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アホで不憫な彼は異世界で彼女を作る為に奔走する  作者: 名無しの権兵衛
第八章 世界を駆ける

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エルザ覚醒

 時はしばらく戻り、ショウに置いていかれたエルザは逃げる素振りを見せずに、ただ立ち尽くしていた。眺めるのは空で戦いを繰り広げる赤と青の竜とショウの光景。



「カシムにいガルムにい……」



 呟くのは赤と青の竜の名前であり、エルザの兄達の名前だ。本来ならば、ショウと戦う事など無かったはずの二人。しかし、ツヴァイの洗脳により最早意思無き傀儡のように成り果ててしまった。



 エルザの脳裏に浮かぶのは厳しくも優しき兄達。洗脳される前の二人ならばショウとは良き仲になり得たかもしれない。だけど、目の前の光景は信じたくないものだ。



「どうして……どうしてじゃ……何故……兄上達だけじゃない。姉上、母上……父上……」



 信じたくない。だけど、目の前の事実からは逃げられない。目を覆いたくなる程の光景をエルザはただ見ているだけだった。



「くっ……うぅ……」



 歯痒い。悔しい。妬ましい。そして何よりも自分が憎い。弱い己が情けない。助けに行きたいのに、何も出来ない己が不甲斐ない。



 エルザの心情は己を批難するばかりのものだ。しかし、どれだけ己を責めても事態が好転することは無い。どうすることも出来ない思いばかりが積み重なっていく。



「カシム兄! ガルム兄!」



 赤と青の竜はショウにより地上へと叩き落とされる。助けに行く事は叶わず、ただ兄達が落ちていく様を見ている事しか出来なかった。



「ぐ……どこへ行こうというのじゃ……妾は……っ!!!」



 兄達の元へと駆け出そうとしたが、その場に踏み止まり歯軋りをするエルザ。兄達の元へと向かった所で何かある訳でも無い。いや、もしかしたら正気を取り戻しているかもしれない。



 だが、取り戻していなかったら?



 考えるまでもない。下手をすれば攻撃される。もっと悪ければ殺されるかもしれない。もしかしたら、人質に取られショウの足を引っ張ってしまうかもしれない。エルザも馬鹿ではない。それくらいの事が分かるからこそ、エルザは踏み止まったのだ。




「姉上……っ」




 そして、次にショウと戦うのは時期竜王候補とされるエルザの姉である。カシムとガルムが二人揃って、やっと相手に出来るほどの強者だ。その姉がショウと戦うというのだ。ショウと姉が戦ってる現場は目撃した事があるが、その時以上のものになる事など考えるまでもない。



 止めねば。



 そう思い、駆け出そうとするも足が動かない。まるで、足が大地に固定されてしまったように動かないのだ。否、動かないのではない。動けないのだ。先程と同じ理由ではない。



 純粋に恐ろしい。



 エルザの心を支配したのは恐怖である。姉の強さは知っているがショウの強さは計り知れない。そんな二人がこれから戦うというのだ。以前のような戯れとは違い、正真正銘の殺し合いをする。二人に巻き込まれ、自身が死ぬ恐怖。そして、どちらか一人を失ってしまう恐怖。故にエルザは動けない。



 だが、そこで思わぬ事態が発生する。エルザの姉と戦いを繰り広げていたショウが突然落下し始めたのだ。思わず、目を見開くエルザだがショウの魔力量が微々たるものだと聞いていた。カシム、ガルムに加えてエルザの姉まで相手をしようとしていたのだ。魔力が尽きて落ちるのも無理はない。



「ショウ!!!」



 気付いたら走り出していた。ついさっきまで恐ろしくて動けないでいたのにエルザは走り出していたのだ。しかし、どうやってもショウが地面に激突するまでに間に合わない。



 そもそも、エルザでは受け止めきれない。だが、エルザは理解していても走らずにはいられなかった。何が出来るかでもない。何故、走り出したのかも分からない。ただ、衝動のままに走る。



 走りながら思い出すのは、ショウとの出会いから今までの全て。初めて会った時はエルザの方にも態度に問題があったがショウも大概だった。奴隷として売られる運命から救ってもらった事は感謝しているが、そこまでの関係で終わると思っていた。



 でも、エルザはショウにことごとく助けられた。天敵であるティザーピエールから守ってもらい、街で起こした問題も解決してくれた。解決方法は少しエルザにとって恥ずかしいものであったが、無難に解決出来たのだから良しとする。



 思い出したくないこともあったが僅かな間ではあるが、ショウと旅をした思い出は楽しいことばかりであった。故郷へ帰ると竜の儀から逃げ出した罰で追放処分されたがショウはまた助けくれた。



 今までの恩を返さねばならない。



 だけど、それだけじゃない。今ならば分かる。エルザはこの気持ちが何なのかを理解する。この胸の奥に炎のように熱く燃える想い。



 ああ、これが恋い焦がれるというものか。



 エルザはショウに恋をしている事をハッキリと自覚する。家族を失いたくない。そして、ショウも失いたくない。恐怖など既に消え去った。今はただ、この気持ちを伝えずにはいられない。



 ならば、助けねば。



 覚悟を決める。決意を固める。拳を固く握りしめて、轟き叫ぶ。



「妾は偉大なる……否っ!! 妾はただ一人の女! ただ一匹の竜!! エルザリオン・ドラグニルじゃあっ!!!」



 突如、光がエルザを包み込む。辺り一体が眩い光に包まれ、光が収まるとそこには一匹の美しき白竜がいた。



「今、助けに行くぞ。ショウ!」

ここまでお読み頂きありがとうございます

不定期更新ですがよろしくお願いします

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