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アホで不憫な彼は異世界で彼女を作る為に奔走する  作者: 名無しの権兵衛
第八章 世界を駆ける

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謎の老人

「……店主、酒を」



 しばらくの間、惚けていた俺はカウンター席に座り酒を注文した。



「お前にやるような酒はねえ。とっとと帰んな」


「は? さっきまで出してくれてたじゃないか。それをなんで今更!」


「てめえみたいな臆病者に飲ます酒なんて、うちには置いてないんだよ」


「なっ!? ふざけ――」



 あまりの物言いに切れて、カウンターから乗り出して店主に掴みかかろうした時、後ろの方から罵声があがる。



「そうだ、そうだ! チキンは帰りな!!」

「臆病者に酒を飲む資格なんてねえよ!」

「女があそこまでして答えないなんて、男じゃねえよっ!」

「帰れっ! 帰れっ! 帰れっ!」



 なんで、無関係なこいつらにここまで言われなきゃならねえんだ!!!



「ぶち殺されたいのか!!! 弱っていても、てめえらみたいな雑魚なんざ訳ねえんだよっっっ!!!」



 俺が叫ぶと店内は静まり返った。さっきまでは、店内の客が一致団結して帰れコールしてきたと言うのに。所詮、その程度の人間しかこの酒場にはいなかったのだろう。



 カウンター席に座りなおして、もう一度酒を注文する。



「おい、店主酒を――」


「ほれ、ワシからの奢りじゃ」



 いつの間にか、隣のカウンター席に座っていた老人に酒を頭から浴びされる。



「じじいだからって容赦しねえぞ! くそがああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」



 完全に切れた俺は、店や店内にいた客をお構いなしに魔力を解き放つ。放たれた魔力は暴風のように暴れて、店内のテーブルや椅子を壊し酒の瓶を叩き割り、店にいた人間を吹き飛ばした。



 ――たった一人を除いて――



「ふぉっふぉっふぉっ。すごいの~。伊達にアレだけの啖呵を切るくらいじゃかろの~。相当な魔力じゃて」


「何を余裕ぶってやがる! 死に晒せ、くそじじいがっ!!!」



 俺は怒りに我を忘れていたせいで、ある異常に気がついていなかった。それは、目の前にいる老人が俺の魔力で発生した衝撃をものともしていなかったことに。



 その事に気がついたのは、俺が店内から外へと放り投げられた後のことだった。



「え? は???」



 気がついたら、俺は酒場の前である道に仰向けに倒れていた。



「いったい、なにが……」


「ふむ、力はあっても技術がないのう。それに、なんと言っても一番は心が幼いところかの」


「何をした、じじい!!!」



 仰向けに倒れていた俺は、すぐに立ち上がると老人に向かって叫んだ。



「年上を敬わんか、小童。まあ、今はどうでもええわい。それより、ワシを殺すんじゃなかったのか? ん??」



 人を小馬鹿にした態度で喋る老人に、俺は手の平を向ける。



「なら、お望みどおり殺してやるよ!」


「ぬっ! 流石にまずいの。こんな所で魔法を撃たれたら町がひとたまりも無い。ちと、早いが決着をつけるか」


「ごちゃごちゃとうるせえんだよ。死ねえっ!」



 魔法を撃とうとした、その瞬間。老人が俺の懐に一瞬で距離を詰めると、鳩尾に拳を叩き込まれて意識を失った。



 ◆◇◆◇


「ほっ。すまなかったな、店主。これだと商売が出来まい。少ないがこれで当分の間は勘弁してくれんかの?」



 気を失い、倒れたショウを軽く持ち上げた老人はショウを肩に担ぐと、店の外に吹き飛ばされ呆然となっていた店主に金貨を渡す。突然の出来事で呆気に取られていた店主は、老人から金貨を受け取った事で、ようやく目の前の現実に気がついた。



「え……あ、ああ。助かるよ……」



 受け取ったはいいが、どう見ても金貨一枚では店を復興させるにはあまりにも少ない。当面の生活は出来ても、酒場を再び経営することは到底出来ない。



「しばらくは、それで勘弁して欲しい。必ずこの男に弁償させるから、それまでは待っててくれんか?」


「あっ、ああ。これだけあればしばらくは生活に困ることはない。それに、必ずその男に弁償させてくれるんだろ?」


「うむ。それは必ず約束しよう」


「なら、もう何も言うことはないよ。さっさとその男に金を払わせるようきつくこらしめていてくれ」


「任された!」



 ドンッと自分の胸を叩いて老人は、自信満々といった表情で答えた。店主もそんな老人の顔を見て、満足したように老人に握手を求める。当然、老人も店主の出した手を握り締めて答えて見せた。



 そして、老人はショウを担いだまま町を出て行く。一人、正確に言えば二人町を出て行き、町はしばしの間静寂が訪れた。



 ◆◇◆◇



「んっ……ここは?」



 目が覚めたら、見知らぬ天井が目に入った。明らかに今まで寝ていた場所とは違うと言うことだけは分かった。分かったからと言って、何かをする気にはなれない。だから、俺はもう一眠りすることに決めた。



「目が覚めたんなら起きんか」



 棒か何か硬いもので頭を小突かれる。完全に、眠気が吹き飛び小突いたであろう老人を見る。そして、今の今まで綺麗さっぱり忘れていた記憶が鮮明に蘇り、飛び起きた俺は老人に食ってかかる。



「くそじじい、てめえ!」



 老人に向かって、殴りかかるが気付いた瞬間には床と天井が逆さになっている。どうやら、酒場でやられたときと同じらしい。



「そんな分かりやすい攻撃が当たるわけがなかろう。少しは、勉強せんか」


「ぐっ……ああああああああ!!!」



 悔しくて堪らない俺は、老人に何度も何度も挑んだ。その度に、床に叩きつけられるはめになろうとも。



「はあ……はあ……」


「ようやく、諦めたか?」


「くっ……そっ……」



 息も絶え絶えの俺は、忌々しげに老人を見上げる。見下ろすその顔を今すぐにでもぶん殴ってやりたくて仕方が無い。だが、どれだけ殴りかかろうとも老人にあっさりと受け止められた上に投げ飛ばされてしまう。



 それが悔しくて悔しくて堪らない。しかし、どうせ返り討ちに合うので諦めてしまっているどこか冷めた気持ちもある。



「ふむ……これでやっと落ち着いて話せるの」



 いったい何者なんだ、このじじいは?

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