第二ラウンド開幕
アインスが時間操作を駆使して俺に攻撃を仕掛けようとも同じように時間操作で相殺し、アインスを返り討ちにする。
「肉弾戦なら俺のほうが一枚上手だな!」
「ああ。サードに勝っているのだ。俺はただの肉弾戦ならサードに勝てなかったからな。そこは認めるしかない」
時間停止も時間加速も遅延も封じた今、俺はアインスに優勢でいる。接近戦、それも肉弾戦に至ってはアインスの述べたとおりサードに勝てないアインスが俺に勝てるはずがないのだ。俺に有利になったとはいえ楽に勝てる相手ではない。時間操作を使われれば相殺する為に俺も時間操作を行使するが魔力の消費量が馬鹿にならないので負担が大きすぎる。
だから、アインスがその事に気付かないように戦わなければならない。もしも、気付かれてしまえば先に俺の魔力が底をつき敗北を喫する。それだけは決して避けねばならない。
「仕方がない。戦法を変えよう」
「は? 何を言って――っ!?」
アインスは俺との攻防の最中、あらぬ方向に魔法を撃った。それはアインスが零した言葉の意味を表していた。アインスが放った魔法は俺の横面に突然出現したのだ。何の前触れもなく気配を感じさせる事なく魔法は突然に現れたのだ。時間停止をして避けようにもアインスに相殺されてしまい、触れるか触れないかのギリギリで避ける。
だが、当然アインスはその隙を見逃すような相手ではない。隙を突かれてアインスの鋭い蹴りが脇腹に直撃する。
「ぐぅっ!」
体勢を崩したがアインスの追撃を防ぎ、距離を取る。先程の魔法がなんなのかは既に答えが出ている。
「まさか空間魔法まで出来るのか!」
「やはり一度味わった事があるから、すぐに分かってしまうか」
「時間操作に空間魔法ってどんだけだよ……」
「さて、続きといこうか」
瞬きもしていないのにアインスが目の前にいる。時間停止をされたなら既に俺は感知できるから相殺することが可能だ。つまり、アインスは空間魔法で距離を詰めてきたのだ。
「くっそ!」
「どうした。動揺してるのか? 動きが鈍いぞ!」
いくら肉弾戦が弱いと言ってもサードに比べればの話だ。僅かな差しかないのだから、少しでも油断すればたちまちやられるのは俺のほうだ。
アインスの拳や蹴りを防ぐのは大して難しくはないが、時折来る魔法も迎撃するとなれば話は別だ。アインスがあさっての方向に魔法を撃てば俺の死角に魔法が現れる。
「ちぃっ!」
魔法を弾き飛ばしてアインスの攻撃をギリギリの所で凌ぐ。まるで綱渡りでもしてるかのようにギリギリの戦いだ。
一つでも取りこぼせば俺の負けだ。ゆえに俺は一つ一つを丁寧に慎重に正確に迅速に対処していく。精神は研ぎ澄まされ集中力は最大まで高まり限界を超える。
視界全てがクリアになり、世界は俺とアインス以外の不純物が消えてなくなる。それだけなく視界が360度全てを捉えたかのように、アインスが空間魔法で飛ばした魔法を察知する前に避ける。
魔力の流れ、アインスの動揺、呼吸、筋肉の動きに至るまで全てが見えた。
「ごふっ!」
そして、俺の拳はアインスの鳩尾に決まった。一切の余計な動きをなくし洗練された俺の一撃はアインスに大きなダメージを与えた。
「な……んだ。今の動きは?」
「知らん。身体が勝手に動いてたんだよ」
「馬鹿な……あれはそんなちゃちなものじゃない。あれは完全に俺の動きを読み、対応していた。まるで未来を見たかのような……まさか、未来予知を?」
「そんなことできるかよ。ただ必死こいてお前に喰らいついていたまでだ!」
未来予知なんて出来てたらこんな苦労しとらんわ!
心の中で叫びつつ、片膝をついているアインスを見下ろす。油断も慢心もなくアインスに止めの一撃を加えようとした時、アインスが消える。
「つくづく嫌になる相手だぜ」
「それはこちらの台詞だ。戦うたびに強くなり、戦いの最中でも力を増すということがどれだけ厄介な事だと思う」
「さあな。そんな奴……いや、サードは確かにやばかったわ」
「……そうか。サードは成長したのか。負けてはいられないな」
最後の方は小さくて聞き取れなかったが、アインスの魔力が大きく膨れ上がり周囲の地面を吹き飛ばした。
「おいおい……嘘だろ」
ピリピリと肌を突き刺すようなプレッシャーを感じる。ほんの少し言葉を交えた程度で強さが増すなんて理不尽すぎる。
しかし、俺も男だ。この世界に来る前に何度も夢見てきた。ヒーローになる事を。小さな頃は誰もが憧れていたであろう、強大な敵と戦い打ち勝ち世界を救うヒーローに。
最高じゃないか。
「第二ラウンドといこうか!!!」
「勝つのは俺かお前か……決着を付けよう!」
転移して現れたアインスを迎撃する。拳と拳がぶつかり衝撃が世界を揺らす。雷鳴の如く音を轟かせ、俺とアインスの戦いは激しさを増していく。
不定期更新ですがよろしくお願いします
ここまでお読み頂きありがとう御座います




