話し合いとショッピング
第三者視点となります
ショウが【気功術】を会得していた頃、カリギュオ帝国ではリュードとカリギュオ帝国皇帝ゲイル・チェイス・カリギュオが顔を合わせていた。
「遠路はるばる、ようこそカリギュオ帝国へ。余はカリギュオ帝国皇帝ゲイル・チェイス・カリギュオ。今後ともよろしく頼む」
「お出迎え感謝します、ゲイル皇帝。私は、エルバース大陸アルカディア三国の三国王が一人、リュード・エルレイ・アルカディアです」
お互いに自己紹介を済ませると、笑顔で握手を交わす。リュードは皇帝がどのような人物かを見極めるため、色々な質問をした。
ゲイルもリュードの意図に気付き、全ての質問に答えて見せた。ここで下手に悪い印象を与えてしまえば、侵略の恐れがあるからだ。今回、リュードが特産品を持ち込んだからと言って敵対しないとは限らない。
これは、今後仲良くしましょうね、という意味が込められている。当然、リュードもこの意味がゲイルに見透かされている事は分かっている。
リュード本人としては現状、帝国に敵対するつもりはないが、帝国側は分からない。最悪、戦争になるかもしれない。それを回避する為にゲイルの人柄を確かめているのだ。リュードは自国の民が傷つけられれば戦争も是としているが、自国の領土拡大といった争いは好まない。出来る事なら、困った時お互いに手を差し伸べられる関係にしたいとリュードは思っている。
リュードのそんな思いとは裏腹にゲイルには野心がある。ウバル大陸を制覇し統一させる事だ。しかし、目の前にいるリュードがどれだけの国土を、どれほどの戦力を有しているか分からないが為にゲイルは迷っている。
だが、それ以前にあの英雄ショウの出身地であるエルバース大陸だ。もしも、あの英雄ショウが敵対すれば、間違いなく滅ぼされるのは自分達であろう。なにせ、目の前でドラゴンゾンビを跡形も無く消したのだから。
「リュード殿、今後ともよろしく頼む」
「ゲイル殿……ええ、こちらこそ」
答えなどあってないようなものだ。エルバースもとい英雄ショウを敵に回すくらいなら、この野心は墓場まで持っていこうとゲイルは心に誓った。
「リュード殿、長旅で疲れているだろう。しばらく、この城で休んでいくといい」
「おお。それは有り難い」
「では、侍女に部屋まで案内をさせましょう」
ゲイルは侍女達を呼び寄せて、リュードを部屋まで案内させる。応接間からリュードが出て行き、応接間にはゲイルと付き人のみとなった。
「よかったので?」
「……あれで良いのだ。仮にウバルを制覇し統一してエルバースに攻め入ったとしても英雄ショウが出てくれば滅びるのは余達だ」
「しかし、いくら英雄とも言えども所詮は一人の人間に過ぎません。数で押せば勝てるのではないでしょうか?」
「そうだな……昔から英雄とは人の手によって死ぬものだ。しかし、どれだけの犠牲を支払えばいい? 百か? 千か? それとも……」
「いえ。申し訳ありません。差し出がましい事を言いました」
「良い。お前はこの国の為を思って言ってくれたのだろう。ならば、責める気など余にはない」
「陛下の寛大な御心に感謝を」
「少し、一人になりたい。お前はリュード殿の連れ人達の部屋の準備をさせるように侍女達に伝えておいてくれ」
「は。直ちに」
付き人であった男が部屋から出て行くのを見届けたゲイルは陰鬱な気分で溜息を吐く。柔らかいソファに沈み込む程、座りながら天井を見上げて愚痴をこぼす。
「貴族共が黙っていないだろうな……これからまた忙しくなるか……」
いくらゲイルが皇帝といえども反発する貴族はいる。何かしらの行動をする貴族もいるだろう。それこそ、直接的にリュードを暗殺しようとしたり、こじつけた理由で戦争を企てたりする輩は必ずいる。
ゲイルは今後の貴族達への対応に陰鬱な気分になってしまったのだ。国を治める者としては、避けては通れない道だ。こうして、またゲイルのストレスが増えていくのであった。
父親が頭を悩ませている頃、娘のカーラは呑気にリズ達とショッピングを満喫していた。
「ねえねえ! これなんてどうかしら?」
「あっ! それいいわね! いくらかしら?」
「えっと……そんなに高くないわ」
「どれどれ……え”っ!?」
女性らしからぬ短い悲鳴を上げるリズに不思議そうな顔をするカーラ。どうやら、カーラにとっては安くともリズにとっては手が出せない値段だと言う事がはっきりとわかる。
しかし、リズは既にエルバース大陸では屈指の冒険者であるはず。ならば、稼ぎもいいはずで服ごときでうろたえるはずがない。
「ちょっと、私には手が出せないわね……」
「そう? なら、私が買ってあげようか?」
「いやいや! それはいいって。流石に悪いわ」
「これくらい大したことないわ。ちょっと待ってて。すぐに買って来るから」
「ちょっ! 待って!! 待って、カーラ!」
強引にカーラを引き戻そうとするが、カーラも意地になっているのか中々引かない。確かにカーラならばリズに買ってあげるのは容易な事だろうが、リズからすれば堪ったものではないのだ。
いくら、友達になろうともカーラは皇女なのだ。その皇女に服を買ってもらうなど、リズにとっては恐れ多いことだ。それに、まだ帝国とどのような関係になるか知らないリズにとっては絶対に迂闊な真似は出来ない。
だが、しかしもうそれは遅いといえるものだ。そもそも、カーラとこうして仲良くショッピングに行ってる時点でアウトだ。
「リズは随分と仲良くなりましたよね」
「そうだね~。でも、そんなに心配しなくてもいいと思うよ~」
「どうしてですか?」
「勘だけど上手く事が運ぶような気がするの~。それに~ショウが絡んでる時点で安心しかないよ」
「ソフィーはたまに核心を突いたような事を言いますね」
「セラが少し考えすぎなだけ~」
カーラとリズのやり取りを見ていたセラとソフィーは今後の展開について話をする。マイペースな考えのソフィーだが確信めいた事を言ってセラを驚かす。
そして、セラとソフィーがカーラとリズのやり取りを観察している時、ローラとキアラはこちらの様子を窺がっている騎士たちに目を向けていた。
「ここ女性服専門店なのに……」
「まあ、彼らも任務なのでしょう。それよりも、あまり彼等を凝視するのはやめた方がいいのでは?」
「でも、キアラ先輩。あいつらの視線が厭らしくて!」
「落ち着いてください、ローラ。あまり、騒ぐとお店に迷惑です」
「う……はい」
遠目ではあるが店の外から二人組の騎士が、こちらを覗き見るような視線にローラが不愉快になり、キアラも平静を装って見せているが不愉快に感じていた。楽しくショッピングを楽しみたいのに、騎士たちのせいで楽しむものも楽しめない。
いくら、彼等が任務でこちらを監視してると分かってても嫌なものは嫌なのだ。出来る事なら彼等を叩き伏せ、なんのしがらみも無く観光を満喫したいとキアラとローラは心の底から思った。
「なあ、エレノア」
「はい。なんですか、タカシ様?」
「どうして、俺達はあいつらのお守りをせにゃならんのだ」
「それは彼等がここで騒ぎを起こさせないためです」
「いっそ殺した方が良くないか。むしろ、殺そう。俺の目的はクラスメイトに復讐だったんだから」
「タカシ様が望むならお手伝いしますよ?」
「……止めないのか?」
「どうしてですか? 例え、タカシ様が犯罪者になろうとも私は共に着いて行きますよ」
「……いや、やめよう。ずっと逃げ続ける生活なんて送りたくないからな」
桐谷達の動向を見守るようにタカシとエレノアは待ちを歩いていた。物騒な会話を交えながら歩いていたが、エレノアの最後の言葉にタカシは目を見開き、フッと笑みを零して立ち止まる。
「俺一人ならともかく好きな人を巻き込むわけにもいかないからな……」
足を止めてポツリと呟く。エレノアに聞こえないくらいに小さな声は人々の雑踏に掻き消される。
「何か言いましたか?」
「いや、なんでもない」
そう言って歩き出すタカシの後ろを歩くエレノア。彼女は俯きがちにタカシの背中を見詰める。その時、エレノアは顔だけでなく耳まで真っ赤に染めていた。
「今度はちゃんと言って下さいね」
「ん? 何か言ったか?」
「ふふっ。秘密です!」
悪戯っ子のように笑うと、エレノアはタカシよりも前に出ると、振り返りながら手を伸ばす。
「さあ、行きましょう。タカシ様」
ばつが悪そうにタカシは後頭部を掻きながら、エレノアの手を握る。そうして、タカシとエレノアは恋人のように手を繋ぎながら桐谷達の監視を続けた。
きっと、この光景をショウが見ていたならば憎悪に満ち溢れた血眼で凝視し、地獄の亡者の如く泣き叫ぶことだろう。
「リア充爆発しろぉぉぉっっっ!!!」
聞こえないはずの声が聞こえたのか、タカシはブルリと身体を震わせた。
不定期更新ですがよろしくお願いします
ここまでお読みいただきありがとうございます
一先ずこれで修行編は終わりという形になります。




