天界騒乱④
時は少し遡り、悪魔達が襲来した直後に女神アテナは来客であるシエル達を自身の元に呼び寄せていた。
本来ならばシエル達は無関係なので早急に元の場所へ帰そうとしたのだが、天界に悪魔達が結界を張り巡らせて転移が出来ない状態である。その為、アテナはシエル達を送り返す事が出来ないので最も安全である自身の元に呼び集めたのだ。
だが、アテナには一つの不安がある。
「ミカエル。今の戦況はどうなっていますか?」
アテナとミカエルには天界を見渡すことの出来る千里眼がある。だから、天界にショウが来た時ミカエルはすぐに気付いたのである。
「今の所は均衡を保っていますが……長引けばこちらが不利になると思われます」
「そうですか……サタンとルシファーの姿は見えますか?」
「はい。サタンはここから1番遠い場所にいます。周囲を警戒はしているようですが、特に動きはありません。ルシファーに関してはどこにも見当たりません……」
「わかりました……ところで、ミカエルは今回の襲撃についてどう思いますか?」
「どうと言われましても……そうですね。突然の事なので驚いています」
「それだけですか?」
「はい。それだけですが?」
アテナはミカエルに質問を終えて、シエル達の方へ振り向く。
「皆さん、今日は折角の再会が台無しになってしまったことお許しください」
アテナが頭を下げるのを見て、シエル達は大きく手を振って謝罪は必要ないと答える。
「いえ! 気にしないで下さい! 私達の方にも問題があるので謝罪は必要ありません」
「ミカエルからは何も聞いてないのですか?」
「ミカエルからですか? ミカエルからは天界にショウさんがいるということを教えて貰っただけですよ」
シエルの言葉にアテナはひとつの確信を得た。そして、同時に自分の考えが間違っていて欲しかったと思い、ミカエルの方に振り返り魔法を放つ。
突然、アテナがミカエルに魔法を放ったのでシエル達は驚き固まってしまう。相当な威力の魔法が放たれたのでミカエルの姿が消えてしまう。白い閃光に掻き消されたミカエルだったが、無傷でアテナの前に現れる。
「女神様! いきなり何を!?」
「その小芝居をやめなさい。貴方は何者なのですか?」
「えっ!?」
ミカエルは声を荒らげてアテナに問うが、アテナは問いに答えることなく、逆にミカエルに質問を返す。突拍子もない質問にシエル達が驚きの声を上げる。シエル達よりも付き合いの長いアテナがそんな事を言うのだからシエル達が驚くのは当たり前である。
「フフッ……ウフフフ。いつ気が付いたのかしら?」
「ミ、ミカエル?」
突然、ミカエルの様子が変わり、まるで別人のように笑い喋り出すミカエルを見てシエルはミカエルの名を呼ぶ。
しかし、ミカエルは答えることはせずにシエルの方へと視線を向けるだけ。戸惑うシエルは声を詰まらせてしまう。
「シエルさん。そこにいるのはミカエルではありません」
「あら? おかしな事を言うのね。私は正真正銘ミカエルよ。身体は、ね」
「……ミカエルの体を乗っ取ったということですか」
「そんな……じゃあ、ミカエルは……もう……」
「フフッ、安心していいわよ。シエル様。別にミカエルが死んだ訳じゃないのよ。意識は無いだけで生きてはいるわ」
「なるほど……ならば貴方を倒せばミカエルは取り戻せるのですね」
「貴方に出来るかしら?」
「やってみなければ分かりません。シエルさん、ミカエルを傷付けることをお許しください」
「私も……私も手伝います。ミカエルは私の大切なお友達なんです! だから、私も戦います!」
「シエルさん……いいのですか? 戦うという事はミカエルを傷付けることですよ?」
「承知の上です……本当なら傷付けたくありません。でも、そうしなければならないのなら私は……」
「わかりました。ならば、もう何も言いません。では、行きますよ!」
「ちょっと待ちな! 俺達も手伝うぜ」
アテナとシエルがミカエルに攻撃を仕掛けようとした時にキースが声を掛ける。今まで黙っていたのは話しかけるタイミングなかったからだ。
「キースさん?」
「俺達も友達だろ? なら、俺達もミカエルを取り戻すの手伝うぜ」
「キースさん……ありがとうございます!」
「ん。キースだけじゃ不安」
「ふむ、そうだな。キースだけでは心許ないだろう」
「ちょっ、おい!」
敵の前だと言うのにほんわかとした雰囲気であるシエル達。もちろん、ミカエルが手を出せないようにアテナが牽制しているおかげなのだが。
「はあ……悪いけど、貴方達は勘違いしてるようね。私には絶対に勝てないわよ」
「はっ! 強がりはよせよ。人数の差は歴然だろ。お前に勝ち目なんて――」
「私はミカエルであってミカエルではない。でも、ミカエルなの。そして、貴方達をここまで呼んだのはだぁーれ?」
瞬間、アテナが魔法を繰り出そうとするが時すでに遅し。
「はぁい。ざーんねん」
ミカエルの側にはシエルが立っており、アテナは魔法を繰り出そうとしていた手を下ろす。その顔は悔しそうに唇を噛んでいた。
「ウフフフ。言ったでしょ? 貴方達では絶対に勝てないって」
ミカエルの笑顔がアテナ達を絶望のどん底へと突き落とした。
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