目が覚めて
「生きてるのか……」
目が覚めた第一声が己の生死を確認する言葉だった。視界に映る天幕を見上げながら、視線を移す。キングサイズのベットに寝かされ、羽毛布団に包まれていた身体を起こそうとしたが激痛が走る。
「ッ~~~!!!」
声にならない悲鳴を上げて刺激が無い様に布団に潜り込む。これ以上動くと死ぬかもしれないと思い、微動だにせず、ただ時が経つのを待っていた。
そして、暗かった部屋に朝日が差し込み、明るく照らす。明るくなった部屋を見渡して、ここがどこなのかを考える。
頭を捻って考えていたら、扉の開く音が聞こえてくる。なんとか首だけを動かして、扉の方に顔を向けると、そこにはメイドが立っていた。メイドは俺が寝ているベットの方に近付いてくると、布団を捲ろうと手を伸ばしてくる。
「お、おはようございます」
目を閉じ、慣れた手つきで布団を捲ろうとしていたメイドを驚かせないように小声で挨拶をする。こちらとしては最大限の注意を払ったつもりだったが、メイドはまるで死人が蘇ったかのように目を見いた。
しかし、そこはプロなのか分からないが、メイドは驚愕こそしたもの悲鳴などは一切上げず、冷静に挨拶を返してくれた。
「はい。おはようございます。姫様を呼んで参りますので、しばらくお待ちして頂いてもよろしいでしょうか?」
「え、あ、はい」
「ありがとうございます。それでは失礼します」
頭を下げてメイドは部屋を出て行く。流れるような動作に何も言えず、メイドが出て行った扉を見詰める。
考えても仕方ないか……
てか、姫様って……
間違いなくシルヴィアの事だろうなぁ。
ああ~~……
顔合わせ辛いな~~。
逃げたい……
でも、身体動かない。
ちくしょう~~!
現実逃避をしていたら、部屋の外から慌しい物音が聞こえてくる。どうやら、逃げる事は出来ないようだ。まあ、どっちみち逃げはしないけどな。
バンッと勢い良く扉が開かれ、部屋に一人の女性が飛び込んでくる。その女性の後ろには二人の男と一人のメイドがくっついていた。
『ショウ!!!』
俺の名を呼ぶ声が四つ重なる。激痛が走るのを我慢しながら上体を起こして、返事を待つ四人に挨拶をする。
「おはよう……シルヴィア様、ブライアンさん、コニー、コリン」
最初どう呼ぼうかと考えたが、結局無難な呼び方にした。
「よかった……目を覚ましたのね……」
「心配したぞ。このまま、目が覚めないのではと」
「ホントだぜ! 折角、国を取り戻したのにお前が死んでたら意味ないんだからよ!」
「……本当に良かった」
それぞれ思い思いをぶつけてくる。こんなにも思ってもらえて嬉しい限りだ。でも、俺はやらなきゃいけないことがある。どうしても、やらなければならない俺は身体に鞭を打ち、ベットから降りようとする。
「ぐっ……」
「む、無理をしないでください!!!」
ベットから降りて足を付けたが、上手く力が入らない俺は倒れそうになり、慌ててコリンが支えてくれる。コリンの支え無しでは上手く立てない俺は、全員を見渡してからやるべき事を行う為に、コリンからそっと離れる。
「すみませんでした……俺は、俺はあれだけ豪語しておきながらサードに敗北して、皆が命を賭けて守ろうとしたシルヴィア様を見捨てて逃げました……
今更、許されようとは思ってません。ただ、どうしても謝りたくて……これが自己満足だって分かってます。罪悪感から解放されたいっていう最低な考えだって事も……
でも、それでも俺は……謝りたかったんです……」
頭を下げて、謝罪の言葉と己の心情を独白していたが倒れてしまい四つん這いになってしまう。顔を上げようとしたが四人の顔を見るのが怖くて下を向いたまま固まってしまい、何も言えなくなる。
このまま消えたい……
誰か空気を!!!
空気を入れ替えて!!!
気まずいよおおお!
自分でこんな空気にしておいてなんだけど!
「そんな事を気にしていたのか?」
肩に手を置かれて、優しい声色でブライアンが語りかけてくる。まるで、最初から気にしていなかったかのように、怒っていると勘違いしている俺を慰めるような声。恐る恐る顔を上げると、四人は微笑ましいものでも見ているかのように笑っていた。
も、もしかして憐れんでる!?
「元々、お前には無関係な事だ。それなのに、お前を恨むことなどしないさ。むしろ、この国の住民でもないお前が命を賭ける必要なんて全くないんだ。だというのに、お前は再びサードに挑み、勝利した。そんなお前を誰が責めようか」
「えっと……」
「胸を張れ、ショウ。紛れも無くこの国を救ったのはお前なんだ。謝る必要はない。むしろ、無関係なお前に全てを託した不甲斐無い我々が謝るべきだ」
「……頭は下げなくていいです。その言葉だけで俺は満足です」
俺の一方通行の謝罪は大した意味が無かったらしい。その代わりに、貰えた言葉で俺は充分満足した。心の中にあった罪悪感を吹っ飛ばすには充分過ぎた。
「それより立てるか?」
「無理そうです……」
立てるかと問われて、立ち上がろうとするも足腰に力が入らず、立つ事が出来ない。相当、身体に負荷が掛かったようでしばらくは歩くことすらままならないだろう。
「それなら、手を貸そう。ほら」
「ありがとうございます」
差し伸べられた手を掴み、引き上げてもらうとベットに寝転がされる。
「まだ、完全には回復してないのだろう? あまり、無茶はするな」
「は、はい……」
「……」
「な、なにか?」
「いや、随分と丸くなったなと思ってな。出会った時とはまるで別人のようになっているぞ。前までは不遜な態度で生意気な感じだったのに今では生真面目になっているのがおかしくてな」
「それそれ! 俺もさっきからずっと気になってたんですよ! ショウの様子がおかしいって」
「うぐ……」
「もしかしてサードとの戦闘で頭に何か支障を来たしたのか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「じゃあ、どうしてだ?」
「その……色々とありまして……」
「しかし、その変わり様は――」
「はいはい。二人とも、そこまでです。これ以上の追求は可哀想ですからやめてあげましょう。それに、目覚めたと言っても歩く事すらままならないのですから、寝かせてあげましょう」
コリンが助け舟を出してくれたお陰で、これ以上の追求はなくなった。まだ、話し足りないのかブライアンとコニーは部屋から出て行こうとしなかったがコリンによって無理矢理出て行かされた。
部屋に残ったのは俺とシルヴィアのみとなったが、お互いに沈黙してしまう。
「……シルヴィア様。俺――」
「シルヴィア。そう呼んで」
「えっ? いや、でも一国の姫様を呼び捨てには」
「悪いと思っているんでしょう? なら、私の言う事を聞いて」
「う……はい」
「はい。じゃあ、呼んで」
「……シ、シルヴィア……さん」
「……いいわ。それで妥協してあげる」
ほっと一息吐いて、話を続けようとしたらシルヴィアの方から話を始めた。
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