
とリュウホウは思ってしまった。久方ぶりに己の全てを出せる相手に巡り会えたことに感謝を捧げる。
思えば戦ってばかりの人生だった。生涯を武に捧げ、力を試すように強者との戦いを望み、至った場所は寂しく虚しかった。頂点に至った自分に迫りつつある目の前の敵を嬉しく思う。
ずっと続けばいいのにと感傷に浸ってしまいそうになるが弟子達の為にもここでアルファを倒さねばとリュウホウは奮起し、アルファを追い詰める。
「ここに来て動きが洗練されていく……!」
言葉は不要。語るは拳のみ。リュウホウは己の生涯全てを捧げた武をもってアルファを圧倒した。
「見事……だが、私を殺すまでには至らなかったようだな!」
天を仰いでいるのはアルファであるが勝者は非情にもアルファであった。リュウホウが放った正拳は確かにアルファの胸を貫いた。普通なら即死であるがアルファは作り出された兵器だ。並大抵の攻撃では致命傷にすらならない。
「無念……」
ガクリと地面に膝を着くリュウホウ。胸に風穴を開けたアルファが立ち上がりリュウホウを見下ろす。明確に勝者と敗者が決まる。
「敵ながら天晴れと言おう。最後に何か言い残すことはあるか?」
「ならば、伝言を頼もう」
「ふむ、いいだろう」
「下を向くな。前を見よ、と」
「それで伝わるのか?」
「大丈夫じゃ。あの子達なら分かる」
「わかった。では、さらばだ。偉大なる武人リュウホウよ!」
頭を垂れるリュウホウは最後にクラスメイト達の事を思い浮かべ、そして馬鹿な一番弟子のショウのことを思い出し笑いながら心臓を貫かれる。闘神と呼ばれた男は己の全てを出し切り、満足したかのように安らかな顔をしながら逝った。
「来たか……」
リュウホウに止めを刺したアルファは防壁の上にいるタカシを見上げる。
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