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アホで不憫な彼は異世界で彼女を作る為に奔走する  作者: 名無しの権兵衛
第八章 世界を駆ける

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ハル、ショウについて話す

「わ、私がこの町を治めている町長にございます。よもや国王陛下とは露知らず、碌なお出迎えも出来ず申し訳ございません」


「わ、私も無礼な態度を取ってしまい申し訳ありませんでした」



 リュードの前には床に頭を擦り付ける初老の男とここまで案内をしてくれたハルがいる。確かに身分で言えば国王であるリュードに頭を下げるのは分かるが、リュード自身は別の大陸から突然やってきたのだからそこまで頭を下げなくてもいいと思っていた。



「頭を上げてくれ。突然訪れたのはこちらだ。それにここは私の国ではないのだから、頭を下げる必要なんてないんだ。だから、頭をあげてくれないか?」


「しかし……」


「なら、こうしよう。私はただの旅人だ。だから、貴方達は気にすることはない」


「で、ですが……」



 いきなり、そんな事を言われても、はいそうですかと受け入れられるような度胸を町長とハルはしていない。いまだに渋っている二人を見て、リュードは失敗したという表情を見せる。



「最初から身分を明かさなきゃよかったじゃねえか……」


「タカシ様。口に出ていますよ」


「いや、国王だって言えばこうなる事くらい分かってただろ。余計な面倒を起こしやがって」


「それはそうですが……それを口にするのは駄目ですよ、タカシ様」



 リュードには聞こえない声で話しているタカシとエレノア。タカシはリュードの対応の悪さに文句を言っている。タカシの言うとおり、リュードが最初から身分を明かさずにいれば事は順調に進んでいたかもしれない。



 だが、そもそもリュードが国王だとしても、いきなり国王だと言うような人物を信じる事などしないだろう。それなのに、この町の町長とハルはあっさりと信じてしまった。そのせいで余計な手間が増えたと言えよう。



「はあ……」


「タカシ様?」



 痺れを切らしたタカシは一つ溜息を吐くと、めんどくさそうに前に出る。突然、前に出てきたタカシにリュードは話しかける。



「タカシ君? どうしたのかね?」


「話が進まないんで、ちょっとね。おい、いい加減頭を上げろ」


「は、はい」


「俺達はこの大陸に調査をしに来たんだ。別に略奪や侵略をしに来た訳じゃない。だから、お前らがいつまでもそんな態度じゃ話が進まないんだよ」


「申し訳ありません」


「謝罪は今ので最後だ。あとはこちらの質問に答えろ」


「はい。私達に答えられる事なら何なりと!」


「それでいい。まず聞きたいのはここはウバルという大陸で間違いないか?」


「はい。ここはウバル大陸で間違いありません。それとこの町はカリギュオ帝国の統治下にございます」



 そこからは、町長とタカシとリュードの三人が情報の交換を始めてしまい、他の者達は蚊帳の外となり黙っていたが、ヴァルキリアの女性達はずっと聞きたかった事をハルに聞く事にした。



「ね……ねえ、ハルさん? と言ってたわよね?」


「は、はい! なんでしょうか?」



 リズに名前を呼ばれて、ピシッと背筋を伸ばして振り向く。



「そ、そんなに畏まらなくていいのよ!? 国王陛下と一緒にいるけど私達は一介の冒険者にすぎないから」


「えっ、あっ、そうなんですか?」


「ええ。だから、気軽にして。むしろ、変に畏まられるとこっちまで疲れちゃうわ」


「わかりました。えっと、それで……」


「ああ、そうね。まずは何から話そうかしら……」


「リズ、まずは私達の自己紹介からしませんか?」


「そうね。セラの言う通りね。まずは、私から」



 セラに言われてから、自分達が名乗ってない事を思い出し、一呼吸置いてからリズは自己紹介を行う。



「私はリズ。エルバース大陸のオルランド王国出身で今は冒険者をしているわ」


「次は私ですね。私の名前はセラと言います。リズと同じくエルバース大陸のオルランド王国出身です。昔はギルドの受付嬢をしてましたが訳あって今はリズ達と共に冒険者をしています」


「では、次は私が。私の名前はキアラ。ほとんど前の二人と一緒なので、よろしくおねがいします」


「私はソフィ~。よろしくね~」


「私はローラです。リズ先輩達と違って冒険者ではなくオルランド王国に仕えている騎士です」



 リズ達の自己紹介が終わり、次はハルの番となる。



「私はハルと言います。皆さんよろしくお願いしますね!」



 簡単な自己紹介だがハルにはこれ以上言う事がないのだ。強いて言えば孤児院の管理をしているくらいだが、今は言う必要が無いだろう。何故なら、リズ達が最も欲している情報はショウに関することなのだから。



「それで、ハルさんに聞きたいことがあるのだけれど……」


「あっはい! ショウさんの事ですよね!」


「そう! ハルさんはショウとはどういう関係なの?」


「大したことじゃありませんけど、ショウさんは恩人と呼ぶべき存在ですね」


「あっ、そうなの?」



 ハルは僅かに変化したリズの声に気付いた。当然、ハルも女性だからそういった感情には機敏だ。勿論、そういった感情とは恋愛感情である。一瞬にして、彼女達の感情を理解したハルはある意味諜報員などにうってつけだろう。



「はい。ショウさんはこの町を盗賊から助けてくれたんですよ。でも、ちょっとやり方が問題でしたけどね」



 意味深な事を言って苦笑いするハルにリズ達は食いつき、詳細を聞き出そうとする。



「どういうことですか!? 何か酷い事でも??」


「セ、セラさん。近いです」


「あっ……すみません。それで、そのやり方というのを具体的に教えて頂けると有り難いのですが」


「その……町を襲ってきた盗賊の仲間になりたいと言い出して、盗賊が仲間になる条件として私の兄、いえ、夫を殺したんです」


「えっ……」



 信じられないと言った表情になるリズ達。ハルも不味いと思い、慌てて訂正をする。



「も、勿論、殺したと言うのは冗談ですよ。殺したように見せただけでしたから! ただ、あの時は本当に殺されたと思ったんです。でも、実は殺してなくてそれこそが作戦だったんです。

 そして、ショウさんは盗賊と一緒に子供達を連れ去っていきました。この時は何も知らなくて、ショウさんに沢山酷い事を言ってしまいました」



 段々と声のトーンが下がり、落ち込んでいるの分かるハルを見て、リズ達も過去の事を思い出し何ともいえない空気になってしまった。



「でも、今思えば子供達は盗賊に捕まり人質にされてましたから、抵抗していたら子供達が殺されてもおかしくなかったんですよね。

 きっと、ショウさんはそれがわかっていたから、あんな風に罵声を浴びせられながらも子供達を助けてくれたんです。

 それに、ショウさんは盗賊に奪われたお金なども一切受け取らず、それどころか夫に武器をくれたんです。

 そのおかげで、町は復興のお金にも困らず、夫も私を私達を守れる力があるのです。ショウさんは私にとって恩人なんです。

 ですから、どうしても謝罪とお礼が言いたくて、黒髪の男が来たと聞いたのでようやくお礼と謝罪が出来ると思い、町の外までいったんですけど……」


「そういうことだったんだ~」



 感動しているようだが、ショウはそこまで考えてなどいない。むしろ、謝罪をさせなければならないのは盛大な勘違いをさせたショウ本人である。



 だが、彼女達はそれを知らない。知らない事も幸せな事もあるが、今回はまさにその通りである。上手い具合に勘違いをして双方幸せなら、それでよし。



 願わくばこの勘違いが勘違いのまま終わる事を祈ろう。

ここまでお読み頂きありがとうございます。

まだまだ番外編となりますがよろしくお願いします

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