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アホで不憫な彼は異世界で彼女を作る為に奔走する  作者: 名無しの権兵衛
最終章 彼の願いは

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最終決戦 四

 二日目の戦いは先日と同じように唐突に始まった。クラスメイト達は防壁の上を駆け回り、イスカンテを囲うブラックリミナーレを破壊する。空から攻めてくる鳥型などは鉄人が張り巡らせた結界で防ぎ、結界の中から冒険者や騎士や兵士達が魔法で破壊する。



 先日と全く変わらない光景だったが今日は少しだけ違う。地上の光景を見ているサイファは目の前に跪く四人に命令を下す。



「アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ。貴様らの中から一人出撃せよ」


「では、一番手はわたくしめが」



 そう言って胸に手を当てたアルファが立ち上がる。



「ふむ。私が命令した事以外はするなよ?」


「御意」


「では、行くがいい」


「はっ!」



 アルファは返事を終えた瞬間に姿が消える。サイファは視線を戻し、地上の光景を見ながら優雅に微笑んだのである。



「はああっ!」



 ブラックリミナーレを相手にして勇猛果敢に戦うのはアルカディア三国王が一人リュード。リュードはブラックリミナーレの消去光線に気をつけながら戦い破壊していく。



 周囲のブラックリミナーレを破壊して次の場所へと向かおうとしたら突風が吹き荒れる。突然の突風にリュードは目を守るように腕を顔の前に出す。



 風が止むとリュードは空気が変わった事に気付き最大限の警戒をする。周囲を見回すが、何もいない。だが、リュードには分かる。かつてない程の脅威が自身の側にいることが。



 冷や汗をかき、周囲を警戒して遂に自分の命を脅かす存在に気付く。



「いつ気付くと思ったが意外と時間がかかったな」


「き、貴様は……」


「本来ならば人形風情に名乗る名は持ち合わせていないが光栄に思うがいい。お前は至高の存在であるサイファ様に作られたこのアルファに殺されるのだ」


「なんだと……! やはり、まだ仲間がいたか! 私を殺すと言ったがそう簡単にやられはせんぞ!」


「は……よく吼える。ならば、少しは楽しませてみせよ」



 頭上に浮いていたアルファに向かってリュードは飛び上がり拳を放つ。



「遅い」


「なにっ!?」



 リュードの拳はいとも簡単に受け止められてしまう。驚きの声を上げてしまうリュードにアルファが拳を振るう。



拳打けんだとはこうやるのだ」


「ぐぼぉっ!?!?」



 リュードの鳩尾にアルファの拳が突き刺さる。背中側まで突き抜けてしまいそうな威力を誇り、歴戦の戦士でもあるリュードを一撃で沈める。



「ごぼっ……かはっ……」


「脆いな。一撃で死に体か」


「ぐぅ……よもやこれほどとは……」



 血を吐き大地に這い蹲るリュードに歩み寄るアルファは冷徹な瞳で見下ろす。血反吐を吐きながらもリュードは力強い瞳でアルファを睨み付ける。



「まだ、光を見失っていないか」


「負けたわけではないからな……」


「そうか。ならば、止めを刺すだけだ」



 一切の慈悲もなくアルファの手刀がリュードを貫かんとした時、アルファの手刀が止められる。



「あっぶねー! 危機一髪ってところじゃん!」


「お前は……ああ、異世界の勇者か」


「そういうお前は敵ってことで間違いないよなあ!!!」



 アルファの腕を掴んでいる後藤清士郎ごとうせいしろうはアルファに蹴りを叩き込む。しかし、アルファは腕で防ぐと掴まれている腕を大きく振るって清士郎を引き離す。



「なんて力してやがる。もしかしてかなり強いんじゃないか?」


「おい、ごっちん! もうちょい粘れよ!」


「無茶言う! こいつ絶対強いって!」



 清士郎をあだ名で呼ぶのは宮崎聡史みやざきさとし。聡史は倒れているリュードを担いでこの場から離れようとしているが、清士郎と対峙しているアルファがそれを許さない。



「逃がさん!」


「させるか!」



 アルファが聡史の前に回りこもうとするが、清士郎が止める。止められたアルファは不愉快に顔を歪める。



「邪魔だっ!」


「くっ!!!」



 清士郎は簡単に払いのけられて吹き飛ぶ。邪魔者がいなくなったアルファは聡史とリュードに追い付き、止めを刺そうとする。



「これで終わりだ!」


「ぐっ……あ……」



 無情にも聡史が背負っていたリュードは胸を貫かれて絶命する。



「む?」



 しかし、アルファは違和感を感じて聡史も殺すと聡史とリュードが霧のように消える。



「これは幻術か……小癪な真似を!」



 苛立ちを抑えれないアルファは周囲を見渡すと、既に遠くの方へと逃げているリュードを背負っている聡史と清士郎を見つける。アルファはその姿を見てニヤリと笑い、地面を強く蹴った。




「どれくらい幻術は持つんだ!?」


「レベルによる! あいつの方が強けりゃすぐに破られる。だから、今のうちに距離稼いでおかないと不味い!」


「す、すまぬ……私のせいで……」


「何言ってるんですか! 国王様を助けるのは当たり前ですって!」


「そうっすよ! いろいろとお世話になってるわけだし!」


「そうか。その者は国王なのだな。しかも、多くの者に慕われてると」




 三人同時にゾクリと背筋が震える。近くからアルファの声が聞こえて咄嗟に背後を振り返るがいない。そして、前に振り戻るとそこにはアルファが立っていた。



「う、嘘だろ……」


「そんな、確かに幻術にかけたはず……」


「ああ。あの幻術か。私とお前の差は歴然としているわけだったということだよ」


「くっ……ごっちん!」


「任せろっ! おおおおおお!!!」



 聡史はリュードを背負い、アルファから逃げるように踵を返して清士郎は二人が逃げる時間を稼ぐために飛び出す。



「勇敢なことだ。しかし、お前程度では足止めにもならん!」


「ぐぁあああっ!」



 果敢に攻めるもアルファに軽くあしらわれてしまい、清士郎は地面に倒れ伏せる。逃げた二人をアルファは追い掛けて、すぐに追いつくと聡史が立ち止まりアルファに向かってスキルを使う。



「効かん! レベル差を忘れたか!」


「くっそ!」


「これで鬼ごっこは終わりだ」


「がは……」



 聡史は腹部を打ち上げられて宙を舞い、背負われていたリュードは大地に転がる。瀕死のリュードは立ち上がる力もなく迫り来るアルファをただ睨み付けることしか出来ない。



「随分と手間取ってしまったが、もう邪魔はいない」



 大地に転がっていたリュードをアルファは持ち上げると、止めを刺す為に手刀を構える。



「リュ、リュードさんっ!」


「やめろおおお!!!」



 アルファに倒された二人は這い蹲りながらも懸命にリュードを救う為に前へと進む。



「勇者達よ! 後は頼んだぞ!!!」



 アルファに持ち上げられているリュードは残る力を振り絞って声を出した。そして、アルファの手刀は容赦なくリュードの心臓抉る。リュードの身体がビクンビクンと跳ねた後、動かなくなった。



「あ、あぁぁぁ」


「そんな……嘘だろ……」


不定期更新ですがよろしくお願いします

ここまでお読み頂きありがとうございます


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