最終決戦 参
戦い始めてから既に数時間が経過していた。クラスメイト達に疲労が溜まり始めた頃、空から降り注ぐブラックリミナーレが止まる。
「なんだ? 急に止まったけど」
「何か仕掛けてくるつもりか?」
周囲のブラックリミナーレを片付け終わった渋谷恭平と常盛浩二は空に浮かぶ城を睨み付ける。二人は不気味に思いながらも防壁の上に飛び上がり、他のクラスメイトと合流する。
「敵来なくなったね。もしかして、もう全部倒しちゃったとか!?」
「そうだったらいいんだけどね。でも、サイファを倒したって連絡もないし……」
「とりま休憩したい……」
防壁の上にいるのは神楽坂皐月と石動冥と武田忍。恭平と浩二が合流し連絡が来るまで五人は休憩をする。
しばらく休憩していると委員長から連絡がくる。五人は連絡を受けて最初の集まった地点に向かう。五人が辿り着いたら、そこには最初に集まっていた人達が既にいた。
「点呼取るから名前呼ばれたら返事してね!」
委員長である優衣は集まったクラスメイトの名前を一人一人呼ぶと呼ばれた者はきちんと返事をする。全員の名前を呼び終えて、全員無事だということが分かりホッとする。
幸いにも怪我人もおらず上々の戦果といっても良いだろう。対してこの世界の強者達はどうなっているのかと言うと、一人も欠けていない。ブラックリミナーレの光線は厄介ではあるが避けてしまえばどうと言う事はない。なので、彼等は油断さえしなければブラックリミナーレは相手にならないのだ。
集まった全員は互いの戦果や無事を祝っていると、空から声が聞こえてくる。
「まずはおめでとう。初日はどうだったかな?」
「サイファッ!!!」
「ふふ。君達の勇姿を空から見せて貰った。実に素晴らしい。この一月の間にどれだけの鍛錬を積んだのか分かるよ」
「貴方に褒められたところで嬉しくもないわ。それよりも、どういうつもり!? 何故、引き上げたの?」
「なに、簡単な話さ。一回で終わったらつまらないだろう?」
「ッッッ! おちょくるのも大概にしなさいよ!」
「ふむ。しかし、こちらが本気を出したらすぐに終わってしまうが?」
「舐めないで貰えるかしら。そう簡単に私たちは負けないわよ!」
「ほう! なら、明日は少し本気を見せてあげよう。よく身体を休ませておくことだ。はーはっはっはっは」
笑い声が響き渡り、段々と小さくなっていく。その笑い声を聞いていた全ての者達が憤慨を示した。拳を握り締め肩を震わせ歯軋りの音が聞こえる。
「ふう……腹立たしいけどサイファは言った事を守る相手よ。一月待ったんだから一日くらいだって待つわ。だから、一旦街に戻りましょう」
クラスメイト達はぞろぞろと街へと戻る。しかし、防壁の上にはまだ人影が残っている。
「どうしたのですか、リュウホウ殿」
「ちと気になってな。明日は本気を出すといっておったが……どうくると思う?」
問われたのはリュウホウが残ってるのを見かけて気になり声を掛けたリュードである。
「そうですな……サイファ自らというのが最もなのでしょうが今日の戦いを見る限りサイファにはまだ手駒となる戦力があるのでしょう。であれば、巨人型などを上回るラブラックリミナーレというところでしょうか」
「まあ、その辺じゃの。しかし、奴の口ぶりでは奴以外にも戦える者がいそうじゃな」
「ええ。恐らくはですね。しかし、こちらも負けてはいないはずですよ」
「そうじゃの。今日はこちらが勝てたからのう。勇者達が油断してなければええがの」
「大丈夫でしょう。今日の彼等を見てたら分かります」
二人は空に浮かぶ城をしばらく見詰めていたが、やがて街へとゆっくり戻っていく。初日の戦いはクラスメイト達に軍配が上がったが明日は分からない。
しかし、それでも戦士達は明日の戦いに備えて英気を養い眠る。
その頃、玉座に腰掛けているサイファは欠伸をしたいた。
「ふわぁぁ……しかし、退屈だな」
「我らにご命令を下されば主を喜ばせてみせましょう」
「貴様らに出来るのは敵を倒すことだけだろう。今は何もしなくていい。ただし、明日は貴様らの誰か一人に出撃してもらう」
『御意!』
「あー、だが二つ命令しておこう。異世界人は殺すな。そして、人形は――」
サイファはしばらく考える素振りを見せてから、指を三本立てる。
「適当に三人殺せ」
『御身の為に』
夜の闇は深まっていく。不穏な夜はまるで明日の戦いの行方を暗示しているかのように世界は暗かった。
夜も更け草木も眠る丑三つ時にタカシは目を覚ます。トイレというわけでもなく宿泊している施設の中庭に向かう。特に何かがあるわけでもなく中庭にあったベンチに座り空を見上げる。月は雲に隠れて真っ暗闇である。
しばらくボーっとしていると誰かが近づいてくるのが分かり、振り向くとそこにはエレノアが立っている。
「どうしたんですか、タカシ様。眠れない、というわけではないですよね」
「ああ。たまたま目が覚めてな。空を見てたんだ」
「空ですか? 今は月も星も雲に隠れてしまっていますよ」
「別に月や星を見たいわけじゃないんだがな。それより、こっちに来て座ったらどうだ?」
「では、そうします」
誘われて嬉しかったのかエレノアの声が少し弾んでいる。隣にエレノアが座るとタカシはそっとエレノアの手を握り締める。
「今日戦えたのはお前のおかげだ。ありがとう」
「タカシ様。もう日付変わってますよ?」
「妙なツッコミをいれるな! ったく、台無しだろう」
「だって最近のタカシ様はその、積極的といいますかSッ気が強いといいますか、色々と心臓に悪いんです!」
「俺のせいだって言うのか!?」
「タカシ様のせいです!!」
ぽかぽかと可愛らしいくタカシの胸を叩くエレノアの手は力が篭っていないから痛くも痒くもなかったが思わず笑ってしまうタカシであった。そして、和んでいる二人をたまたま目撃して悔し涙を流して柱の影から見守る遠藤雅樹。
「ぐぅぅ、爆発しろ~」
雅樹はこれ以上見てたら深刻なダメージを受けてしまうと悟り、そそくさと己の部屋に戻り枕を濡らしながら眠った。その後、タカシとエレノアも二人同じ部屋で同じベットで再び眠りについた。
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