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アホで不憫な彼は異世界で彼女を作る為に奔走する  作者: 名無しの権兵衛
第八章 世界を駆ける

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ここから本番

「さあ、行くぞ!」



 掛け声と共に地を蹴ると、地面が吹き飛び砂煙が舞う。瞬く間にサードの懐に入り込み、拳打を繰り出す。



「くっ! 速いっっっ!!!」



 サードは焦った声を出すが、俺の拳を捌いていく。しかし、俺の拳打は徐々にサードを捉えていく。受け流すのが辛くなってきたサードは僅かに表情を崩した。



「ぐ……くっ!」



 苦悶の声を上げるサード。そして、ついに俺の拳がサードに直撃する。身体を曲げるサードに追撃の連打を叩き込む。数百発ほどサードに叩き込むと、顎を打ち上げて上空へと吹き飛ばす。



 追いかけるように飛び上がり、打ち上げたサードに再び拳打を叩き込み、最後の一撃は踵落しで地面へと叩きつける。



 ズガンと人が地面に落ちたらするような音ではない爆発音が響き、地面がひび割れて揺れる。砂煙が舞い上がり、サードの姿をかき消すが、容赦など一切せずに魔法を連続で撃ちまくる。



「おおおおお!!!」



 吼えながら魔法を放ち続ける。ピタリと魔法を止めて、魔法を撃ち続けたせいで出来てしまった大穴を見詰める。底が見えない真っ黒な大穴を見詰めていると、光が飛んでくる。



 飛んできた光を手で弾くと、大穴からサードが飛び出してくる。サードは満身創痍になっていてもおかしくはない攻撃を受けたのにも関わらず、かすり傷一つない状態だ。



 あれだけの攻撃を受けて無傷か……



「くくく……ははは……ハーハッハッハッハッハッハッハ」



 俯いていたサードは肩を震わせたと思ったら、急に高笑いし始めた。



「なにがおかしい?」



 当然、急に笑い始めたサードを疑問に追った俺は素直に聞いてみた。



「ああ……悪いな。笑うつもりなんてなかったんだ。ただ、嬉しくてな」


「嬉しい? 殴られておかしくなったか?」


「そうかもしれねえな……俺様はよぅ……勇者にリベンジしたかったんだ。それが、今度の勇者は雑魚で臆病でおまけに女を見捨てて逃げる屑だった……

 怒り狂って、何かにぶつけたかったがそれでも収まるもんじゃなかった。あの時ははっきり言って心底絶望したぜ。待ち焦げれた勇者が期待外れだったんだからな。まあ、勝手に期待した俺様も悪かったんだがな……

 しかし、だ。お前は戻ってきた。戻ってきてくれた。しかも、俺様を殴り飛ばせるほどに強くなって!

 嬉しくないわけがない!!!

 俺様の夢が叶うんだ! 勇者にリベンジと言う夢が! 例え、それが別人だろうとお前は勇者だっ! 今のお前に勝つことで俺様の努力が報われる!

 ああっ! ようやく本気を出せる。身体が昂ぶり、血が滾る! 心が震え、魂が燃える!!!

 これがワクワクするって事か!!!」



 尋常ではない量の魔力がサードから発せられる。サードの髪と同じように真紅の魔力がサードを包み込む。魔力と気を合成させた俺とほぼ同じくらいの力を感じる。もしかしたら、俺以上かもしれない。



「ははっ」



 思わず笑い声をだしてしまった。目の前にいるのは俺を殺そうとした相手。だけど、同時に俺の弱さを教えてくれた敵。そして、倒さねばならない人。超えるべき壁なのだ。



 この緊張感、この高揚感。


 今まで一度も味わった事のないものだ。


 こんな事は思っちゃいけないことだ。


 でも、でも!!!



「ああ! 俺もワクワクするぜ、サード!」



 サードの魔力が高ぶると、共鳴するように俺の力も高ぶる。大気が振るえ、世界が震えているかのような錯覚に陥る。呼応するかのように天気が崩れ、暗雲がひしめき、雷光が轟き渡り大地を揺らす。



『勝つのは――』


「俺だ」

「俺様だ」



 お互いに勝利を求めてぶつかり合う。真紅の魔力を纏ったサードと気と魔力を合成させた紺碧の閃光が飛び散る。



 ぶつかっては離れて、ぶつかっては離れてを繰り返す。拳打と蹴撃をぶつけ合い、拳と拳、脚と脚で互いの攻撃を打ち消す。決定的な一撃をどちらも入れる事は叶わず、それでも目の前の好敵手ライバルを倒すために何度もぶつかるのだ。



「おおおおおお!!!」


「はあああああ!!!」



 二人同時に吼えて拳をぶつける。拳がぶつかった衝撃で周囲の地面が吹き飛び、お互いの威力を示す。拳を引いて、蹴りを放ちぶつかり合う。拳以上の衝撃で周囲を破壊し、お互いに距離を取ると魔力砲を放つ。



「はああっ!」



 腕に収束させた魔力をそのまま放つ。赤と青の魔力砲がぶつかって、大爆発を起こして消える。どでかいクレーターが出来上がり、脇目も振らずにサードへと接近する。サードも同じく接近して来て、拳打と蹴撃がぶつかる。



 拳打と蹴撃を繰り出しながら、魔法を混ぜていく。サードも全く同じ戦法で、魔法と魔法がぶつかり小爆発が起こり爆煙が舞い上がる。怯むことなく爆煙を切り裂くように手刀を放つ。



 手刀を打ち払われ、貫手が迫る。肘を打ち下ろして貫手を防ぎ、顔面目掛けて拳を放つ。拳は避けられ、蹴りが飛んでくる。脚を上げて蹴りを防ぎ、魔法を放って後方へと飛び退く。



 一進一退の攻防が続くが、一切の気が緩む事は無く、むしろどんどん集中してると言って良い。それだけ、サードとの戦いは激しく昂ぶるものなのだ。




 爆煙の中からサードが飛び出してくると、魔力砲を放ちサードを消し飛ばす。しかし、サードは身体を回転させて魔力砲を回避する。無駄のない動きで、魔法を連発して来て距離を縮めて来る。魔力砲を消して、両手で飛来する魔法を打ち払う。



 その間にサードとの距離はゼロ距離にまで縮まっていた。サードは突っ込んできた勢いを殺すことなく突き出してくる。魔法を打ち払っていた俺は対応に遅れてしまい、咄嗟に両腕を交差して拳を受けてしまう。



「ぐうっ!」



 今までのどんな攻撃よりも重たいサードの拳を受け止めた俺は痛みに声を漏らした。あまりの威力に地面を削りながら後ろへと下がる。ビリビリと両腕が痺れるのを感じながら、迫りくるサードに反撃をする。



「まだまだぁッ!!!」

不定期更新ですがよろしくお願いします

ここまでお読み頂きありがとうございます

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