デコピンで許そう
しばらく待っていたら領主の私兵が街の住人を連れて来た。オドオドした様子で街の住人は俺と私兵を交互に見ている。
気の弱そうなのを連れて来たなぁ。
「なあ、こいつが俺を殴ったのをおまえは見てたよなぁ?」
「えっ! あ、あぁはい……」
「ふむ……」
ふむ、じゃねえよ!
言わせてる感半端ねえぞ!
「おい、ほんとにエルザだったのか!?」
「ひっ! は、はい!!」
「あまり怖がらせるようなことしてやんなよ。ビビってるじゃねえか」
こいつぅ……
まあいい。
目にもの見せてやるぜ!
「いいのか、お前ら。こいつはなぁ、竜だぞ」
「は?」
案の定というかなんと言うか全員が唖然とした顔をしている。やはり、いきなり言っても信じることはしないだろう。だからこそ、ここで証拠であるギルドの受付嬢を呼ぶべきだ。
「信じてないなら証拠を見せてやる!」
俺はギルドの受付嬢を呼んできた。私兵共は疑ったままで目を細めて俺とギルドの受付嬢を見てくる。
「エルザは竜で間違いないですよね!」
「ええ、はい。私が確認しました。彼女は竜で間違いありません」
「ふむ……それが本当なら我々に非がある。しかし、言葉だけでは認められん」
「彼女の……その……臀部辺りに鱗を確認しました。それでもダメだと?」
「我々は確認できていない」
「女性ですよ? まさか、そういう趣味が?」
「勘違いするな。貴方以外の女性にも確認してもらう」
うーむ。
まあ、問題はないが……
エルザがどういう反応するかだな。
「ま、また見せねばならぬのか?」
「俺に言われてもなぁ……そもそも、お前が問題起こさなきゃ良かったんだよ。てか、竜にはなれないのか? もしなれるならそっちの方が手っ取り早いぞ。絶対に」
「なれることはなれるが……笑わぬか?」
「絶対笑わないとは言えん。だけど、とっとと解決したいなら竜になるんだな」
「……わ、わかった」
渋々と言った表情でエルザは竜になると言う。俺としては興味深い事なので楽しみである。漫画やアニメでしか見たことの無い人から竜に変身するというシーンをこの目で見れるのだから。果たして、エルザはどのような竜に変身するのだろうか。
エルザは俺から離れて行き、私兵共がエルザが逃げたように見えていたから追い掛ける。しかし、俺がエルザの前に立ちはだかり阻止する。
「そこをどけ!」
「まあ、見てろ。エルザが竜に変身するんだからよ」
すると、俺の後ろの方で魔力が大きく揺らぐのを感じた。後ろを振り向くとそこには小さな白い四つ足の竜がいた。羽根はあるのだが飛べるような大きさはなく、角も立派なものじゃないから簡単に折れそうなものだ。
「なっ!?」
驚きの声を上げたのは私兵共で俺はじっくりと観察している最中だ。しかし、竜王の娘だから白い小さな竜になったエルザはどこか神々しさを感じさせる。まあ、中身はエルザなのですぐにその気持ちも霧散してしまうが。
「それで、領主の私兵さん達はエルザに対してどういう罰を下すんだ? ああ、嘘かどうかは分からんがエルザは竜王の娘だそうだ。もう一度聞くが、お前らどうする?」
「なっ……えっ、あ?」
混乱しててまともな返答も出来ない私兵に向かって俺はさらに追撃を行う。
「確か、この国は竜を崇拝してるんだよな? 国王ですら竜に平伏すらしいなぁ? 散々人を疑ったんだ。この落とし前、どうつける?」
「わ、私には決定権がない。この事は一度領主の元に持ち帰ってから……」
「別に俺は鬼じゃねえ。この事は許してやっても構わねえんだ。ただし、そこのお前。エルザに手を出そうとしたお前だよ」
俺が指を指した男は背を向けて逃げ出そうとしていた。しかし、俺に呼ばれた事で一度だけこちらに顔を向けると笑みを浮かべる。そして、全力で逃げ出した。
「悪いけど逃がす気は無いからな」
「なあっ!? な、なんで!?」
「なんでって普通に先回りしただけだ」
「あ、有り得ねえだろ!! 大した距離は無かったけど、他の奴らが壁になってたんだぞ。それをどうやって!」
「だから、普通に先回りしただけだ。それよりも、お前は許さん。しかし、俺も鬼ではない。だから、デコピン一発で許してやろう」
「へっ? で、デコピン? そ、そんなので許してくれるのか!? なら、さっさとやってくれ!」
逃げ出そうとした男はデコピン一発で許すと言ったら、喜んでデコを出してきた。俺はそんな男に敬意を表してデコピンを食らわした。
「ほげぇぇぇえええええ!!!」
思い切り後ろに吹き飛んでいく男を見届けて、俺はエルザの元へと戻る。エルザはいつの間にか竜から人へと戻っており、俺が帰ってくるのを待っていた。
「戻ったのか?」
「うむ。あの姿は恥ずかしいのじゃ……」
「そうか? まあ、今のお前よりは可愛く思えたぞ」
「今の妾の方が可愛いわ!」
「はいはい」
俺とエルザが他愛ない話をしていると、デコピンで吹き飛ばした男を抱えた領主の私兵達が近寄ってくる。
「その……この度は――」
「ここで見た事は他言無用だ。その男は首にしとけよ」
「えっ?」
「えっ? じゃない。返事ははいだけだ。いいな?」
「は、はい」
「よろしい。それじゃ、俺達は行くから」
「はい」
俺はエルザを連れて街の外へと向かう。領主の私兵達が俺との約束を守るかは分からない。だけど、後処理とか面倒なので全部丸投げするのが俺なのだ。
さて、エルザの故郷へと向かおうか。
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