宴
「――それでは乾杯!」
長ったらしい演説が終わり、杯をカチンと当てる音が鳴り響く。前置きが長くてめんどくさかったが、料理は美味いし、酒も美味いので良しとした。会場には何故か竜王達までいる。
竜王達に会うのは気まずいので会場の隅っこに移動しようとしたら、いつの間にか囲まれてしまっていた。一体どうしてだと考えていると、よく分からないうちに握手する流れになり一人一人と握手をしていく。
握手をすると感激のあまり涙を流す者までいた。なんだと言うのかと言えば、俺の事を英雄、救世主などと呼んでおり、今回の騒動で生き残ることが出来たのは俺のおかげだとか。
ありがとう、ありがとうと連呼する男達の相手が辛い。綺麗な女性ならばいいのに、残念ながら今回の宴に参加してるのは今回の騒動で戦った兵士達と竜王達だけだ。
給仕の可愛い女の子をナンパしに行こうかな!
まあ、どうやって声掛けるかだけど!
ようやく集まっていた人達が散らばって自由になったと思ったら、一番会いたくない相手である竜王達と言うよりはエルザの家族に捕まった。
「今回は本当に助かった。ありがとう」
一家全員が頭を下げてくる。宴の場で謝罪などさせるべきではないと思い慌ててフォローを入れる。
「いやいや、気にしないでいいですから頭を上げてくださいよ。今は宴の最中なんですから堅苦しいのはなしでいきましょう」
「君がそう言うならば……」
「それに折角の美味しい飯が喉を通ら無くなりますって。気まずすぎで」
「ははっ。その通りかもしれんな。今するべき話ではなかった。また、後日礼をしたいからウチにも来て欲しい」
「んー、それはお断りしますわ。俺はまだ倒すべき敵がいますから」
「それは急を要する事かね?」
「ええ。今回のような事がどこかでも起こるかもしれませんから」
「それは、つまり今回我々を操ったあの女の仲間なのか?」
「はい。俺は奴らを倒すまで旅を続けるつもりですから」
「我々も今回の礼をしたい所だが……どうやら、君の方が奴らとは因縁が深いようだ。どうか、我々の分もきっちりとお礼をしてくれないかね?」
「任せてくださいよ。必ず奴らは倒しますから」
竜王とそんな話をして盛り上がっていたら、エルザの母親が割り込んでくる。
「その話はそれまでにして。私聞きたいことがあるのだけれど、貴方とエルザはいつ結婚するのかしら?」
飲んでいた酒を思い切り吹いてしまった。俺が吹いた酒はエルザの兄弟達に掛かってしまい服を汚してしまった。慌てて謝罪して魔法を使って汚れを落とした。
「あのどうしてそのような話に?」
「どうしてって……エルザと人竜一体を果たしたのでしょう?」
「いや、まあ、そうですね」
「じゃあ、やっぱり結婚しかないわね」
「その理屈はおかしいんじゃないんすかね!?」
「人竜一体と言うのはよっぽどの信頼関係が無い限り成功しないのよ。それを容易く成功させた貴方達は夫婦の契り以上の信頼関係を築いてる証拠です。つまり、結婚するしかないという事になるの」
「でも、エルザはそんな事一言も言わなかったっすよ!!」
「そういうスキルがあると言うことしかあの子は知らなかったからね。それよりも、エルザの事は嫌いなのかしら?」
「いや、嫌いってことは無いですけど……」
「では、もちろん結婚するのよね?」
「だから、いきなり順序がおかしいですって」
いつまで経ってもエルザの母親は結婚から離れない。流石に鬱陶しくなってきた頃にエルザの兄弟達がエルザの母親を宥めるように背中を押していく。
「はいはい。母上。婿殿も困っておられるのでその辺で」
「申し訳ない、婿殿。母上はエルザのことが心配で堪らないのだ。どうか、許して欲しい」
「いや、婿じゃねえよ! お前らも何言ってんだ!」
「はははっ。婿殿は面白いことを言う」
「全くだ。照れなくてもよいのに」
「お前らの頭の中プリンで出来てんのか!? 人の話聞けよ!」
思わず声を荒らげてしまう。なぜこのような漫才みたいなことをしなければいけないのか。
「はあ……そう言えばエルザはどこにいるんだ?」
「気になるのか?」
「うおっ!?」
いきなり横からエルザの姉ジュリアが声を掛けてくる。気を抜いていたから軽く驚いてしまった。
「そんなに驚かなくてもいいではないか……」
「何シュンとしてんだよ。驚かすように声掛けてきたお前が悪いんだろ」
「別に驚かすつもりは……」
「知るか。それよりもエルザの居場所知ってるんなら教えてくれ」
「ふん。教える気が失せた」
「……あっそ。なら、別にいいや。それじゃ」
「えっ……」
ジュリアを無視して料理を取りに行こうとしたら背中を掴まれる。
「ちょ、ちょっと待って。知りたいとは思わないのか?」
「いや、教えてくれないなら自分で探すし」
「教える、教えるから私とも少しは話そうじゃないか!」
「えー、やだ」
「んひぃ……」
やっぱりこいつ!!
マゾだ!
確信した!!
関わっちゃいけねえ!!
「お前、マゾだろ!!」
「なっ! ち、違う! そんな事はないぞ!」
「嘘つけ! 最初に戦ってた時からおかしいと思ってたけど、今確信した!! お前はマゾヒストの変態だと!」
俺はジュリアを指さして宣言した。
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