悪いけど、さよなら!
「ふっ……ふっ……」
身体が鈍らないように、今は筋トレに励んでいる。身体の方は本調子とまではいかないが、歩き回れるくらいには回復した。しかし、それでも軽い筋トレしか出来ない。医者が言うには、まだ動けるような身体では無いらしいが、やはりずっと寝たきりな生活は耐えられない。
「むっ!?」
部屋の外に人の気配を感じて、素早くベットに飛び込んで布団に潜りこむ。布団に潜り込んで、今まで寝ていたという雰囲気を出しながら、部屋に入ってくるメイドを迎える。
「おはようございます。朝食のご用意が出来たのでお持ちしました」
「おはよう。そこに置いといて貰える?」
「はい。畏まりました」
指示した通りにメイドが朝食をテーブルの上に手際よく配置していく。そんなメイドの様子を見ながら、ここ最近の事について考える。
あの日、ここから逃げ出そうとしてから二週間が過ぎた。三日間ほどは本当に動くのが辛くて仕方なかったが、筋トレだけはしていたのだけど、俺の様子を見に来たコリンに見つかってしまい大目玉を食らった。それ以降、筋トレすら禁止になってしまい、今みたいにこそこそとしている。
他のメイドにはまだ見つかっていないが、時折来るコリンが目ざとい。僅かな汗の匂いに気付き、俺がまだ筋トレをしていると分かってしまうのだ。有能なのはいいが、有能過ぎるのは困ったものだ。だから、コリンと他のメイド達の足音を聞き分けることにした。幸いコリンはメイド達の中で一番小柄なので足音を聞き分けるのは、そう時間は掛からなかった。
「お食事の用意が出来ました」
「ありがとう」
「いえ、お仕事ですので。それでは、また食べ終えた頃にお伺いします」
一礼して去っていくメイドが部屋を出て行くのを確認してから、ベットを降りる。窓を開けて換気しながら用意された服を着替えて、朝食を取る。
朝食を食べ終わり、用意されていた紅茶を飲みながら終末の使徒から得た情報を整理する。
まずは、この世界が俺達の元いた世界にある創作物を模倣している事。そして、世界を滅ぼすために各地で混乱を起こしている。まさにゲームのイベントと呼べるようなもの。
しかし、分からないのはこの世界が何の為に存在するのかだ。この世界は何度も滅びを繰り返して異世界人を呼び寄せている。だけど、その異世界人を呼び寄せると世界崩壊のトリガーが引かれる。一体何が目的で異世界人を召喚するのか、世界を救わせるのが目的なのか。
それとも、他に何か別の……
「失礼します。食器の片付けに参りました」
「……」
「あの、今よろしいでしょうか?」
「ん? ああ、お願いする」
「はい」
朝食を運んで来てくれたメイドが食べ終わった食器の回収に来ていた事に気付かなかった。ここまで、接近されるまで気付かないとは俺もまだまだ修行が足りないと思いつつ、メイドが食器を片付けるのを見詰める。俺の視線に気付いたメイドは、少し慌てたように話しかけてくる。
「あの、何か?」
「いや、少し考え事をしててな……」
「そうですか。視線が気になってしまい話し掛けたのですが、考え事の最中に申し訳ありません」
「謝る必要なんてないさ。こちらこそ、仕事の邪魔をしたようで悪いな」
「いえ、とんでもない! 私の方が英雄であられるショウ様のお邪魔を――」
「ああ、その辺で。俺は英雄なんて柄じゃないから」
「あっ! すみません」
「別に謝らなくても……それより、聞きたいことがあるんだけど」
「は、はい。なんなりとお聞きください」
「まだ、みんな忙しいのか?」
ここ最近というか、俺が最初に目を覚まして以来、コニーやブライアンといった親しい人間には会っていない。当然、シルヴィアもコリンもだ。まあ、コリンだけは時折短い時間ではあるが様子を見に来たりする。
「はい。まだまだ皆様お忙しそうにしております。少なくとも、あと半月はこの状態が続くとメイド長が仰っていました」
「そう……か」
みんなには悪いが、そろそろ出て行くか。
別れの挨拶でもしたかったが……
仕方ないか。
「何かお伝えする事がありましたら、お申し付けくださいね」
「じゃあ、早速頼もうか」
「わかりました。誰にお伝えしましょうか?」
「とりあえず、全員に。ありがとう、世話になった、と伝えて欲しい」
「えっと……それは、別れの挨拶のように聞こえるのですが……」
「別れの挨拶さ。メイドさんには悪い事をするけど、今までありがとう。俺は今日、出て行く」
「しかし、そのお体では!」
俺の身体には包帯が巻かれており、魔力を封じているが気は別だ。【気功術】を使い、身体強化を施して窓から飛び出ていく。突然の行動にメイドが驚き、声を上げる。
「ショウ様っ!!!」
「それじゃ、伝言よろしく!」
窓から顔を出して、俺の名を呼ぶメイドに片手を上げながら城を飛び出していく。何人かの兵士とすれ違うが、皆唖然として捕まえようとはしてこなかった。捕まるつもりは一切ないけどな。
走りながら、包帯を解いていく。相変わらず指を突き刺すような痛みが走るけど、我慢できない程じゃない。全ての包帯を外し終えて、道端に捨てるのは忍びないのでズボンのポケットに丸めて仕舞う。
追っ手も無いので、途中から走るのを止めて歩いて王都の外に向かう。道中、すれ違う兵士達がいたけれど、俺の顔を知らないので呼び止められる事すら無い。そうして、俺は王都から颯爽と姿を消した。
さて、まずはあの人の所に向かいますかね!
不定期更新ですがよろしくお願いします
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