無事に救出
ぶつかり合う閃光が徐々に弱まっていくのが、遠くで見ているシルヴィア達も分かり、同時に理解する。決着の時が近付いてきているのだと。
その場にいた全ての固唾を飲んで見守る。シルヴィアとコリンは祈るように両手を合わせて戦いの行く末を見届ける。
そして、遂に赤と蒼の閃光が消える。それは、決着がついた証明だと、その場にいる全ての者達が判断した。しかし、実際には二人は今も戦っている。ただ、外壁の上からでは見えなくなっただけに過ぎない。
だから、シルヴィアは勘違いをしてしまい岩山地帯に赴こうとする。ところが、シルヴィアの前にブライアンが現れて足を止めてしまう事になる。
「ブライアン。そこをどいて」
「シルヴィア様。今あそこへ行くのは危険かと」
「承知の上よ。例え、サードに殺される事になっても構わないわ」
「分かりました。では、馬を用意――」
「馬ではあの岩山地帯に行くまで時間が掛かります。ですからレランに乗ってください」
ブライアンの言葉を遮るようにアレイストが割り込んでくる。突然の申し出にシルヴィアは驚く。何か裏があるのではと疑うがアレイストの目を見て、すぐにアレイストの提案を受け入れた。
「わかったわ。アレイスト、レランを呼んでもらえるかしら」
「はっ」
アレイストは指笛を鳴らすと、竜の咆哮が王都に響き渡る。突然、竜の咆哮が聞こえて住民達が驚きパニックに陥ってしまう。アレイストはすぐに部下へと指示を出して住民達の下へと向かわせる。部下達は先程の咆哮について説明を行う。
普段はレランを呼ぶ時にこの方法は使わない。なぜならば、今回のように住民がパニックに陥ってしまうからだ。故に、普段はアレイストがレランの元へと赴き、出撃しているのだ。今回は緊急時の為仕方なしだが、シルヴィアの引きつった顔を見てアレイストは少しだけ後悔した。
レランが外壁の方へと飛んできて、着地するとアレイストはシルヴィアを抱えてレランの背中に飛び乗る。続いてブライアンが飛び乗ろうとしたら、レランは威嚇して乗らせないようにしてしまう。
「すまない。威嚇されて乗れないのだが」
「あっ……すいません。レランは認めた人間以外は乗せないんです」
「それはアレイストが認めた者か? それともレランが認めた者か?」
「後者です」
「そうか……この場では姫様以外は乗れないと言う事だな?」
「申し訳ありませんがその通りです」
「わかった。アレイスト、姫様を頼むぞ」
「はい!」
レランが飛び去るのを見届けたブライアンはふと疑問を抱く。なぜ、シルヴィアはレランに認められていたのかと。シルヴィアの人柄が良いのかと思っていたが、近付いてきたコリンが答えてくれる。
「ブライアン殿。アレイスト殿は姫様の婚約者候補ですよ」
「なに? そうだったのか……」
「はい。ですから、何度かレランの背中に乗っていたんです。だから、姫様しか乗れないという理由も納得できます」
「ほう……そうなのか」
豆粒ほど小さくなったレランを見ながら、コリンとブライアンは語る。
「アレイスト。もう少し早く出来ないの?」
「無茶を言わないでください。これ以上速度を上げれば姫様が耐えられませんよ」
早くショウの元へと行きたいと願うシルヴィアはアレイストにレランの飛行速度を上げるように聞くが、これ以上の速度を出せばアレイストは兎も角シルヴィアには耐えられない。それが分かっているアレイストはシルヴィアの要求には答えない。
しかし、少しでも早くショウの元へと向かいたいシルヴィアにとってはもどかしく、じれったいのだ。アレイストはシルヴィアの心情は分からないがもどかしそうにしているのが分かり、どうにかしたいのは山々なのだが何も出来ない。
せめて、少しでも気分を変えようと適当に話題を振ってはみるが、相槌を打つだけでまともな会話にすらならない。一応は、婚約者候補として何度か話した事もあるが、ここまでの反応は無かった。故に、アレイストは困り果てた。
「ねえ、アレイスト」
「は、はい。なんでしょうか?」
「さっきまでは凄い戦闘音が聞こえてきたのに、何で今は静かなのかしら?」
「それは決着がついたからでしょうか。あれほどまでの激戦ですから、どちらが勝っていたとしても相当な傷や疲労がありますから」
「……急ぎましょう。もし、サードが勝っていても今のうちなら倒せるわ」
「っ! はい!」
ほんの僅かにアレイストは顔を歪めた。疲れ切った所を狙うような真似はしたくはないが、サードを倒せる機会は今を逃せば二度とない。己の騎士道に反する事でも、今は優先するべき事があるとアレイストは拳を強く握り締める。
「これは……」
かつてここには岩山が連なっていたが、今ではその面影すら残っておらず、二人の戦いの苛烈さを表していた。見下ろす景色は、所々に亀裂やクレーターが映っている。ここまで凄まじいとはアレイストもシルヴィアも思っていなかったらしく、言葉を詰まらせていた。
そして、二人は一人の男を見つける。仰向けに倒れている男の顔は遠くて分からないが、少なくとも動かない事だけは分かる。ゆっくりと、レランは降下していき徐々に男の顔が見えてくる。
「ショウっっっ!!!」
血溜まりに沈む男がショウだと分かったシルヴィアはレランの背中から慌てて飛び降りようとするが、アレイストが寸前のところで引き止める。
「離して! あそこにショウが!!」
「分かっています! ですが、この高さからだと姫様がお怪我をしてしまいます!!」
レランはゆっくりと高度を下げているが、シルヴィアが飛び降りるには高すぎる。仮に飛び降りたとしても骨折で済めば御の字だ。焦るシルヴィアだがアレイストの言葉で落ち着きを取り戻し、レランが着地をしてから飛び降りた。
シルヴィアは血溜まりに仰向けで倒れているショウに駆け寄ると、呼び起こそうと名前を呼ぶ。
「ショウ! ショウ!! 起きて! ねえ! 起きてよっ!!!」
必死に呼びかけるが全く反応を示さないショウを見て、シルヴィアは段々と目に涙を浮かべる。
「起きて……起きてよぉ……お願いだから、目を開けて……」
懸命に呼びかけ、肩を揺すり起こそうとしているが、ショウは目を覚まさない。次第にシルヴィアの目からは涙が零れ落ちる。泣いているシルヴィアを見てアレイストはショウが死んだものだと判断してしまう。そして、周囲の状況を見て、彼が命と引き換えにサードを倒したと分かる。
だが、ショウは死んではいない。正確には意識を失っているだけである。二人がその事にいつ気がつくのかと思われたが、シルヴィアがショウの胸に顔をうずめた。
「え……心臓が動いてる……」
「え!? 姫様! 少し失礼します!」
アレイストはシルヴィアを押し退けて、ショウの心音を確かめる。大分弱っているものの、生きている事が分かり大急ぎでショウを抱える。
「姫様、急ぎましょう! 一刻も早く治療をしないと! この方を……この英雄を死なせてはなりません!!」
「ええ……ええ!! 急ぎ城に向かって! 彼を死なせはしないわ!!!」
ショウが最後に見たドラゴンはレランであり、彼の命を繋ぎ止める希望だった。
不定期更新ですがよろしくお願いします
ここまでお読み頂きありがとうございます




