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アホで不憫な彼は異世界で彼女を作る為に奔走する  作者: 名無しの権兵衛
第八章 世界を駆ける

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気まずい相手

「ここは……」



 目が覚めたら見慣れない天井が、そこにはあった。どうやら、逃走に失敗した俺はここに運ばれたみたいだ。またもや、お布団のお世話になってしまった。



「目が覚めましたか?」



 この声は!!!



 声の聞こえた方に顔を向けると、そこにはコリンがいた。椅子に腰掛けているコリンからは圧倒的なプレッシャーを感じる。



「あ、あの怒ってます?」


「まさか……祖国を取り戻してくれた英雄に怒りを抱くなど有り得ませんよ」



 オホホホと上品に笑って見せるコリンだが、感じるプレッシャーの重みがさらに重たくなる。間違いなく怒っている事が分かってしまい、心の中で冷や汗を掻く。



 もう一度、逃げ出そうかとした時、身体に違和感を感じる。妙に力が入らないと思い、布団を剥いでみると、上半身には包帯が巻かれ、包帯には刻印が刻まれている。一体何なのかと包帯に触れようとしたら、コリンが声を荒げて止めてきた。



「触れてはいけません!」


「えっ? っづう!?!?」



 触れてしまった指先が針で刺されたような鋭い痛みが走る。思わず、苦悶の声を上げてしまった。



「はあ……その包帯は貴方が無理をしないように魔力を縛る刻印を刻んでるんです。それと、貴方には解けないように呪術も掛けてあるので無茶はしないでください」



 出来れば早く教えて欲しかったなぁ



「や、やっぱり怒って――」


「怒っているに決まっているでしょう! 貴方は死に掛けていたのですよ!? それなのに、あのような無茶をして!! どれだけ心配したと思っているのですか!!!」



 そう言って怒るコリンは今にも泣きそうな表情をしていた。二人もの女性を泣かせてしまった俺は、とにかく謝る事しか出来ない。



「す、すいません……」


「何に対して謝ってるんですか……」


「いや、えっと……心配かけた事にです」


「……もういいです。これ以上は何も言いませんから、大人しくしていて下さい」


「は、はい……」



 目元を拭いながら言われると、何も言えなくなる。とてつもない罪悪感が胸を締め付け、己の浅慮さがつくづく嫌になる。コリンは、先程言ったとおり何も言うことなく部屋を出て行こうとするが、扉の前で立ち止まる。



「何かご要望があれば聞きますが?」


「えと……どういうことです?」


「何か飲み物や食べ物など欲しいものがあれば聞くと言ったのです。よっぽど無理な要望ではない限り叶えるつもりですが」



 つ、つまり……


 エッチな介護とか!!!


 いやいや、やめておこう。


 下手な事を言うとコリンに殺されそう……


 ……よし。



「じゃあ、コリンじゃなく他のメイドさんとかに看病を――」



 まだ、喋っている途中にコリンの目の色が変わると、ベットの真横まで近付いてきて顔を近づけてくる。近いのと凄まじい圧力で思わず顔を背けてしまう。



「何故ですか?」


「な、何故とは?」


「何故、私ではなく他のメイドを希望するのかという意味です。何か疚しい事でもあるのですか? 顔を背けてないで何か言ったらどうなんですか???」



 怖いよ!!!


 てか、近い!!!


 鼻息が当たってるぅ!!!



「その……怒らないで聞いてもらえます?」


「聞きましょう。ただし、内容によっては対処させて頂きます」



 どうして、そんな事を言うかなぁ!!!


 言いにくいじゃん!!!


 はあ……



「ほら、あの時さ……俺、コリンに色々言ったじゃん……それでさ……正直気まずいんです……」



 段々と声が小さくなり、最後の方は聞き取る事が出来ないくらい小さな声だ。もしかしたら、聞き返されるのではないかと不安に思ってしまうが、感じていた圧力が消えたのを感じて振り向くとコリンは既に離れていた。



「そういう事ですか……私はもう気にしていませんよ。あの時の貴方の精神状態を考えれば、当然の事ですからね」


「それでも……俺は」


「いいら気にしないでください。過去がどうあれ貴方は姫様を救い、敵を倒して国を取り戻してくれた。それだけで充分満足ですよ。それ以上は高望みです」


「そうか……わかったよ。ありがとう」


「お礼を言うのはこちらです。この度は本当にありがとうございます。いずれ、正式に貴方へ褒賞が出ますから、その時までには治していて下さいね。それでは」



 コリンが出て行った後、ベットに沈み込み天井を見詰める。



「あれ……結局俺の要望はスルーされてね?」



 気がつい時には、既に遅かったがよしとしよう。あまり、引きずっても意味がないからな。むしろ、下手に引きずっている方がよろしくない。また、二人を泣かせてしまうかもしれないから。余計な事を考えないように目を閉じると、いつの間にやら眠りについていた。



 目が覚めると、部屋は真っ暗になっており深夜になっていた。中途半端な時間に起きてしまったと、頭を掻きながらベットから降りる。まだまだ完治には程遠い身体で部屋を出て行き、トイレを探す。やたらと広い廊下を歩き回り、トイレを探すが見つからない。



 このままでは不味い!!!



 焦りながらも懸命にトイレを探し回り、廊下をうろついていたら曲がり角で誰かとぶつかってしまう。



「きゃっ!」


「うわっ!」



 転げることはなかったが、ぶつかった相手は尻餅をついていしまったようだ。慌てて手を差し伸べながら謝罪をする。



「すいません。大丈夫ですか?」


「ええ。だいじょう……ぶ!?」



 人の顔を見て、何を驚いてるのかと思ったらぶつかった相手はシルヴィアだった。お互い、気まずい雰囲気になりながらもシルヴィアは俺の手を取る。手を引いて立たせる。



「あ、ありがとう。そ、それじゃ!」



 シルヴィアはそそくさと立ち去ろうとするが、掴んだ手を離さない。



「えっと……離してくれると嬉しいのだけど」


「シルヴィアさん!」


「は、ひゃい!」


「トイレはどこにあるんです!?」



 膀胱がもう限界だった。内股になっている俺を見たシルヴィアはどういう状況なのかを瞬時に察して、トイレにまで案内をしてくれた。もう、駄目かと思ったけど間に合ってよかった。



「いや~、ほんとに助かりました」


「いいのよ。これくらい別に」


「何か怒ってます?」


「そう見えるかしら?」



 はい、とても。


 なんて言えません!



「お、俺の勘違いみたいですね! それじゃ、失礼します」



 これ以上下手な事を言う前に退散だ!



「待って!」


「な、なにか?」



 なんで!?


 なんで、呼び止めるの!?


 そっちも俺を見た時気まずそうにしてたじゃん!!



「あの時、なんで逃げようとしたの?」



 あの時って……


 お互いの秘密を暴露した時のことだよね!



「それは……はずかしかったからです」


「それだけ? 本当に?」


「……あとは軽蔑されると思って……」


「えっと……他には何かないの?」


「怒られるかなと……戦ってた理由が理由ですし……」


「じゃあ、それだけの理由で逃げようとしたの?」


「……はい」


「そっか……そういう事だったのね」


「あの~怒らないんです?」


「怒るわけないわ。私だって貴方に怒られるような事を言ったけど?」


「いや、別に……俺は部外者ですし、そういう風に思われても当然かなって思ってるんで……」



 そこまで言って会話が途切れてしまう。沈黙が続き、逃げ出したい空気だがシルヴィアがこちらを見詰めて動かないのだ。どうしようかと悩んでいたら、シルヴィアが搾り出すような声で尋ねてくる。



「その……最後に一つ聞きたいのだけれど……貴方が戦う理由って他には誰か知ってるの?」



 何を言うかと思えば、そんな事か……



「いいや。シルヴィアさんしか知らないですよ。まあ、サードの仲間を含めなければですけど」


「それって、つまり私だけしか知らないって事でいいのよね?」


「はい。そうですけど……」



 えっ!?


 なに!!??


 もしかして、脅迫のネタとかにする気!?


 もし、そうなら俺……終わりやん。



「そ、そうなのね! わ、わかったわ!! この事は誰にも話さないから安心して!」


「え……あ、ありがとうございます」



 なんか逆に怖い……


 ホントに安心していいのかな?



「それじゃ、おやすみなさい!」



 颯爽と去っていくシルヴィアの背中を見ながら、先程の言葉の意味について考えるが、考えてもわからないので部屋に戻り眠りについた。



 いい夢見れますように!!!

不定期更新ですがよろしくお願いします

ここまでお読み頂きありがとうございます

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