女神の元へ
「……」
「……」
「えっと~あの~」
今、俺はミカエルと対面している。ミカエルのすぐ側では天使がおろおろとして動き回っている。気まずい雰囲気に耐えられない天使は何とか和ませようとしているのが目に見えて分かるのだが、ミカエルからゴゴゴッという効果音が聞こえてきそうなくらい、こちらを睨んでいる。
仁王立ちで俺を睨み付けるミカエルは、動き回っている天使に目を向けると、閉じていた口をようやく開いた。
「エルレイン。貴方が彼をここまで連れてきたのですか?」
「は、はい。女神様に救世主様を連れてくるように言われて……」
射抜くような目で見られたエルレインと呼ばれた天使は、ミカエルの質問に答えた。段々と俯き、声量が小さくならなければ良かったのだが。
「アテナ様が……」
ほう。
女神の名前はアテナか!
「わかりました。女神様のご命令とあれば仕方がありません。この……奴……隷? どうしたのですか、その目は!?」
今更か……
「敵にやられた。それだけだが?」
「貴方ほどの実力がありながら、敵に遅れを取ったと言うのですか?」
「評価してくれるのは嬉しいけど、俺より強い奴なんて沢山いるだろ」
「そうかもしれませんが……」
「これ以上この話は無しだ。早く、女神様のところに案内してくれないか?」
「……わかりました。貴方がこれ以上話さないのなら仕方がありません。エルレイン! アテナ様の元へ行きますよ」
「は、はい! ミカエル様!」
ちょっと、状況が飲み込めない俺はクロを呼び出す事にした。
「なんだ?」
「いや、ミカエルって天界じゃ結構偉いのか?」
「はあ? お前……ミカエルは天界じゃ天使達の総括みたいなもんだぞ」
「マジか! ちょっと天界について詳しく教えてくれ」
「なんで、俺様が……直接聞けばいいだけだろ?」
「うーん、そうなんでけどな……」
ミカエルとエルレインの後ろをクロと話しながら着いて行くと、ミカエルが振り返ってくる。なにかあったのかと後ろを振り返ってみたが特に何もない。ならば、自分達に用があるのだと判断して問いかけてみた。
「何か?」
「……やはり、まだそのケット・シーもいたんですね」
「ああん? いちゃいけないのか?」
「別にそういう訳では……」
「はっきり言えよ、永遠の二番手」
恐らくミカエルは堪忍袋の緒がぶち切れたのだろう。尋常ではない魔力が迸り、周囲に風を生んでいる。ミカエルと並んで歩いていたエルレインはいつのまにか遠くの空へと一人避難していた。
くそ!!!
俺も逃げたかった!!!
「ふふ……うふふふふふふ!!! 覚悟しなさい。天界では私の全力を出せますからね。塵一つ残さず消え去りなさい!!!」
ミカエルは光を放つ。極大な光は真っ直ぐにクロへと放たれて、言葉通りまともに受けてしまえば塵一つ残らない威力だ。
「ふん!」
まあ、まともに当たればだが。
「なっ!?」
「おい、クロ。ミカエルさんをあんまり挑発するな」
「はっ! 別に事実だからいいんだよ!」
「あのなぁ! 俺が防がないといけんだろ! お前、さっきのまともに受けれるのか?」
「ふっ……無論、受けたら死ぬ」
「じゃあ、挑発するな!」
「へいへい」
俺はミカエルが放った極大の光を拳一つで相殺した。驚くミカエルを無視して、クロを叱り付ける。クロは曖昧な返事をして、俺の肩に飛び乗ってきた。珍しく、帰るつもりはないみたいで一緒に着いて来るらしい。
しかし、いざ歩き出そうとしたらミカエルとエルレインが固まったまま動こうとしない。もしかして、先程の光景がまだ信じられないのだろうか。流石にそれは無いかと思いつつ、二人に話しかける。
「二人とも、早く案内して欲しいんだけど」
「え……え、ええ。少々、取り乱してしまいました。どうぞ、着いてきてください」
ぎこちない動きで先頭を歩くミカエル。その一歩後ろをエルレインが歩き、エルレインの横に並んでミカエルの後を着いて行く。
「ねえ、私救世主様の名前を聞いてなかったんだけど?」
「ああ。言ってなかったな。俺の名前はショウ。好きに呼んでくれて良いが救世主だけは無しな」
「じゃあ、ショウって呼ぶね!」
「ああ、うん。それでいいよ」
「ショウって凄いね! あのミカエル様の魔法をパンチで掻き消しちゃうなんて! ミカエル様は四大天使の筆頭なんだよ! 女神様の次に強い天使なのに凄いよ!」
「そ、そうか」
素直に喜べばいいのだが、ミカエルがチラチラと後ろを気にしているので何とも言えない。実際、さっきの魔法は前に受けた魔法よりも格段に威力が上だった。
つまり、ミカエルは天界でならその実力を余すことなく発揮出来るのだろう。多分だが、以前の俺ならチート武器無しではまともに戦うことすら出来ない相手だ。
今は負ける気がしないというよりも、冷静に判断して勝てない相手ではない。勝てないと言っても楽勝でとはならない。実際に戦ってみなきゃ分からないし、ミカエルがどんなスキルを持っているかも分からないので、勝敗は分からない。
「ほう……以前の貴方とは雰囲気が違いましたが、中身も多少は変わったようですね」
「そりゃどうも」
「もうすぐ、アテナ様の神殿です。念のために言っておきますが、私以外の四大天使もいますから言動には気をつけてください」
「わかった。面倒事はこっちもごめんだからな」
「そこのケット・シー。貴方もですよ」
「ちっ。めんどくせえな」
「そういう態度を取ってると本当に消されますよ」
「クロ、頼むから黙ってくれ。四大天使や女神を敵に回したくないんだ」
「仕方ねえな。黙っててやるよ」
なんとなくだが嘘と思う。きっと、絶対にクロはやらかす。しかも、恐らく自分には被害が一切ないようにだ。
もう考えても仕方ない。何かやらかした時は潔く謝ろう。一応、俺の使い魔なんだから主人である俺が謝らないとな。
「さあ、着きましたよ。ここがアテナ様のいる神殿です」
いよいよ女神様とご対面か……
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