表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アホで不憫な彼は異世界で彼女を作る為に奔走する  作者: 名無しの権兵衛
第八章 世界を駆ける

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

510/684

シルヴィアの絶望

 コンコンと扉をノックする。これは、シルヴィアが食事を終えたという合図だ。ノックをして、しばらくするとメイドが食べ終わった食器を取りに来る。



 部屋に入ってきたのは、先程昼食を運んできたメイドではなかった。その事に、シルヴィアは大して疑問を抱かず、淡々と食器を回収しているメイドをただ見詰めるだけであった。



「それでは、失礼しますね」


「ええ。ご苦労様」



 メイドは頭を下げてから部屋を出て行く。また、夕食までは独りで過ごさねばと考えていたらノックの音も無しに部屋の扉が開かれる。入ってきた人物に目を向けると、そこには国王が護衛も連れずに立っていた。



「御機嫌よう。シルヴィア」



 嫌らしい笑みで挨拶をしてくる国王に虫唾が走る。今すぐ、文句を言って追い返したいが機嫌を損ねれば何をしでかすか分からない。仮に、ここで自分が追い返すような真似をすれば捕らわれている反乱軍の仲間に危険が及ぶかもしれない。



 だから、シルヴィアは国王の機嫌を損ねないように慎重に言葉を選んで紡いで行く。



「ご機嫌麗しゅうございます。国王陛下。それで、本日はどのようなご用件でこちらに?」


「ぐふふ……未来の妻が元気にしているかと思ってね。様子を見に来たのさ」


「そういうことですか。見ての通り、私は元気ですよ……私は」


「そうか、そうか。お前には元気でいて貰わないとな。将来、余の子供を産んで貰わねばならぬからな」



 国王は、嫌らしい目でシルヴィアの身体を舐めまわすように見る。当然、シルヴィアはその視線に気付いている。



 出来ることなら今すぐにでも目の前の男を殺したい、もしくは自分が消えて無くなりたいと思うほどに腸が煮えくり返っている。だが、ぐっと堪えて我慢する。



「ぐふっ……やはり、もう我慢できん! 今すぐにお前を抱こう。シルヴィア!!」



 突如として鼻息を荒くした国王にシルヴィアはベッドに押し倒されてしまう。か弱い少女のシルヴィアは抵抗するも国王に押さえつけられてしまう。



「いやっ! やめて!!! 離して!」


「ぐひっ! どれだけ喚いてもここには誰もこんよ! さあ、観念するんだ」



 国王の手がシルヴィアの胸に触れるか否かという所で思わぬ事態が発生する。



「ぐぎぃっ!?!?」


「はあ……はあ……」



 悲鳴を上げてシルヴィアから離れる国王の首からは血が流れていた。そして、シルヴィアの手には血が滴るナイフが握られている。痛みと恐怖に顔を歪めた国王はシルヴィアに向かって叫んだ。



「お、お前ぇっ!!! なぜ、そのようなものを持っている! この部屋には凶器になるような物は一切ないはずなのに! どうやって、そのナイフを手に入れたぁっ!」


「これは食事の時に出されたナイフをそのまま持ってただけよ! それよりも国王様、あなた誰も来ないといったわね?」



 皮肉たっぷりで国王様と呼ぶシルヴィアは、不意に笑う。



「それがどうした!?」


「あなた……何も分かってないの? 今、この場にはナイフを持った私と丸腰の貴方しかいないのよ?」


「だから、それが――」



 国王はもう一度聞き返そうとしたが、ハッと我に返り今の状況を思い出す。目の前にはナイフを持ったシルヴィアに対して丸腰な自分。国王はようやく、理解した。自分が今置かれている危機的な状況に。



 助けを呼ぼうにも、最初からシルヴィアを抱くことが目的だったので人払いまでしている。なので、助けを呼んでも誰も来てはくれないのだ。



 つまり、国王は今命の危機と言う訳だ。それを理解した国王は顔面蒼白になりベッドから転げ落ちる。



「た、たしゅけ……」



 死の恐怖に腰を抜かしてしまい、四つん這いで出口に向かおうとする。しかし、絶好の機会である今を逃すシルヴィアではない。四つん這いで逃げる国王を捕まえると握り締めたナイフを振り上げる。



「お父様とお母様とお兄様の仇!! 覚悟っっっ!!!」


「ヒッ、ヒヤアアアアアアア!!!」



 絶叫する国王にナイフを振り下ろす。だが、いつまでたっても痛みがないことに気付いた国王は閉じていた目を恐る恐る開くと、シルヴィアの手を掴んでいるサードがいた。



「おっ……おお! さ、さすがだ。よくぞ、余を守ってくれた!」



 サードの登場で一安心した国王は大喜びして褒める。



「クハハハハハ。中々やるじゃねえか、お姫様よ。だが、惜しかったな。俺様がいなけりゃこの豚を殺せたのによう」


「く……」



 手首を強く握られてシルヴィアはナイフを落としてしまう。落ちたナイフをサードが拾い上げると、シルヴィアの手を離して床に座り込んでいる国王に近づく。



「これで分かったろ? このお姫様はお前を殺すつもりだ。無理矢理犯そうとすれば、今みたいに返り討ちに合うぞ? それとも、お前は犯すときも護衛をつけるのか?」


「それは……必要ならそうする……」


「ほう。別に構わないけど凶器が無くたって人は殺せるぞ? 行為の最中に首を絞められたらどうする? あそこを食い千切られたらどうする?」


「ぅ……ならば、隷属させれば」


「まあ、そこに辿り着くよな。だが、俺様は奴と約束をしたからな。それまでは、お姫様の安全を確保しとかないといけねえ。だが、結婚した後は好きにすればいい。そこから先は俺様は無関係だからな」


「それまで辛抱しろと?」


「そうだ。それと、今後は俺様がお姫様の面倒を見る。この意味分かるよな?」


「わ、わかった。手は出さないと誓おう」


「素直でいいぜ。反論されてたら手が滑ってナイフで刺しちまいそうだったからな」



 そう言って笑うサードに国王は反論しなかった自分を褒め称えた。国王はサードが本気で言っている事を知っているからだ。流石、国王である自分を豚と呼ぶ男と長く付き合ってきただけの事はある。



 ホッと胸を撫で下ろした国王は、その重たい身体を立たせると部屋の出口に向かう。切られた首を手で押さえながら、ドアノブを回して部屋を出て行く。



 二人だけになった部屋はしばしの沈黙が訪れる。そして、不意にシルヴィアが思っていた事を口にする。



「なぜ、貴方はそこまで彼に固執するの?」


「なんでそんな事を聞くんだ?」


「なんでって……そんなの決まってるじゃない! 彼は逃げたのよ!? あんなに泣き喚いて無様に!! 彼が来るはずないわっ! なのに、どうしてあんな口約束を守るわけ!!?? 意味が分からないわ!!!」


「……俺様のたった一つの願いだからだ」


「願い? 彼が?」


「ああ、そうだ。俺様の願い。それは、勇者との再戦。ただそれだけだ」


「待って……まさか……貴方それだけの為にこの国を?」


「いいや。それは違う。俺様の個人的な願いと俺様達の目的は違う。そうだな。お前には特別に教えてやろう」



 ゴクリと生唾を飲み込む音がする。シルヴィアは因縁の敵に告げられる事実に酷く緊張していた。



「別に、この国じゃなくても良かったんだ。どこだろうと、俺様たちの目的は達成する事が出来る。それが、たまたまこの国だっただけだ」


「…………そんな…………」


「単なる俺様の気まぐれさ。まあ、元々あの豚が企んでいたからな。俺様はそこに乗っかってやったにすぎない」


「ただの気まぐれ……気まぐれで私の家族を?」


「そうなるな」



 突きつけられた真実に打ちのめされたシルヴィアは膝から床に崩れ落ちる。そして、一滴の涙が零れ落ちると悲しみと怒りの感情が爆発したように泣き叫んだ。



「私は……貴方を決して許さないっ!」


「クハハハハハハ! まあ、せいぜい信じて待つといい。奴が来ることを」



 憎悪に満ちた瞳で睨みつけてくるシルヴィアを見て高笑いを上げながら、サードは部屋を出て行った。



「……来るはずないわ……絶対に」


ここまでお読み頂きありがとうございます

まだまだ第三者視点は続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ