最終決戦 漆
アルファは三人目の獲物を見つける。三人目の獲物となるのは数多くのブラックリミナーレを一撃で粉砕しているリュウホウであった。
「誰じゃ?」
「ほう? 気付いたか……」
「戯け。殺気を抑えておるようじゃがお主の視線が先程からワシを見ていた事はすぐに気付いたわ」
「くくっ。どうやら、今までの人形とは一味違うようだ」
「その言い回し……なるほど。お主、サイファの仲間じゃな?」
「くくくっ、はーはっはっは! どうやらお前はこの世界がどういうものか知っているらしいな」
「人形呼ばわりされれば嫌でもわかるわい」
「ふっ。それは失礼した。では、改めて名乗ろうか。我が名は至高の御方サイファ様に作られしアルファ。お前達を殺す殺戮兵器だ」
「名乗られたからには武人として答えねばなるまい。我が名は三日月リュウホウ。先代勇者の孫とでも言うかのう」
「ほう。そうか、そうか。だから、か。道理でお前が世界の事を知っているわけだ。しかし、先代勇者の孫か……殺し甲斐があるというものだ!」
大地が砕ける音が聞こえたと思うと、アルファはリュウホウの目の前にいて拳を鳩尾に叩き込まんとしている。
だが、アルファの拳はリュウホウには届かず空を切る。今まで戦ってきた相手は先の一撃で瀕死にまで追い込んでいたのにリュウホウには軽く避けられてしまった。
その事実にアルファは口元がニヤけてしまう。自身が崇拝し至高の御方と呼ぶサイファに作られたこの身体の性能を存分に試せるかもしれない相手と出会ったことにアルファは歓喜した。
「いいぞ! 退屈していたんだ! 私を楽しませてくれ!」
「阿呆。餓鬼のお遊びに付き合ってるほどワシは暇ではないんじゃ」
他者から見れば何が起きているかすら分からない超スピードで行われている戦闘でアルファはリュウホウに背後を取られた。
「なに!?」
「沈め」
「ぐはあっ!」
背中に強烈な一撃を受けたアルファが地面にめり込む。リュウホウは勝負がついたと思い、その場を離れようとするがアルファが止める。
「待て……」
「立ち上がるじゃと……?」
馬鹿な、とリュウホウは心の中で困惑していた。自分は確かに必殺の一撃を与えたはずだとリュウホウは確信している。だが、立ち上がったということはアルファはリュウホウの予想よりも強いと言う事だ。
「これが痛みというものか……くくっ、素晴らしい」
「気味が悪いやつじゃのう」
傷を負ったというのに笑うアルファを見て気味悪がるリュウホウ。はっきり言ってしまえばアルファは変態にしか見えない。だが、違う。アレは痛みに喜んでいるのではなく自身の性能を試せる事を喜んでいるのだ。
何せ、アルファを傷つけたのはリュウホウが初なのだから。
「行くぞ」
小さくアルファが呟き、リュウホウが構える。トンッと小さな音が聞こえた時にはリュウホウの背中に衝撃が走った。
「ぐ、むぅ!」
身体が吹き飛び、宙を舞いながらも体勢を整えて着地すると目の前には蹴り放ってくるアルファがいた。リュウホウは両腕を交差するようにして蹴りを防ぐ。ズザザッと地面を抉るように後ろへと下がる。
「とんでもない威力じゃのう」
「簡単に止めといて、どの口が言う」
「精一杯見栄を張っておるんじゃよ」
実際のところ、リュウホウは大したダメージを負ってはいない。腕は少々痺れたがほんの僅かな問答の間にその痺れも消えた。手をグーパーと握り無事なのを確かめたリュウホウはアルファに攻撃を仕掛ける。
「来るか!」
「ほっ!」
なんとも気の抜けるような掛け声でアルファを殴り飛ばすリュウホウだが彼が放った拳はアルファが受け止めようとした腕を粉砕して弾き飛ばした。
大きく後ろへと吹き飛ぶアルファに追撃の一撃をリュウホウは叩き込む。それだけに留まらず、吹き飛ぶアルファの先に先回りして背骨を叩き折る程の蹴りをぶつける。
「ごふぁっ!」
血を吐き散らして顔面から地面にめり込む。リュウホウは倒れたアルファに向かって連打を叩き込む。一撃一撃が岩をも簡単に打ち砕く威力で大地を割り地震がイスカンテを襲う。
「……驚きじゃ。まだ原型を保っているとはのう」
「はぁはぁ……」
地割れの中からゆっくりと浮かびながら姿を現すアルファに驚きを禁じえないリュウホウ。しかし、アルファは満身創痍だ。腕は曲がり足は千切れかけて身体中からは血が止めどなく流れ落ちている。
されど、まだ闘志は折れていない。むしろ、アルファの中で何かが変わったのかもしれない。荒々しい呼吸を繰り返しながらも不適な笑みが見える。
「よもや人形がここまでの力を持っているとは思いもしなかった。だが、感謝しよう。お前を殺せば私は進化を遂げる」
リュウホウは内心焦っていた。今、目の前の敵をここで倒しておかないと大いなる脅威となり誰も手出しできない存在になってしまうと。
「お主はここでワシが討つ!」
「来い! 私はお前を超えていく!」
満身創痍のアルファとリュウホウがぶつかる。二人がぶつかった衝撃で大地が吹き飛び、大気が震える。これほどの戦闘に他の者達が気付かないはずがなく勇者達は激しい戦闘が行われいる方角に向かって集まり始める。
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