天界争乱
キースと話し込んでいたら、神殿が大きく揺れた。突然の大きな揺れにキースは驚きの声を上げる。
「うわっ!? なんだ? 何が起こったんだ!?」
「……キース! 今すぐ、部屋に戻るぞ!」
「そんなに慌てるほどか!?」
「いいから急ぐぞ!」
キースは分かっていないようだが、先程の揺れと共に強力な魔力を感じた。恐らくだが、悪魔が攻め込んで来たに違いない。しかも、四大天使を上回る強さを持つ悪魔がだ。
このままだとシエル達を危険に巻き込んでしまう。だから、一刻も早くシエル達を送り返さねばならないのだ。いくらなんでも、シエル達を守りながら戦うというのは困難を極める。
短い再会で申し訳ないが、シエル達には帰ってもらうべきだ。キースを引き連れて部屋に戻ると、シエル達の姿はどこにも無く部屋はもぬけの殻となっていた。
俺とキースがもぬけの殻となっている部屋に戸惑っていると背後から誰かが近付いて来る気配を感じて振り返ると、ミカエルがこちらへと向かってきている。
「ここにいましたか。二人とも、着いて来てください」
「ミカエル。今、何が起こってるんだ?」
「貴方は気付いているのではないですか?」
ミカエルが俺とキースを連れて歩き出した時、質問をしたら振り返って答えて来る。キースは何の事だか分かっていないが、俺はミカエルの問いに答えを返す。
「悪魔が攻めてきたのか?」
「その通りです。今は私以外の天使が迎撃に向かっています。私はアテナ様の護衛を任されていますから、この神殿に残っていたのです」
「シエル達の姿が見当たらないんだが?」
「シエル様達はアテナ様の元にいます。アテナ様は悪魔が攻め込んだ時、シエル様達を自身の元へと避難させたのです」
「どうして、元の場所に帰らせなかった! ここにいるよりそっちの方がよっぽど安全だろう!」
「空間が固定されてしまったのです。アテナ様でさえもシエル様達を元の場所に転移させることが出来ないのです……」
少々、乱暴に怒ってしまいミカエルが頭を下げて謝罪する姿を見て心を落ち着ける。
「いや……怒鳴って悪かった。シエル達の所へ案内してくれ」
「はい」
頭を上げて返事をしたミカエルの後を着いて行き、アテナとシエル達がいる部屋へと辿り着く。
「来ましたね」
「ああ。それで今はどういう状況なんだ?」
「簡潔に説明しますと、天界にサタン率いる七十二柱悪魔と上級下級悪魔の軍勢が攻めてきました。突然の襲撃により天界は混乱に陥ってます」
「戦況は最悪って事か?」
「ウリエル、ガブリエル、ラファエルの三人が部下を率いて戦っていますが厳しいかと……」
「……俺が出る」
「駄目です」
「なんでだ? この時の為に俺を呼び寄せたんだろう?」
「それはそうなのですが、貴方には彼女達を守って貰いたいのです」
アテナの言う彼女達とはシエル達のことだろう。確かに、俺が出向けば戦況は変わるかもしれないがミカエルの負担が増えてしまう。ミカエルはアテナを守るだけでなくシエル達まで守らないといけなくなるからだ。
もしも、ここまで悪魔が攻め込んでくればミカエルだけでは守りきることは厳しいかもしれない。アテナの言うとおり俺がここに残れば守りは強固なものとなるが、現状を打破出来る可能性は低い。
万が一にも天使達が押し負け、大量の悪魔がここに攻め込んでくれば俺とミカエルがいても到底守りきれない。
どうする……
どうすればいい……
「ショウさん」
俺が悩んでいるとシエルが声を掛けてくる。シエルのほうに顔を向けると、真剣な表情で俺を見詰めるシエルと目が合う。
「行って下さい。私たちの事は気にしなくていいですから」
「シエル、自分が何を言ってるのか分かってるのか?」
「はい。もちろん、わかってます。私達が負担になってしまっているんですよね。でも、大丈夫です。私はもう貴方に守られてるだけの存在じゃありませんから。自分の事くらい自分で守れます!」
「ミカエル……シエル達の強さは悪魔にも負けないか?」
「七十二柱の下位までなら四人が協力すれば戦えます」
その言葉を聞いて俺は覚悟を決めた。
「アテナ。すまん」
「……わかりました。貴方が望むならば、女神の名に懸けて彼女たちを守りましょう」
「恩に着る。この戦いで勝ち残る事が出来たら、俺に出来る事は何でもしよう」
「その言葉、忘れませんからね」
俺は部屋から出て行く前にシエルの方へと顔を向ける。
「成長したな、シエル」
「……はい!」
満面の笑みを浮かべたシエルを背に扉を開けて勢い良く、神殿の外へと向かう。通路を駆け抜け最高速で神殿の出入り口から空へと飛び出す。空から見下ろせば町では悪魔と天使が入り乱れ激しい戦闘音が聞こえる。
悪魔は蝙蝠のような黒い翼に黒い体で真っ黒な顔をしていた。元の世界で漫画やゲームに出てくる悪魔そのもと同じ姿だ。これなら、敵と味方が区別しやすい。
「ほう? なぜ天界に人間がいる?」
「あ?」
いつの間にか、複数の悪魔に囲まれていた。見た目は他の悪魔と違い、人間に近い容姿だ。その上、放たれてる威圧感が凄まじく、溢れ出る魔力だけで並みの人間を圧倒している。恐らく、こいつらが七十二柱の悪魔に違いない。
「強い魔力を感じたから、来てみればまさか人間だとは思いも――ゴッがッ!?」
「無駄口叩く暇があるのか?」
腕を組んで何かと喋っていた悪魔の胸を貫手で貫き殺す。落ちていく悪魔に目もくれず囲っていた悪魔を次々と殺す。
「馬鹿な……人間風情に我らが……」
「戦場で油断してたお前らが悪い」
容赦はしない。
敵は全て殺す!!!
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