闘神
「さて、何から話そうかの」
老人は、仰向けに倒れている俺の頭の上に胡坐をかいて座る。そして、俺は倒れていた状態から老人と向かい合うように胡坐をかいて座った。
「まずは自己紹介からじゃの。ワシは、人々から闘神と呼ばれとる。これは、ワシが【武神】と呼ばれるスキルを持ってるからじゃ」
「な……に?」
老人の言葉に驚きを隠せない。それは、老人が取得しているスキルが俺にとっては無くてはならないものだからで、今欲しくて欲しくて堪らない喉から手が出るほどのスキル。
それをこの目の前にいる老人は取得していると答えたのだ。驚かないわけがない。
「大層驚いているが、お前さん何か思うところがあったのか?」
「あんたが持ってるスキルを俺も持っていたからだ」
「ほう……持っていたと言うことは今は無い
と?」
「……ない」
消された、と答えようとしたが余計な事を聞かれるかもしれないので無いと答えた。
「ほほう。今は無いのか。しかし、おかしな話だ。スキルが無くなるなどと聞いた事が無い。スキルは己の経験が積み重なり具現化したもの。それが無くなるなんて事はあり得んのだがなぁ?」
なんだと……
「知らんはずがないじゃろう? この世界の人間ならば」
「何を知ってやがるっ?」
「ワシは何も知らんが、推測はしておる。お前さんの黒髪に黒目と言う特徴から倭国の人間、もしくは異世界人とな。じゃが、倭国の人間は魔法を使えん。ゆえに、お前さんは異世界人とほぼ断定している」
「……あんた何者だ?」
「ワシは闘神と呼ばれておる爺じゃ」
「まあ、いいさ。それよりも聞きたいのは、
俺に用があってここまで連れて来たんだろ?
さっさと本題に入ったらどうだ」
「ふぉっふぉっふぉっ。そう急かすでない。まず、お前さんにはスキルについて話さねばならんの。確認なんじゃが、お前さんスキルについてどれくらい知っておる?」
「どれくらいって……」
あれ、言われてみれば俺はスキルについて大して知らない!!
使い方と種類くらいしか知らないぞ!
「……使い方と種類があるって事だけは」
「なんと、まあ……驚きじゃの。まさか、その程度の知識しかないとは」
呆れるほど自分が嫌になる。これまでにスキルを勉強する時間はあった。結局、また自分の怠慢に苦しめられる。
「まあ、よい。スキルについてじゃが、種類があるのは知っておるんじゃな。なら、説明を省くが【武神】は常時発動型。
常時発動型とは、分かっておると思うが意識がある限り発動しておる。そして、先ほど言ったとおり、スキルは己の経験が具現化したもの。
つまり、無くなるなどということはまずあり得ない。そこで聞きたいんじゃが、お前さんはどのようにして【武神】を習得したのじゃ?」
恐らく、この老人は俺が異世界人だと分かって喋っている。適当に答えても見透かされるだろう。なら、素直に答えた方がいい。
「習得はしていない……【武神】はこの世界に来たときにはすでに取得していた」
「やはり……か。しっかし、ずるいの~! 異世界人は!! ワシがどんだけ苦労して【武神】を手に入れたと思っておる?
ありとあらゆる武術を修め、人生の大半を武に捧げてようやく開眼したと言ってもいい。
それを、お前さんは与えられたと。そして、敗北した挙句にスキルを消されて、あんな風に不貞腐れておったのか」
「う……」
「それで、お前はこのままでいいのか?」
このままとは、どういう意味なのかと聞きたいところだが闘神の鋭い目が突き刺さり、聞くことは叶わない。闘神の雰囲気が穏やかなものから、肌をピリリピリとさせる厳しいものに変わっていた。ほんのちょっと前までは気のいいお爺ちゃんだったが、今は厳格な老人に変わってしまった。
それが闘神の求める答えかは分からないが、俺はその答えを口にした。
「いいわけない……出来ることなら、勝ちたい。でも、もう俺には――」
「力が無いと?」
「ああ、そうだ。俺にはもう闘う力なんてない。スキルは全て消され、チートな武器もない。残っているのは、俺というちっぽけな存在だけだ……」
「お前がいるなら十分ではないか」
「話を聞いてなかったのか!! 俺は――」
「言い訳ばかりして逃げるな」
「ッッッ!!!」
「なぜ、努力をしようとしない? なぜ、強くなろうと考えない? なぜ、逃げようとする? 勝ちたいのではないのか?」
「ぁ……ぅ……」
「結局、お前は言い訳を盾にして逃げ続ける臆病者と言うわけか……」
闘神は肩をがっくりと落として、心底落胆したような口ぶりで呟いた。
「じゃあ……じゃあっ!!! 俺はどうすればいいんだよ。弱い俺は、どうしたらよかったんだよ!!」
感情が高ぶり、泣きながら声を張り上げる。
「力が欲しいか?」
「っ……欲しい……力が欲しい! あいつに勝つ力が欲しいっ! もう、誰にも負けない力が!!! 俺は欲しいっっっ!!!!!」
「その願い、ワシが叶えてやろう! 闘神の名に懸けてお前を誰にも負けない最強の男にしてやる!!!」
俺はその言葉を聞いて、涙を拭き取り、目の前にいる闘神に土下座をする。
「よろしくお願いしますっ!」




