戦いは最終局面へと
幾度と無くぶつかった俺とサードの影響で地形が完全に変わっていた。最早、最初に見た地形は原型を留めてはいなかった。
血を撒き散らしながら拳をぶつけ、肉を抉りながら脚をぶつける。筋肉は悲鳴を上げ、骨が軋み、命を削る。
全身の疲労は既に限界を向かえ、いつ倒れてもおかしくはない。だけど、目の前にいる最強の好敵手を倒すまでは倒れるわけにはいかないのだ。
「がああああ!!!」
獣の如く咆哮を上げながら拳を繰り出す。
「だあらああ!!!」
対抗するようにサードが雄叫びを上げながら、拳をぶつけて来る。
ドガンッと拳がぶつかっただけでは鳴らないような爆発音が響き渡り、衝撃波が大気を振るわせる。
互いの拳は何度もぶつけ合ったことで、皮が剥けて肉が露出しており血が流れ落ちている。当然、拳だけでなく脚も何度となくぶつけているので、ズボンは破け血が流れていた。痛々しい見た目になってはいるが、不思議と痛みは感じない。
恐らく戦闘による高揚感や緊張感が痛みを忘れさせているのだろう。興奮して寝られないのと同じようなものだ。
もう、どれだけ拳を交あわせたかわからない。どれほどの時間、サードと戦っているのかすら曖昧だ。たった数分、もしかしたら数十時間かもしれない戦いは終わりが近付いていた。
「ぐあっ……」
「うごぉ……」
ぶつかり合っていた拳は、相手の拳を潜り抜けて直撃する。それは、拳だけではなく蹴りも容易く決まるほどだった。
距離が離れる度に魔法を放ち、相殺させては爆発を起こし、再び近付いては子供のように取っ組み合い殴り、殴られる。
そして遂に限界を迎えた。
「くそ……」
自身を覆っていた力が弱まり始めたのだ。寿命を迎えた蛍光灯のように点滅を繰り返している。
「こっちもか……」
そして、それは俺だけに留まらずサードも同様に限界を迎えている。
「ぐっく……ぉぉぉおおおおおお!!!」
搾り出すように全身に力を入れて、雄叫びを上げる。正真正銘これが最後の力になる。点滅していた力は、最後の煌きを見せる。
「クハハハ……負けてたまるかよおおお!」
張り合うようにサードも最後の魔力を振り絞る。最初に見た輝きよりもさらに輝いて見える辺り、サードも最後の力だと分かる。
「これで」
「決める」
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!』
決着を着ける為に、最後の一撃をぶつけ合う。その瞬間、世界には俺とサードしかいないかのように世界は真っ白に染まり、大爆発を起こして世界は消えた。
全てが終わったかのように思えた。だけど、それは間違いでまだ終わってはいなかったのだ。
「……っ!」
気がつくと、岩山にめり込んでいた。目を開けて辺りを見回すとサードも同じく岩山にめり込んでいた。サードも目覚めたらしく目が合い、まだ終わってない事に気付く。
もう、魔力も気もない。
スッカラカンだ……
でも、身体は動く……
いや、違うな。
身体もすでに動けるような状態じゃない。
これは、意地だ。
あいつに勝ちたいと言う、ただの意地だ。
「うっ……くっ……」
本来なら、指一本すら動かせないような身体だが、ただ勝ちたいと言う意地だけで身体を動かし岩山から抜け出す。全く同じようにサードも岩山から抜け出していた。
一歩一歩と近付いていく。脚を上げる事すらままならない俺達二人は、足を引きずるようにずり脚で距離を近づけていく。
亀のような鈍重さであったが、ようやくお互いの拳が届く距離にまで近付いた。サードの顔をよく見て見ると疲労困憊で、最初の印象からは想像出来ない表情をしている。小突く所か少し強めの風が吹いただけでサードは倒れてしまいそうだ。
しかし、それは俺も同じで立っているのが不思議なくらいだ。一層の事、負けて楽になってしまいたい。
だけど、そんなことは出来ない。許されない。そんな事を考えるだけで自分を殴り殺したくなる。
ゾンビのように垂らしていた腕を振り上げて、サードを殴る。
俺達の間に会話は不要。語るべきは全てこの拳に。
「がぁっ……」
俺の拳はサードの顔面を捉えるものの、先程までのような威力はない。だが、今のサードにとっては致命的な一撃と言っても良い。その証拠にサードはふらつき倒れそうになる。しかし、倒れまいと踏ん張り持ち堪えると、お返しと言わんばかりに腹部を打ち上げられた。
「ぶっ……はぁっ……」
思わず胃の中身をぶちまけそうになるが、気合で持ち堪える。苦しみながらも、歯を食いしばり手刀をサードの鎖骨辺りに振り下ろす。
「ぐぅ……」
サードは両膝を地面に付き、追い討ちをかけようと拳を振り上げるが貫手を肋骨の隙間に刺されて、足を後ろに下げる。
「あぎぃ……」
苦痛の悲鳴を上げている間にサードが立ちあがっていた。少し距離が開いて拳が届かない代わりに蹴りが飛んできた。ほぼノーガードのわき腹に蹴りがめり込む。
「ぐ……ぶはっ……」
大量の息を吐き、身体をくの字に曲げる。すると、今度は膝蹴りが飛んで来て顔を打ち上げられる。衝撃で仰け反りながらも、反撃を試みようと手を伸ばして髪を掴む。
そのまま強引に引き寄せて肘鉄を顔面に叩き込む。体重を乗せるように叩き付けた為、サードと共に倒れ込む。
「がっ……く、くそ」
「ぐっ……はあはあ……」
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