これから
翌朝、連合軍の幹部と勇者達は今後のことについて会議を行うことになった。大きな会議室には異世界の勇者達と連合軍の幹部達が集まり、話し合いを始める。
「現状についてだがサイファと名乗る謎の人物によって我々の記憶は偽りのものへとすり替えられ英雄ショウを失ってしまった。損失は計り知れないものとなり、連合軍の一部も彼を慕っていた者達の戦意も喪失してしまっている」
そう語るのはナイザーである。ナイザーもまた彼を失ってしまった事を酷く後悔しているが、それ以上に娘のリズが心配で堪らないのであるが今はそれどころではない。
「恐らくではあるがブラックリミナーレを生み出しているのはサイファとみて間違いないだろう」
「そうですね。私たちが見せられた映像もサイファによって作られたものでしょう。問題はこれからどうするかです」
「サイファは一月後に仕掛けてくると宣言した以上は今のところ差し当たって脅威はないはずだ。しかし、こちらの戦力は心許ない。我々、連合軍は、いや君達以外はブラックリミナーレの光線を受けるだけで消えてしまう為、戦力は減る一方だ」
ナイザーが言うように連合軍は結成当初に比べるとその数は半分を切っている。ブラックリミナーレの光線に対抗策がない以上は戦力の増加は難しい。
勇者たちも個々の強さは高くとも、ショウと比べてしまうとどうしても物足りない。ないものねだりをしていても仕方がない。
「今、私たちに出来る事は多くはありません。来るべき時の為、私たちは強くなるしか方法はないです。ですから、異世界の方々の中でも戦闘に特化した方達に稽古をお願いしたいのですが」
「わかりました。そういうことでしたら、何名か心当たりがあるので声を掛けておきましょう」
「よろしくお願いします」
話し合いが終わり、連合軍幹部達がゾロゾロと会議室から出て行く。その後を勇者達が追うのかと思えば、誰も出て行こうとはしない。残った勇者達は会議を続ける。
「なんか勝手に話を進めてたけど、勝ち目なんてあるのか。委員長?」
「出来うる限りの事はしておくべきでしょ。現に私たちは山本くん一人に勝てないんだから」
「そりゃそうかもだけど……いきなり、稽古をつけてくれなんて……」
「嫌ならやめてもらっても構わないわ」
「やめるだなんて一言も言ってないだろ!?」
「態度に出てるのよ。でも、実際サイファって奴がどれだけ強いか分からない。もしかしたら、殺されるかもしれない。だから、逃げたい人は逃げてもいいわ」
もしかしたら、死ぬかもしれないという恐怖が勇者達に圧し掛かる。沈黙が続いたが、意を決したように声を上げる。
「俺は戦うぜ。サイファのこともそうだけど山本が言ってた事は全部正しかったんだ。なのに、山本のことを疑って……責任取らなきゃいけねえと思うんだ」
その言葉に賛同するように俺も、私も、僕も、あたしもと広がっていき、結果全員が戦うことを決意した。
希望を失った事で結束が強くなるなど皮肉な話ではあるが、彼らは知らないだけである。ショウはまだ死んでいないと言う事を。
一方でショウを慕っていた女性達は一同に集まり一晩明けてもお通夜状態である。どんよりとした空気に周囲の者達は近寄れず遠くから見守ることに徹していた。
「ショウ……」
「もう二度と……うっうぅ……」
誰かが呟くと止めどなく涙が溢れる。涙を拭うものはいない。彼女達の心を癒せるものは存在しないのだ。
「リズ……」
「セラ……」
ナイザーとルドガーは遠目に泣く愛娘を見詰めて溜息をつく。自分ではどうすることも出来ないことを憂いながら。
「ところで、ナイザーよ。勇者達に推薦できる人物に心当たりでもあるのか?」
「一応はな。今の勇者達に稽古を付けれる者と言えばタカシが最適だろう」
「ふむ。アルツェイルを拠点に活動している冒険者であったな。確かに、彼の強さは申し分ない。ピッタリだろう」
そんなことを話し合っている二人だが、話題のタカシは了承するとは限らない。何故ならば、福田隆史は復讐をやめたとはいえ、クラスメイトに良い感情は持ち合わせていないのだから。
「タカシ様、起きて下さい」
「ん……朝か」
「はい。既に昼前ですが」
「そうか……」
「タカシ様。やはり、ショウさんのことが……」
「言うな。分かってるつもりだ」
エレノアに言われたようにタカシはショウのことを引きずっている。元クラスメイトで最初に復讐相手として戦い、最後は共に戦った仲なのだから。
だけど、タカシもつい先日まで彼のことは異世界から来た魔王だと認識していた。異世界人であるタカシは記憶の改竄が出来ないはずなのだが、タカシには記憶の改竄が出来ていたのだ。
タカシは恐らくではあるが、この世界で死んで蘇った事により自分は異世界人ではなくなったのではとと結論付けていた。
だとしても、自分がしたことが許せなかった。共に戦った男を見殺しにしてしまった事が、どうしても許せなかった。
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