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アホで不憫な彼は異世界で彼女を作る為に奔走する  作者: 名無しの権兵衛
第八章 世界を駆ける

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全力

 グッと拳を握り締めて、戦えるという事実を実感しながら拳を構える。



「クハハハ。いいね、その目付き。まだまだ、楽しめそうだ」


「その余裕、今のうちだけだぜ」



 ダンッと地を蹴り、サードの間合いに侵入する。拳打を叩き込むが、その全てがサードに打ち払われる。それでも、拳打を繰り出しサードに迫る。



 パシッと乾いた音が聞こえると、両手が掴まれた。振り払おうと力を込めるが、振り払えずに引き寄せられると、膝蹴りを顎に喰らう。



 衝撃で身体がのけ反り無防備な体勢になってしまう。追い打ちのように肘打ちを叩き付けられ、吹き飛ぶ。くの字に曲がった身体を戻して、岩山に着地すると弾丸のように飛び、サードへ蹴りを放つ。



 サードはブリッジのような体勢で蹴りを避けると見せかけて、足を掴んだ。そして、身体を回転させて俺を地面に叩き付けた。



「づっ!」



 頭から地面に叩き付けられ、僅かに地面へ身体がめり込んだ。真上にいたサードは、追撃の魔法を連続で放ってくる。両腕を交差して、障壁を張り魔法を防ぐ。



 夥しい数の魔法が撃たれ、視界が爆炎によって塞がれてしまう。爆炎を払い、視界を確保しようとした瞬間にサードが接近している事に気付き、飛び起きる勢いでドロップキックを放つ。



 サードは拳打を叩き込もうとしており、拳を突き出していた。しかし、サードの拳は俺の放ったドロップキックと相打つ。



 だが、上空から勢いを付けて拳を突き出したサードの方が強く押し込まれる形になってしまう。



「ぐっ……くっそ!!」



 なんとか拳を逸らすだけで精一杯だった。結果、サードの拳はすぐ側の地面に叩き付けられる。地面があまりの威力に弾け飛び、砕けた岩や小石が吹き飛んでくる。



 それらを手で払いのけながら、サードに視線を固定する。サードがゆっくりと拳を地面から引き抜いて立ち上がると、首をこちらに向けてくる。



「……お前……まだ力を隠してるだろ?」



 こいつ……


 気付いたのか?



「何の事か分からないな」


「惚けるつもりか……なら、力付くで引き出してやる」



 次の瞬間、目の前にサードが現れ腹部を殴りつけられた。



「ヴッ」


「オラア!!!」



 腹部を殴りつけられ、腹をぶち抜く勢いで上空へと打ち上げられる。追いかけてきたサードが拳打を繰り出し、腹の痛みを堪えつつサードの拳打を捌いていく。



 上空で戦っていたが、徐々に高度が下がって行く。魔法で浮遊する事も出来るが、自然落下を選び落ちていく。それは、サードも同じで共に地面へ落ちていくが、拳打は止まらない。



「く……はあっ!」


「ぜああ!!」



 サードの拳打を捌きつつ、自身も拳打を放つ。お互いに、決定打が入らないまま地面へ降り立つ。地面に降り立った瞬間に、蹴りを放つ。しかし、それは相手も同じでお互いの足がぶつかる。



 その衝撃で周囲の地面が吹き飛び、俺とサードの立っている場所を残してクレーター状になった。



「ちっ……」



 サードが舌打ちをする。何に対して不機嫌になったのかは分からない。



「なるほどな……まだ、足りないか」


「……?」



 一瞬何を言っているのか理解出来なかったが、すぐに分かるようになる。サードが纏っていた気迫が一層増して、魔力の奔流が迸ったのだ。



「ギアを上げるぞ!!!」


「ッッッ!!!」



 拮抗していたはずの力が一気に押されてしまい、体勢を崩す。後方へと距離を取り、体勢を整えようとした時、既にサードが眼前に迫っていた。



「遅い!!!」



 顔面を殴り掛かってくるが咄嗟に両腕を交差させて防ぐ。しかし、サードが拳を振りぬき防御を崩される。二撃目は防ぐ事が出来ずに、顔面に拳が叩き込まれる。



「がぁ……」



 鼻から血を吹き出し、吹き飛んでいく。幸い鼻が折れる事は無かったが、受けた痛みは大きい。流れ落ちる鼻血を拭き取り、サードを睨み付ける。



「早く、本気を出さねえと死ぬぞ?」



 奴の言うとおりだ。


 やっぱり、俺はどうしようもない馬鹿だな。


 ああ、そうさ。


 俺は漫画やアニメの主人公じゃないんだ。


 修行したからって出し惜しみ出来るような立


 場じゃないのに……


 本当にどうしようもないな……



「ふっ……はははははは」



 そうだ……


 そうだよ!!!


 最初から全力を出すべきだったんだ!



「俺は、お前と戦う為に強くなったんじゃな

 いっ!!!」


「あ?」


「俺は! お前を倒すために強くなったんだ

 !!」


「……」



 ホントに馬鹿だ。


 戦えるからって満足してた。


 そうじゃない。


 勝つために頑張ったんだ。


 なら、満足するのは勝ってからだ!



「行くぞ、サード!!! 全力全霊でお前を

 倒すっっっ!!!」



 サードに指を差して、そう宣言すると魔力を放出する。そして、その魔力と混ぜ合わせるように気を練り上げる。



「この感じ……まさかっ!?」



 魔力と気は水と油のようなもの。混ざり合うはずのない物を無理矢理、混ぜ合わせる事で莫大な力を得る。本当にこの世界は、つくづく俺のいた世界のマンガやアニメの世界観にそっくりだと思う。



 あまりにも都合が良すぎる。だけど、そのおかげで答えに辿り着いた。そして、この領域に踏み込めた。



「覚悟しろ、サード。これからが本番だ」



 迸る魔力と気を合成させた力。名前などは付けていない。でも、そんなものは必要ない。今必要なのは力のみ。



「さあ、行くぞ!!!」

不定期更新ですがよろしくお願いします

ここまでお読み頂きありがとうございます

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