新しい教師役
稽古が始まって五日が経過していた。クラスメイト達はそこそこ戦えるようになっていて、その成長速度にリュウホウは驚かされたが、異世界人特有のとんでもスキルのおかげと分かって落胆した。
しかし、そのおかげでサイファに届くかもしれないと希望が生まれたのも事実である。だが、そんなことよりもリュウホウは自分以外にも指導役が必要だと考える。
異世界人たちは大まかに分けると、接近戦が得意な者、遠距離戦つまり魔法が得意な者と支援に特化した者達でバランスよく分けれる。
しかし、残念ながらリュウホウは接近戦である近接戦闘技術は指南できるが魔法やスキルといったものに関しては大したことを教える事が出来ない。なので、魔法が得意な人物と支援に関して詳しい人物が必要だと判断する。
「う~む……どうするかのう」
リュウホウが悩んでる傍らでクラスメイト達は二人一組で組み手をしている。ただし、タカシだけはリュウホウが相手をしている。他の事を考えながらタカシの相手が出来るのは流石の闘神である。
「何か悩み事か?」
「うむ。お主らにあった稽古を付けたいがワシは近接戦闘についてのみじゃから、魔法に長けた者と支援能力に長けた者が必要じゃと考えての。誰か知り合いはおらんのか?」
「いない。もし、いたらリュウホウ師匠よりも先に声をかけている」
「それもそうか……」
「ただ、知り合いって訳じゃないが知ってる奴で魔法が得意な奴は一人心当たりがある」
「ほう! 誰じゃ?」
「アイリスとかいう初代魔王だ。なんでも言葉だけで魔法起こすらしい」
「言葉だけで? まさか言霊を使えるのか!?」
「詳しくは知らん。多分、このイスカンテのどこかにいると思うから探しに行くなら探しに行くといい」
「そうさせてもらうかの。一先ず組み手はやめて実践形式で戦ってもらおう。お主が相手をせい」
「わかった。あとは任せておけ」
リュウホウは部屋から出て行き、タカシが言われた通りクラスメイト達と実戦形式で戦いを始める。前より強くなったクラスメイト達に苦笑いを浮かべながらタカシは戦うのである。
リュウホウはタカシから得た情報でアイリスを探していく。歩いている人にアイリスの名を聞いて尋ね回るとすぐに見つける事が出来た。早速、リュウホウはアイリスの元へと訪ねる。
「やあ、初めまして。ワシはリュウホウというしがない老骨じゃ」
「は、はあ。どうも初めまして。何のご用件でしょうか?」
「実は折り入って頼みたいことがあるのじゃが、ちと時間をくれんか?」
「わかりました。私に出来る事なら聞きますよ」
アイリスとリュウホウは落ち着いて話が出来る場所を探し、丁度良さそうな喫茶店に入る。
「ワシはお茶を。アイリスちゃんは?」
「私はミルクティーを」
注文を頼んでリュウホウは本題を切り出す。
「さて、アイリスちゃんに頼みたいことなんじゃが、実は今異世界の勇者達を鍛えておるんじゃがワシは近接戦闘くらいしか教えられなくての。行き詰ってるんじゃ。
そこで勇者達が言うにはアイリスちゃんは至高の魔法である言霊が使えると聞く。そこで、アイリスちゃんに頼みたいのは勇者達に魔法の指導をして貰いたいんじゃ」
「なるほど……私なんかがお役に立てるのであれば喜んで引き受けます!」
「おお! そうか! 引き受けてくれるか。ありがとう、ありがとう」
あっさりと快諾するアイリスにリュウホウは何度も頭を下げてお礼を言う。そして、タイミングよく二人の頼んだ品が届いた。
「これを飲んだら、早速行くとしようか」
「はい。こんな事で罪は償えないでしょうが、それでもショウさんの分まで私がやるんです」
「そうか、君は……」
出しかけた言葉をお茶と共に飲み込み、そのまま何も言わずアイリスがミルクティーを飲み干すまで待つのであった。
アイリスとリュウホウが戻ると勇者達は一人を除いて死屍累々と化していた。屍の山に立つのはタカシである。しかし、相当厳しい戦いであったのかタカシは血を流し、肩を上下させて荒く息を吐いている。
「ぜえ……はあ……ぜえ……はあ」
「これはすごいのう……」
「ひえぇ。一人でこれだけの相手を?」
「見ての……通りだ……はあ……はあ」
タカシは立っているのも辛くなり、その場に腰を下ろした。下敷きになっているクラスメイトが重さに呻き声を漏らした。
「先にそこからどいたらどうじゃ? 下敷きの子等が苦しんでおるぞ」
「エレノア、手を貸してくれ」
「はい、タカシ様」
エレノアが転移でタカシを壁際の方に移動させると、下敷きになっていたクラスメイト達が上から順にどき始めて屍の山はなくなった。
怪我を負ったクラスメイト達は沙羅が治癒を施していき、最後に後回しされたタカシを治し終えるとタカシ達はアイリスとリュウホウの前に並び立つ。
「わあ、洗練された動きですね」
「ワシが指導しておるからの。さて、知っておると思うが今日から新しくお主達に魔法の稽古を付けてくれるアイリスちゃんじゃ」
「みなさん、よろしくお願いしますね!」
男子諸君が歓喜の悲鳴を上げる。その横で女子達は冷たい目で男子達を見つめている事に男子は気付かない。
しかし、タカシと桐谷だけは特に反応はなくてタカシは言霊について学べると別の意味で浮かれ、桐谷は魔法の勉強は女性の人がするんだなと言う事しか考えていなかった。
こうして着々とクラスメイト達の実力は上がっていくのである。
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