ちゃんと戦える
ゆっくりと近付いてくるサードの表情は明るい。よっぽどまともに戦えることが嬉しいのだろう。俺を半殺しにした時は、不満が爆発して怒り狂っていたからな。そう思うと、サードの明るい表情は納得だ。
「クハハハハ。さっきの蹴りは以前と同じくらいの威力だったが、やはり耐えたか」
嬉しそうに話すサードを見ながら、俺は身構える。
「いいねぇ……まだ戦意を失っちゃいない目だ。それでこそ倒し甲斐があるってもんだ」
不適に笑うサードは美形なだけあって絵になる。しかし、今そんな事はどうでもいいのだ。戦いに集中せねばならない時に不要な考えは捨てるべきだろう。
「しかしだ……今のままじゃ俺様には傷一つ付けれないぞ。どうするんだ?」
ちっ……
やっぱり今のままじゃダメか……
「なんだその顔は? まるで、まだ余裕がありそうな顔してるじゃねえか」
どうやら、気付かぬ内に顔に出ていたらしい。いや、俺の場合はすぐ顔に出てしまう。だから、口元に手を当てると、自分が薄く笑ってる事に気付いた。
「ははっ……まあ、その、なんだ……ついな……」
「あ? なんだ、その意味深な言い方は」
「こうでなくちゃな、と……そう思ったんだよ」
「ほう……言うじゃねえか」
「度肝抜いてやるよ」
「はっ! ほざいてろ!」
サードが距離を詰める為に大地を蹴り、弾丸のように真っ直ぐ突っ込んでくる。拳打を放ち、サードを近づけさせまいとするが拳をかいくぐって懐に侵入を許してしまう。
そして、サードの拳が脇腹に決まろうかとした時――
「これが俺の新しい力だ」
――【気功術】を発動した。
サードの拳が脇腹に触れる寸前に【気功術】を発動し、身体を気が包み込み淡く発光する。全身を覆った気はサードの拳を防ぎ、僅かな隙を生んだ。
ほんの僅かな動揺。サードの見開いた目が驚愕の色に染まる。その僅かな隙があればサードの顔面に拳を叩き込むのは容易な事だった。
「ぐっ……」
頬を擦りながらも視線を逸らさないサードは俺の全身をくまなく観察している。口の中が切れていたようで唾を吐くように血を吐き捨てている。
「まさか、【気功術】を習得してたとはな……それに、その練度……お前、この1ヶ月で何があった?」
「答えると思うか?」
「はっ……そうだな。別にどうでもいいことだな!! 重要なのは俺様が本気を出して戦えるかどうかだからな!!」
サードは俄然とやる気が出たようで、笑みを浮かべると俺に向かって踏み込むと、瞬時に距離を詰めた。繰り出される拳をいなし、受け止めとサードの攻撃を捌いていく。
少しずつ後方へと下がり、背中が岩山にぶつかる。サードはそこを好機と捉えたのか、拳に魔力を集中させて尋常ではない威力の拳打を放つ。
受け止めるのは危険だと判断して、咄嗟に躱すとサードの拳が岩山を粉微塵に破壊した。今のを受け止めていたらと思うと、冷や汗をかいてしまう。
冷や汗をかいている俺を見たサードはニヤリと口角を吊り上げる。
「どうした? 怖気付いたか?」
「いや、改めて思っただけだ。やっぱりお前は強い、とな……」
「……クッ、クハハハハ! ああ……どうやら、お前はただ強くなってるだけじゃないみたいだな。中身も成長してやがる」
「そいつはどうも!」
パシッと突き出した拳が受け止められてしまう。手を抜いたつもりは無い。それなのに、簡単にサードは受け止めてしまった。思わず眉を寄せてしまい、サードに気取られてしまう。
くそ……
【気功術】だけじゃ足りないか……
受け止められた拳を引き、後方へと大きく飛んで退くとサードは追撃を仕掛ける様子もなく、ただこちらを見てるだけだ。何か企んでるのかと考えるが、どうにもわからん。
分からないのならば、考えても意味がない。じゃあ、俺がやる事なんて大してない。出来ることだけを考えればいい。
サードに向けて魔法を放つ。様子見程度で放った魔法をサードは拳で魔法を叩き付けると砂煙で姿を消した。
まずい!!
視界から消すのは!!
「バカが!」
「っ!?」
砂煙でサードの姿を見失ってしまった俺は焦り、簡単に背後を取られてしまった。気付いた時には背中を蹴り付けられて吹き飛んでしまう。
空中で体勢を整えようと宙返りをする。そのまま、地面に着地してサードの方向に目を向けると既にサードは消えていた。
「くっ!?」
サードがいた方向に目を向けていた時、不意に横から殺気を感じ取り、振り向くとサードが蹴りを放っていた。咄嗟に腕を上げて防ぎ、傷を負うことは無かったが両腕が痺れてしまった。
「もう一丁!!!」
「ぐうっ!!」
二発目の蹴りは一発目よりもさらに重く鋭い蹴りで防ぎ切れずに吹き飛び、岩山に激突してしまいめり込んでしまう。抜け出そうとした時にサードがドロップキックで岩山にめり込んだ俺を蹴り飛ばした。
岩山を突き抜けて吹き飛ぶと、地面を数回バウンドして止まる。どこぞのバトル漫画のように吹き飛んだ俺は所々かすり傷を負ってしまう。
これだけの攻撃を受けてかすり傷だけで済んでしまう辺り、人間を辞めてるなと心の中で笑う。まだまだ、余裕がある俺は立ち上がりこちらに歩いて来るサードに身体を向ける。
気で強化してるけど、まだ勝てんな……
だけど……ちゃんと戦えてる。
俺は戦える!
不定期更新ですがよろしくお願いします
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