仮面の者
現在、第五試合が始まっている。今、闘技場ではソフィさんと桐谷が戦っている。
「くっ」
「ホラホラ~」
さっきからソフィさんしか攻めていない。桐谷はソフィさんの攻撃をずっと避けてるだけで反撃しないでいる。
あ~、あいつどうせ相手は女性だから反撃出来ないんだろうな。
「どうしたの~? さっきからなんで攻撃してこないの~?」
激しい猛打で攻めるソフィさん。それを辛うじて避ける桐谷。しかし、どれだけソフィさんが攻めようとも桐谷は反撃する素振りを見せない。これでは興醒めである。
「っ!」
何度も危ない場面があったのに桐谷は一向に反撃しない。実に情けない。それにしてもハーレム軍団は何をしているのだろうか。こういう時こそ応援するのが役割だというのに。
「つまんないなぁ~」
ソフィさんが飽きれ始めている。全く反撃してこない桐谷にソフィさんも戦っていてつまらないのだろう。
「あいつなんなの? 全然攻めて無いじゃない」
「そうですね! 舐めてるとしか思えません!」
リズさんとキアラさんもイライラし始めている。そりゃ友達が戦っているのに、相手は戦う素振りすら見せないのだから仕方がない。
「あれが勇者なの? どう思う、ショウ?」
「あのね、ローラなんで俺に聞いてくんの?」
「男の目線から見てよ」
「あーそう言うこと。んー、弱いんじゃないか?」
「ショウから見てもそうか。ソフィ先輩、多分だけど……」
「棄権するわね」
「えっ! リズさん?」
「やっぱりですか!?」
えっ?
どゆこと??
わけわかんねえんだけど?
「ショウさん。ソフィは飽き性なんですよ」
「飽き性?」
「はい。つまらない相手とは戦わないんですよ。ソフィは」
「そっ。ソフィはよくそれで戦いを放棄しちゃうの」
へぇ~そんうなんや!
俺達がそうこう言っている間に試合は予想通りの流れになっていく。盛り上がっていた会場も既に静かになっていた。
「はぁ~飽きちゃった……降参しま~す」
「へっ?」
桐谷が驚いて声を上げている。それは桐谷だけでなく会場にいる観客たちも同様だ。
「な、なんと! ソフィ選手!先程まで凄まじい猛攻だったのに降参だとーーー!?」
「まぁソフィですからね~」
実況があまりの衝撃に驚いている。その横では解説のセラさんが涼しい顔をして、このことを読んでいた風に言う。
「何を迷ってたか知らないけど、これが本当の戦いなら君死んでたよ~」
「……」
「どうせならショウちゃんと戦いたかったな~」
「ショウ? もしかして山本のことか?」
「ヤマモト? 知らない。そんなの~」
「えっ」
「じゃあね~」
ソフィさんは桐谷に手を振って闘技場を後にした。俺達もソフィさんを迎えに行く為に待合室へと向かう。
「あっ! みんな~」
「お疲れソフィ」
「お疲れさまです!」
「お疲れさまっす!」
「お疲れさまです。ソフィ先輩!」
「ありがと~」
結果はソフィさんの降参により桐谷が勝利した。続いての第六試合は別に見るまでもなかったので省く。
結果だけ見ると、前回優勝しているだけあってゴートン選手が勝ったようだ。お色気攻撃には俺も聞いたときは呆気に取られた。
見ておけばよかった!
そう悔しがっているところをリズに目撃されてしまい、電撃を浴びる羽目になる。理不尽すぎて涙が出てきそうだ。
次の第七試合はリズと仮面である。俺が電撃で痺れてる間にリズは闘技場の方へと向かっていた。だが気になるのは対戦相手の仮面野郎だ。
なんにも無いといいんだが……
「第七試合!! リズ選手対仮面選手です!! 仮面選手はその姿はわかりませんがサバイバルの時には圧倒的な実力を見せてくれました!! いやー、ヴァルキリアのリーダーと謎の仮面の戦い楽しみです!! さぁ試合開始!」
試合開始の合図と同時にリズさんが魔法で仕掛ける。先制攻撃は得意な電撃で仮面を貫いたが、仮面はなんの反応も示さない。
次にリズさんは炎の魔法で仮面を攻撃したが、魔法は効かない。正確に言えば、直撃しているのにダメージが全くない。まるで、全部通り抜けているように見える。
しばらくはリズさんの魔法による猛攻が続いたが、仮面の不気味さにリズさんの攻撃が止まる。そして、ついに仮面が動きを見せた。手を真っ直ぐ伸ばした。
次の瞬間、リズさんが地面に押し潰された。痛みに悲鳴を上げている。
「なっ……あれは!?」
「あれは重力属性!?」
「重力だと? どういうことだよ、ローラ!」
「言葉の通りよ! 重力を操る属性よ!」
だとしたら、今リズさんは重力により押し潰されてる。危険な状態だ。今すぐに助けに行きたいが、これは試合である。殺される心配はないと思うが、ガバガバなルールだから死人が出てもおかしくはない。
くっ……
なっ!!!
「リズ!!!!」
キアラさんが叫ぶ。闘技場では手も足も出せないリズさんに魔法を撃ち込んでいる仮面。あまりにも酷すぎる。
「ひどい……」
「なんてことを……」
「わざと弱い魔法で痛めつけてる……」
そう仮面野郎はリズさんに下級魔法ばかりぶつけてる。しかも、複数の属性を使ってジワジワと嬲りリズさんの反応を見て楽しんでいる。
「くそっ!! なんとか出来ないんすか!?」
この間にもリズさんの悲鳴が聞こえてくる。そのあまりにも痛々しい悲鳴に観客たちも顔を青褪めている。
もうやめろ!
やめてくれ!!!
これ以上はリズさんが!!
「我慢なりません! あの仮面許さない!!」
「私も行くよ、キアラ!」
二人がリズさんを助けに行こうとする前に俺は飛び出していた。入場ゲートを勢い良く飛び出して、惨然な光景に呆けている審判に怒鳴り声を上げる。
「審判っ!!! 試合を止めろおおおお!!!」
俺は闘技場に飛び込み、仮面野郎の攻撃を防いで試合を無理矢理止めていた。
「し、試合終了!! 仮面選手の勝利です」
遅えよバカが!!!
役に立たない審判を心の中で罵倒する。そして、俺はすぐさまリズさんのもとに駆け寄って抱き起こす。
「リズさん! リズさん!!」
「う……あ……ショウ?」
「よかった! 今すぐに救護室に連れて行きますから!」
「ゲホッ……ごめんね……ショウと戦いたかったんだけど……無理みたい……ゴホッ……」
「喋らないで下さい! 血が!」
「ゴホッゴホッ……ショウ……ゲホッ……私の仇……とって……」
そう言い残してリズさんは意識を無くした。俺はすぐさまリズさんを抱えて立ち上がると仮面野郎に顔を向ける。仮面野郎が闘技場を後にしようとしてる所に言い放つ。
「おい……仮面野郎……貴様だけは許さん……覚悟しておけ!」
俺は仮面野郎にそう言い放ちリズさんを抱えて救護室へと急いだ。救護室へと着くとすぐにリズさんの治療に取り掛かる。
先程の試合でリズさんは内臓がいくつか潰れており、さらに外傷もひどい。相当危険な状態らしい。俺がある人物を思い出した時、救護室の扉が開いた。
『リズッ!!!』
「リズ先輩!!」
セラさんとソフィさんとキアラさんとローラが駆けつけて来た。
「ちょっと、リズさんをお願いします……」
俺はある人物の元へと走り出す。出来れば会いたくないし話したくもない。でも、今は緊急事態だから我慢する。
「桐谷!!!」
「えっ、山本!?」
「頼む!! 今すぐ清水を呼んでくれ!!」
「わ、わかった。すぐ呼んでくる!」
「救護室に連れて来てくれ!!!」
そう、俺は桐谷に頼み清水沙羅を呼んでもらうことにした。理由は清水沙羅の完全回復スキルだ。あのスキルならリズさんを治すことが出来る。
後は……任せよう……
俺は試合の為、闘技場へと向かう。
改訂済み




