小手調べ
「さあ、始めようか」
「ここじゃ、他の人に迷惑が掛かる。場所を変えたいんだが?」
「はあ? 人形の事なんて気にする必要なんて無いんだよ。俺様はお前と早く戦いくてうずうずしてんだよ」
「例え、お前が何と言おうとここじゃ戦わん」
「そうか……なら、戦わざる状況に変えてやるよ!!!」
サードが腕を振り払い周囲の人たちを吹き飛ばそうとしたが、腕を掴み阻止する。
「ほう……今のを止めるか。じゃあ、こいつはどうかなぁ!」
「させるか!」
掴んでない腕をシルヴィア達に向けると、サードは魔法を放つ。放たれた魔法を防ぐべく、シルヴィア達の前に一瞬で移動し魔法を防ぐ。
「クハハハ。やるね~」
ダンッと床を蹴り、サードに接近すると掌底を顎に向けて放つ。しかし、サードはバク転の要領で掌底を回避すると、ついでと言わんばかりに蹴りを放ってくる。蹴りを受け止めると、サードの脚を掴む。
サードは強引に身体を捻り掴まれた足から俺を引き剥がそうとする。だが、一度掴んだ足を離したくはない俺は無理矢理サードの動きを止める。
「ッ!?」
流石のサードもこれには驚いたのか短いが驚愕の声を上げた。動きを止めたサードの足を持ったまま飛び上がり、天井をぶち抜いて教会の屋根に上がると、サードを屋根に叩き付けた。
サードは屋根を突き抜けて教会の床に激突する。天井を破り出て行ったと思ったら、今度は天井を打ち破って人が落ちてきたのだから、式場にいた人たちは驚いていた。
「着いて来い、サード!」
致命傷でもないし傷を負ったわけでもないはずなのに動かないサードを見て、俺は挑発するように声を張り上げる。そして、他の人達に被害が及ばない所へと行こうかとした時、シルヴィアに声を掛けられる。
「ショウ! 今度は勝てるの?」
以前までの俺なら自信満々に、この質問に答えただろう。必ず勝つ、と。だが、今の俺は分かっている。恐らく、サードと俺に差はない。勝てるかどうかは五分五分と言えるかどうかの差だ。
それに、シルヴィアは知っている。いや、見ていたのだ。俺がどのようにして負けたかを。そして、無様にも地を這う芋虫の如く逃げ惑う姿を。
だから、確かめるために聞いてきたのだろう。なら、俺の答えは決まっている。
「分からない。だけど、さっきも言ったように俺はもう逃げない」
それだけを伝えると、シルヴィアの返答を待たずに飛び去る。そのすぐ後に、爆発音が聞こえると、サードが俺を追いかけて来た。
「そうだ! 着いて来い!」
「クハハハ。言われなくても着いていってやるぜ!」
笑い声を上げながら、サードは俺の後ろを着いて来る。建物の上を駆け抜け、王都を飛び出し荒野を駆ける。王都が目に見えて小さくなるまで走り続けた。
ようやく、他に生き物がいなさそうな場所を見つけ立ち止まった。周囲には草一つ生えていない平原と小高い岩山しかない。ここならば、サードと戦っても誰にも迷惑は掛からないはず。
「ほう……いちいち面倒な事をすると思ったが、確かにここなら誰の迷惑にもならないだろうな」
どうやら、サードも周囲に生き物がいない事が分かったらしい。
「さて……これで戦えるな」
そう言ってサードはローブを脱ぎ去った。初めてサードの素顔を拝見する事になり、今更ながら驚いてしまった。
サードの見た目は背格好こそ俺と変わらないが、顔面偏差値は向こうが圧倒的に上だった。目に入らない程度の赤髪に、真紅に染まった瞳。細い眉だがサードの獰猛さを現すように逆八の字になっている。そして、ようやく戦えることに歓喜した口は三日月のように釣り上がっていた。
「初めて……初めてフードを取ったな」
「ん? ああ。戦うには邪魔だからな」
「それは、つまり俺はようやくお前と対等に戦えるってことでいいのか?」
「そうだ。喜んでいいぜ?」
「ふっ……喜ぶのはお前に勝ってからにするぜ!!」
会話を打ち切るようにサードの間合いへと踏み込む。当然、反応していたサードは笑みを崩さないまま拳を放ってくる。拳を受け流して、腹部に拳打を放つが膝蹴りで逸らされる。跳ね上がった拳はサードに掴まれてしまい、引き寄せられる。
引き寄せると同時にサードが拳打を顔面に向けて放ってくるが掴まれていない手でサードの拳を受け止める。お互いに両の手が塞がったものの、足は健在なのだ。
互いの思考はほぼ同じで膝蹴りを放ち、脛と脛がぶつかる。衝撃が全身に響き渡り骨にまで届いた。痺れる様な痛みが伝わってくるが、以前比べれば大したことはない。
サードと互角に戦える。この思いが痛みなどを忘れさせてくれる。
「クハハハ。この程度で喜ぶのは早いぞ」
「喜んじゃいない。ただ、お前とも互角に戦えるって実感しただけさ!」
バッとお互いに離れて距離を取る。サードは自然体のままで構えたりしないが、俺は独自の構えを取る。
「それがお前の構えか?」
「さあな」
曖昧な答えを返して、サードを見る。一見すれば隙だらけだが、修行してわかった事なのだが、サードに隙などありはしない。隙だと思い踏み込めば返り討ちに合うのは間違いない。だが、サードが動かない以上こちらから仕掛けねばならない。
どうするか……
先に仕掛けるべきか、否か……
はっ……俺は馬鹿だな。
考えた所で意味がない。
なにせ俺だからな!
地面が陥没し蜘蛛の巣のようにひび割れるほどに踏み込むと、一気に加速してサードへと近付く。常人ならば視界に捕らえることすら出来ない速度でサードの懐へと侵入するが、サードは反応していた。
「ふっ!」
「ぐぅ!」
僅かな時間でサードと打ち合い、負けて後方へと下がる。殴られた頬を擦り唇の端から流れる血を拭き取る。
やはり、向こうの方がまだ上か……
「今のは良い動きだったぞ。だが、その程度じゃ俺様には勝てんぞ」
「ああ……そうみたいだな」
「さあ、どうする?」
「どうするもこうするもねえよ。やることはただ一つだ!」
サードへ距離を詰めると、拳打の嵐を繰り出す。サードは避ける、受け流すといった動作をしながら後方へと下がっていく。そして、背中が岩山にぶつかり、一瞬気が逸れた瞬間を狙って力を込めた拳打を叩き込む。
岩山を破壊したが、サードは直前に消えていて背後の岩山に立っている。
「次はこっちから行くぞ!」
サードが消えると、目の前に現れる。先程の俺と同じように拳打の嵐を放つ。サードの拳を避け、受け流すが腹に一撃貰い動けないところに蹴りを受けて吹き飛ぶ。岩山を突き抜けて吹き飛びながら体勢を空中で整えて着地する。
「ッ……」
腹部の痛みを噛み締めながら、すぐ側まで来ていたサードに目を向ける。
余裕のある顔浮かべやがって……
不定期更新ですがよろしくお願いします
ここまでお読みいただきありがとうございます




