新たな誓いを胸に刻む
先代勇者アキラとの出会いを果たした俺は、この空間から帰ろうと黒い影に話し掛ける。
「ここから出してくれ。俺は先に進まないといけなから」
「まあ、待てよ。俺の話も聞いてったらどうだ?」
「お前の話って……てか、結局お前からは何も聞いてなかったな!」
「そうだろ? だって、お前が話も聞かずにさっさと敵を倒しに行っちまったんだから」
「そういえばそうだった……でも、もうほとんど答えは出たし、アキラさんからも話を聞いたからな~」
「まあ、確かにな。でも、あいつが伝えてない事があるからそれを伝えるよ」
「えっ! まだあったのか?」
「むしろ、なんであの事を伝えなかったのかが分からん。もしかしたら、今回は起きないかもしれんが……それでもこれだけは伝えておかなきゃな」
なんだか、とても重要な事らしく影も言いにくそうにしている。しかし、それでも伝えるべきだと判断して影は語り始める。
「念のために言っておくが、俺も先代勇者の一人だ。とは言っても俺はアキラほど姿形を残せちゃいない。記憶と人格だけを残して姿形は適当さ。だから、この姿にはお前も見覚えがあるだろ?」
「それは確かに……ずっと気になってたんだけど、もしかして俺?」
「ご名答。この姿はお前を模写したものだ。だから、お前は見たような覚えがあったんだよ」
「なるほど。それで、あんたの名前は?」
「アキラの時とは随分態度が違うが、別にいいか。俺の名前は三日月竜胆。五人の内じゃ近接戦闘に特化していた。スキルも武神を得たしな」
「得たって言う事は、最初から持っていなかったのか……」
「まあ、前回とは仕様が違うって事だろ」
「とりあえず、全部説明して欲しい」
「ああ。俺の知ってる事全て話してやるよ。
まず、前回の勇者は五人組みで全員が元の世界では友達だ。学校からの帰り道に突然こっちに飛ばされて、国を救えってな。
そんであちこち動き回ってると終末の使徒と出会って、そいつらが各地を騒がせている元凶だと分かって長い戦いが始まった。
そんで、終末の使徒を倒してハッピーエンドにはならなかった。アキラも言っていたが世界は崩壊を始めた。
アキラは肝心なことを言ってなかったが……世界は改変され、俺達の事を異世界からの勇者ではなく侵略者に仕立てたんだ」
「それって……」
「お前の想像通りさ。俺達は救うはずの世界と戦いながら、崩壊していく世界を守ったんだよ」
「じゃあ、俺もこのまま戦い続けたら……」
「いや、それは分からん。前回と今回とでは違う点も多いからな。必ずしも同じ事が起こるとは限らない。だから、アキラも何も言わなかったのかもしれねえな……」
確かに前回とは異なる点は多いけど、事前に知っているのと知らないとじゃ訳が違う。しかし、世界が改変されるとはますます規模が大きくなった。
どう対策しても天変地異を一個人である俺が止められる訳がないのと同じで、世界の改変対策なんて取り様がない。
「その世界の改変って具体的にはどういう事なんだ?」
「細かく説明したいんだが……」
突如、真っ白い空間に亀裂が入ると卵の殻が割れる音のようなものが響き渡る。
「な、何が起こってるんだ!?」
「ちっ……もう時間か」
「おい、何が起こってるか教えてくれよ!」
「この空間は、俺達以外の異世界人が二度入ると消滅する仕組みになってるんだ」
「どうして、そんな仕様にしたんだよ!」
「悪用されないためさ。ここは時間の流れも違うし、異世界人なら死ぬ事もない」
「え? でも、お前修行の時は殺すって……」
「アレはお前をその気にさせる嘘だ。騙して悪かったが、もう時間がない。さっさとここを出て行くんだ」
「嘘って……いや、そんな事よりまだ聞いてないことが!」
「何度も言わせるな。時間がないんだ。このままだとお前もこの空間ごと消えちまうぞ」
「ッッッ!!!」
「もっと話したかったが、すまんな」
「……全くだよ、ちくしょう」
「ははっ、わりいな。ほら、出口を開いてやる。さっさと行け」
真っ白な空間にぽっかりと穴が開く。この三日月竜胆に合格を貰って外に出た時と同じ穴だ。姿形は俺だけど、中身はこの世界を一部だけだが救った英雄。だから、俺は今一度態度を改めて感謝の言葉を述べる。
「ありがとうございました、先輩!!!」
竜胆は驚いて一瞬固まったかのように見えた。真っ黒な影だからよく分からんが、驚いてるに違いない。感謝の言葉を贈った俺は穴に飛び込む。
「……頑張れよ、後輩!!!」
飛び込んだ瞬間に背後から、俺達後輩の為に記憶や人格や色んな情報を残してくれた偉大な先輩から激励の言葉を受け取る。背中を後押しされた俺は、振り向くことなく走り出して先輩達の期待に応えようと誓う。
師匠の元へと戻り、先輩達からの情報を説明をする。
「……一つ聞きたいんじゃが、三日月竜胆と名乗ったのか?」
「え? ああ、はい。俺を鍛えてくれた先輩の名前ですけど」
「そうか……これも縁かのう」
「えっと~話が見えないんですが」
「お前を鍛えた三日月竜胆はワシの祖父じゃよ。会ったこともないがな」
「えっ!」
驚いたが、よくよく考えれば師匠は武神を持っていたり、近接戦闘なら今だに俺よりも強かったりする。魔法を混ぜた戦いなら勝利出来るが、肉弾戦だけなら勝てるか分からない。
「少し、昔話をしよう。まだ、祖母が生きている頃に聞いた話じゃ」
師匠に聞かされた話は、竜胆に聞いた話と大差は無かった。強いて言えば、こちらの世界の住人目線の話で、後は祖母と祖父の惚気話を聞かされたとの事。
正直、もっと伝えるような事があったんじゃないかと思うが、そこは仕方がない。結局、師匠からは大した情報は得る事が出来なかったが、先輩達と会うことが出来たのは師匠のお陰なのでお礼をした。
「師匠、感謝します。師匠のお陰で先輩達に会えた事を」
「うむ。まあ、師匠と言わせたが、ワシが教えたのは気功術くらいじゃからな。もう、ワシの事は師匠じゃなくてもいいぞい」
「いえ。俺にとっては師匠は師匠ですよ。師匠の祖父、竜胆は先輩ですから」
「そうか。お前がそう言うならそれで良い。それで、もう行くのか?」
「はい。残る使徒を倒してきます」
「分かっておると思うが、残り二人を倒せば――」
「世界は崩壊する。そして、世界は敵になるですね」
「どうするつもりなんじゃ?」
「今まで通りにやるしかないです。俺、馬鹿ですから対策なんて思いつきませんし」
「な――」
「ですから、師匠と敵になった時は遠慮なくぶっ飛ばします!」
「……ふっ……ははははは。馬鹿じゃのう。しかし、それがお前か」
「そうですよ。これが俺なんです」
「わかった。ならば、何も言うまい。お前は、お前の信じる道を行け」
「はい! それじゃ、お世話になりました!!」
本来ならば、師匠と共に対策でも練れば良かったのだろうが、俺には何も思い付かない。馬鹿だからとか理由にしたけど、本当にどうしようもないくらい、対策が浮かばないのだ。だから、今は残りの二人を倒す事だけに集中することに決めた。
師匠と別れて、一人荒野を歩く。向かう先は決めていないが、きっと歩いてる内に使徒の元へと辿り着くだろう。
何の根拠もないけどな!!!
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