修行④
羽音のする方へ顔を向けると、火の鳥と目が合った。鳥の感情など読み取れるはずはないのだが、その時俺は何故か鳥が怒っていると分かった。
数秒、鳥と目を合わせた俺は背中を向けて逃げる為に走り出した。当然の事ながら、鳥は逃げ出した俺を追いかけて来る。
肌が焼けるような暑さの中を生きる為に駆け抜ける。溶岩が岩を溶かすの横目に見ながら、襲ってくる鳥から逃げ回る。そんなに、走った覚えはないのに汗が止まらない。
鳥に襲われるより先に脱水症状で倒れてしまいそうだ。いや、下手をすれば死んでしまう恐れがある。どうにか、水分を補給したいのだが見渡す限り溶岩地帯なので期待できそうにない。
「づっ!?」
肩に何かが刺さり、熱を感じた。肩に刺さったものを確認すると燃えている羽だった。なんと、鳥は自身の羽を飛ばして攻撃するようだ。刺さった羽を引き抜こうとしたら、熱くて触れない。
あっち!
あつっ!
どうにかして羽を引き抜こうかとしていたら、足元の段差に気付かず転んでしまう。慌てて立ち上がろうとしたが、鳥の鳴き声が聞こえて振り返ったら巨大な火の玉が迫っていた。
どう足掻いても避けれそうにない。もう一度、両腕に気を発現させようとしたが上手くいかずに俺は火の玉に飲み込まれた。
「がっああああああああ!!!」
熱い! 熱い! 熱い! 熱い! 熱い!
このままじゃ死ぬ!
嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!
何でだ!?
殺されないはずじゃ……
あぁ……もう……死……
そこで俺の意識は完全に途絶えた――
「おい、いつまで寝てるんだ。さっさと起きろ」
「……うっ」
「お前に寝てる暇なんて無いだろう。だから、とっとと起きやがれ!」
横腹を思い切り蹴り上げられた事で、ようやく目が覚める。目を覚ますと、そこは真っ白な世界だった。雪とかではなく、無機質な真っ白だ。
「ようやく、目が覚めたか」
声のしたほうに顔を向けると、そこには全身真っ黒で人の形をした何かが座っていた。どこかで見たことがあると記憶を探っていたら、声を掛けられる。
「何をしてる。目が覚めたんならこっちに来い」
一旦考えるのをやめて、言葉通りに全身真っ黒の人型に近づく。
「まあ、立ってないで座れよ。いろいろあって疲れただろ?」
「ま、まあ……」
言われた通りに座ると、そいつは腕を組み話し始めた。
「まずはチュートリアルご苦労さま。おっと、質問は無しだ」
くっ! 先に言われたか……
「チュートリアルと言ったのは、お前がこれからどんな場所でどんな事を修行するかを知って貰うためだ。
最初に入った世界では感覚と気を感じることを第一に修行する世界。暗闇なのは目ではなく己の全てを使って敵の動きを捉えるため。
次の世界は単純に武器の扱いとあらゆる武器を使った修行。
そして、残り二つは【気功術】を使った修行だ。極寒と灼熱という相反する環境で生き残るためには【気功術】で己を強化するしかないからな。
最後にここは安らぎの場所じゃない。ここは、全てを応用してこの俺を倒し、この世界から出る場所だ。いわば、修行の成果を発揮して合格する場所ってことだ」
「……だいたい分かった」
「そうか。ちなみにだが合格した暁にお前が知りたいことをいくつか教えよう」
「それは本当か!」
「ああ。ただし、答えられないこともあるからな。それじゃ、さっそくやるか」
そいつは立ち上がると、ちょいちょいと手招きをしてきた。先程の説明を思い出して、俺は立ち上がり拳を構えた。
「それでいい。じゃあ、行くぞ――」
結論から言えば、全く歯が立たずコテンパンにされた。仰向けに倒れて、荒い呼吸をしながらそいつの話を聞いた。
「全く駄目だな。基礎がまったくなっていない。なまじステータスが高いから動けてはいるが……弱い。【武神】に頼りすぎていたからこうなるんだ。まあ、この世界でたっぷりと扱いてやるから安心しな」
全然安心じゃない……
「さてと、そろそろ時間だな。また、最初に戻る。だけど、一つだけ忠告だ。殺されないからといって、手を抜くようなら問答無用で殺す。でも、安心しろ。お前がまじめに取り組めば殺されない。腕をもがれようと、脚を切られようとも、腹に風穴が空いても次の世界に行けば元通りだ」
「そ、それって……つまり……」
「チュートリアルは終わり、ここからがホントの地獄だ」
その言葉を聞きながら、真っ白な空間から俺は弾き出された。そうして、俺は地獄のような修行の日々を送ることになった。
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