修行③
ぶるりと身体が震える。先程まで暖かい気温だったのに急激に冷えるものだから、身体が小刻みに震えている。周りを見渡すとここは雪山のようだ。
「さ、寒い……」
一体なんだというのだ。突然、暗闇からジャングルに変わり、今度は雪山になったりと無茶苦茶だ。ザクザクと音をたてながら、歩き回る。
「なんにもない?」
あたり一面真っ白で、遠くに見える雪山以外は特に何も見当たらない。これも修行なのかと考えていたら、吹雪いてきた。余計に寒さが増して、身体の震えも増した。
カチカチと歯を鳴らせて、吹雪の中を探索するが体力を消耗するだけで何も見つけられない。しかし、立ち止まれば寒さにより動けなくなってしまいそうな為、歩き回るしかないのだ。
もしかしたら、歩き回る方が駄目なのかもしれないが、雪山で吹雪に遭遇してしまった場合の対処など俺は知らない。
「ぐ……くく」
吹雪が激しさを増して、視界も悪くなって前も見えなくなってしまう。手で目を守るようにして前へと進んでいく。歩いていたら吹雪の轟音とは別に何かの音が聞こえる。最初は気のせいだと思っていたが、どんどん音が大きくなり近づいてきていることに不安を感じた俺は勢い良く音のする方へ顔を向ける。
すると、そこには氷の彫像と勘違いしてしまいそうな鳥が羽ばたいていた。そして、獲物を見つけた鷹のように急降下してくる。
「うおおおっ!」
体力が低下しているというのに、横に飛んで避けるが雪に足を取られ転ぶ。見事、雪に突っ込み無駄に体温を低下させてしまう。ズボッと気持ちのいい音と共に雪から抜けると、鳥が再び襲い掛かってきているのが見える。
鳥の攻撃をさっきと同じように避ける。今度は、雪に突っ込むことはなく無事に避ける。上手く走れないが、それでも鳥から逃げるために必死で猛吹雪の中を走る。
しかし、足がもつれて盛大に転んでしまう。勿論、頭から雪に突っ込み埋まってしまい、そこを鳥に襲われる。鋭い爪が背中を引っかき、服が破れて肌が露わになる。
背中は切り裂かれて熱いのに、四肢は酷く冷たい。真っ白な雪が俺の血で真っ赤に染まるのを見ながら立ち上がり、翼を羽ばたかせて停滞している鳥を見る。
くそ、忌々しい!
魔法さえ使えればあんな鳥!!
……まさか!?
あの鳥を倒すことが修行なのか!?
でも、どうや……って……
そうか……【気功術】か。
だけど、まだ気を上手く操れない……
いいや!
弱気になっちゃいけないな。
強くなるって決めたんだから。
パンッと両頬を叩いて、気合を入れ直す。猿のときは調子に乗ってしまったが、これは修行なのだ。なら、やるしかないだろう。
「さあ、来いっ!」
勇ましく叫んだものの、いざ襲い掛かって来られると太刀打ちできないので、結局逃げる事になるのだ。
なんとかせねば!
なんとかしないとぉ!
気だ!
気を使って身体を強化しないと!
でも、出来ないぃぃぃぃ!!!
逃げながら、なんとか気を操ろうとするもうんともすんとも言わない。それでも、必死に気を操ろうと頑張るが、全く操れる気がしない。そんな俺に鳥は休む暇もなく襲い掛かってくる。
慣れない雪の上を走りながら、鳥の攻撃を避けつつ気を操ろうとしていたら、突然落とし穴のようなものに落ちてしまう。
これは!!
俗にいうクレバスでは!?
「うっああああ!」
真っ逆さまに落ちていく俺は、死に物狂いで気を捻り出そうとした。底が見えない恐怖に押しつぶされそうになりながら、我武者羅に念じ続ける。
しかし、現実は残酷だ。気がついたら見えなかった底が見えてきたのだ。今の速度で地面に激突すれば俺の身体は間違いなく衝撃に耐え切れず飛び散るだろう。
そんなの絶対いやだ!!!
「おおおおおおおお!!!」
ただ一心に死にたくないと、ただ一重に生きたいという思いで腕を振るった。その瞬間、再び左腕に気が発現し、僅かに落下速度を下げることが出来た。
これしかない!!!
俺は、アニメなどで見たことある空中でクロールして落下速度を落としていく。今の俺は指を差されて笑われるに違いない。それでも、俺は生きる為に必死だった。
左腕だけじゃ駄目だ!
右も、右腕も必要だ!
やけくそだったが、右腕にも気が発現した。左腕よりも気の放つ光が強く、利き手だからなのだろうかと思ったが、今は生きる事を優先とする為にそんな思いはすぐに頭の中から吹き飛んだ。
一心不乱に腕を振り回して、落下速度を落としていく。両腕に気が発現した事で、先ほどよりも落下速度が落ちている。
そして、俺は不恰好な体勢でクレバスの底に落ちた。なんとか生きていることに、ホッと一息吐いた。しかし、それも束の間で背中がチリチリと熱くなるのを感じて、飛び起きると景色が一変した。もう、何が起きても不思議じゃないこの空間だがこればっかりは信じたくない。
「マジかよ……」
周りの景色は真っ白な雪から変わり、真っ赤な溶岩地帯ちなっていた。某狩ゲーを彷彿とさせる景色は壮大であると共に人を寄せ付けない恐ろしさがあった。
「あづっ!」
呆けていたら、地面に付いていた手を火傷させてしまった。長くここにいたら不味いと判断して、その場を離れる。どこか安全な場所はないかと溶岩地帯を歩き回る。
ん?
そういえば傷が塞がってる?
またか……
もしかして、景色が変わる度に治るのか?
そうだとしたら、有り難いが……
あっ……だから、猿は俺を容赦なく殴ったのか。
回復すると知ってて。
「死なないのか……なら、少し安心だな」
ポツリと呟いた言葉が不幸を呼んだのかは分からないが、バサバサと鳥の羽音が聞こえてきた。
最悪だ……
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