天界騒乱⑦
倒れ付す女神を見詰めるミカエルとシエル。そして、唖然とした表情でこちらを見るキース達の三人。
予想していた状況ならば倒れている女神を見詰めているミカエルとシエルのどちらかが終末の使徒だろう。いや、シエルは有り得ないな。既に答えは出ている。
「ミカエルゥゥウウウ!!!」
こちらを振り向くミカエルへと瞬時に近寄り、掌底で腹部を打ち抜く。しかし、ミカエルは掌底が当たる瞬間に後方へと飛び去り掌底を避ける。シエルから引き離すことには成功した。
「キース! 今どういう状況だ!」
「えっ、あっ、ミカエルが! ミカエルが乗っ取られてるんだ! それで、シエルを人質に取って女神を一方的に……」
「十分だ。三人共、悪いがアテナを連れてここから離れてろ。おい、ミカエル。いや、終末の使徒。お前がNo.2だな」
ミカエルは俯き肩を震わせる。笑いを堪えてる様だったが、限界のようでお腹を抱えながら高笑いを始める。
「フフッ……ウフフフフフ……アハハハハハハハッ!」
ひとしきり笑うと涙が出てきたようで目元を擦っている。目元を擦り終えると、こちらを見詰めてくる。
「正解、大正解。私は終末の使徒のツヴァイよ。もう分かってるとは思うけど、私の能力でミカエルの身体に乗り移ってるの。それで、どうするの? この身体に攻撃出来る?」
挑発するように無防備な身体を晒すミカエル。どうやら、ツヴァイは俺にミカエルを傷付けせたいのだろう。
いい性格してやがるぜ。
ミカエルに向かって踏み出そうとした時、崩れた瓦礫からルシファーが飛び出してくる。
「おおおおおっ!!!」
「てめっ! まだ!!」
完全にルシファーの事が頭の中から消えていた。しかし、今更ルシファーが出てきた所でどうということはない。迫りくるルシファーをミカエルの方へと蹴り飛ばす。
ルシファーは床を転がりミカエルの足元で止まる。ミカエルの足元で立ち上がろうとしているルシファーだが、ミカエルに背中を踏みつけられる。
「情けないな~。天界最強が聞いて呆れるわ。足止めもうまく出来ないの?」
「うぐぐぐ……も、申し訳ありません」
「はあ……もういいわ。どっか消えて」
「なっ!? 今、私がいなくなれば誰がツヴァイ様を――」
「命じるわ。今すぐ消えなさい」
「はっ!」
ミカエルが足をどけるとルシファーは立ち上がり、崩れた天井からどこから遠くへと飛んで行った。これが、ツヴァイの洗脳だろう。いや、これは最早洗脳と言うより支配に等しいとも言える。
この能力で魔界のサタンも操ったのだろう。サードの言っていた通り最悪の能力だ。しかも、ツヴァイの性格も能力同様最悪なものだ。いや、この場合は能力と性格が噛み合って最高と言った方がいいかもしれない。
いや、やっぱ最悪だ。
「さあ、邪魔者はいなくなったわ。始めましょうか」
「随分と強気だな。ミカエルの戦闘力じゃ俺には勝てねえぞ」
「あら? 誰が一人と言ったのかしら?」
「なに?」
瞬間、背後から殺気を感じる。だが、気付いた時には遅く短剣が背中を突き刺した。刺した相手は見なくても分かる。だって、ずっと後ろに立っていたのだから。何故、何も喋らない事に違和感を感じなかったのだ。少しでも感じていれば刺される事などなかったと言うのに。
「ぐっ……」
「アハハハハハッ! どぉう? 守った相手に背後から刺される気持ちはぁ?」
「最っ高の気分だぜ……」
「……ウザっ。命じる。シエル、短剣で抉りなさい」
「はい」
短剣に力が加わり内蔵を抉ろうとした瞬間にシエルの手を取り、短剣を引き抜く。鋭い痛みが走るが構うことなく引き抜いた短剣をシエルから奪い取る。
これで攻撃手段は無くなったはずだ。今の俺にはシエルの攻撃は通用しない。恐らくではあるが。しかし、シエルの手を握っているのに無反応なのは不気味だ。だが、これが洗脳された者の状態だと言うことが分かった。
「あらあら、困ったわ〜。シエルが抑えられたら――」
ミカエルが困った顔をしながら頬に手を当てて身体をくねらせる。すると、シエルの後ろから魔法が飛んできた。
「彼らを使うしかないじゃない」
「なっ……にっ……!?」
寸前の所でシエルを抱えて魔法を避ける。魔法が飛んできた方向に顔を向けると、そこには女神を連れて部屋から出て行ったはずのキース達三人が立っていた。
虚ろな瞳をした三人はこちらへ手を向けると魔法を次々と撃ってくる。シエルを抱えて、再び避けようとしたらシエルが暴れる。そして、腕の中から逃げ出すと三人が放った魔法へと突っ込む。
「クソがっ!!」
ツヴァイの胸糞悪い性格に悪態をつきながら、シエルを庇う。三人が容赦なく魔法を放ち続ける。これでもかと言うくらいの魔法を放ち、集中砲火を浴びせてくる。
爆煙が部屋を満たし、周囲が見えなくなる。だが、ツヴァイが風魔法で爆煙を振り払った。
「あら、やっぱりあの程度じゃ殺し切れないか」
つまらなそうに溜息を吐くツヴァイ。俺は三人の魔法を障壁を張り巡らせて防ぎ切り、シエルを抱えたままツヴァイを睨み付ける。
「クソ外道が……ファイブ以上にクソッタレな野郎だ」
「失礼ね! 私は野郎なんかじゃないわよ! 立派なレディよ。そこの所、間違えないでくれる?」
「はっ……笑わせんな。テメェみてえな奴は野郎で十分だ!」
「カッチーンときたわ。その言葉、後悔させてあげる!」
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