あれから
第3者視点となります
新章の開幕です
「話によると、ここに……」
一人の小汚い茶色をしたローブを身に纏っている小柄な人物が酒場を見上げると、呟きながら深めに被り顔まで隠していたフードを脱いだ。フードの下に隠れていたのは、反乱軍のメンバーであるコリンであった。
コリンは、木で作られた両開きの扉を開けて、酒場の中に入る。ギッコンギッコンと扉が音を立て、新たな客が入ってきたことを知らせる。その音に酒場にいた客たちが、中に入ってきたコリンに目を向ける。ただ、一人を除いて。
コリンの顔を見て、下卑た笑みを浮かべる者や興味がなく視線を戻し再び酒を飲む者などがいる。その中で唯一、全く興味を示さないどころか見向きもしなかった男の元へと、コリンは意を決したように一歩足を踏み出した。男はコリンが近づいても、全く反応もせずに酒を煽る。
その男は珍しい黒い髪をしているのだが、何日も手入れをしていないようで、ボサボサに伸びて艶を失っている。横顔しかコリンには見えていないが、髭の手入れも怠っており無精髭が生えている。
コリンは、目の前で酒を飲む男を知っていた。故に、男のあまりの変わりように動揺を隠せなかった。少し、話しかけるのを躊躇ったがコリンにはある目的があり、その為にも男の力が必要不可欠なので多少気が引けながらも話しかけようとした。
しかし、いざ話しかけようかとした時、不意に背後から肩を掴まれる。コリンは、反乱軍であり身を隠している為、警戒はしていたのだが目の前の男に気を取られすぎて周囲の警戒を忘れていた。どうすべきかコリンが、考えていたら後ろから声を掛けられる。
「おい、お嬢ちゃん。俺らのボスに何の用だ?」
「えっ?」
コリンは言葉の意味が理解できず、振り返って後ろから肩を掴んでいたであろう男とその横に立っていた男と話しかけようとしていた黒髪の男へ交互に顔を向ける。
「どういうことでありますか? 貴方たちとこの男はどういった関係なのであります?」
「あん? どういった関係って俺たちはボスの子分でこの町の支配者さ!!!」
コリンに質問された男は、何故か自身たっぷりに胸を張り答えてみせた。正直、何故目の前の男が自身満々なのかがコリンには分からない。結局、凄いのはボスと呼ばれている黒髪の男だと言うのにこの男は分かっていないのだとコリンは呆れてしまう。
「そうでありますか……私は、そのボスに用があるので」
男たちに興味を無くしたコリンは黒髪の男の方に顔を向ける。すぐ横で自分のことを話していたのに無関心な黒髪の男に少し腹を立たせながら、話しかける。
「話聞いてましたよね。私は貴方に会いにきたであります。少し、話を聞いてもらえませんか?」
「……」
「ちょっと、聞いてますか?」
コリンが話しかけているのに、返事もせず黙って無視をする。それが、余計に腹立たしく感じたコリンは自分のほうへと、無理矢理向かせようと肩に手を掛けたら、その手を後ろにいた男に掴まれる。
「お嬢ちゃんよぉ。俺たちを無視して、何勝手にボスと話してんだ」
コリンは掴まれた手を振り払うと、イライラした様子で男に言い放つ。
「貴方たちに、許可を貰う必要などありません。それに私は、この男とは面識がありますので」
黒髪の男を指差しながら、男たちに告げるコリン。しかし、その態度が気に食わなかった男は怒りの表情を露わにすると、コリンに近づき怒鳴り声を上げる。
「てめぇ、なんだその態度は! 俺らを馬鹿ににしてんのか!? 女だからって容赦しねえぞっ!」
男は喋り終えると、コリンに向かって拳を振り上げる。当然、町のチンピラ程度である男がコリンに勝てようはずも無く、軽く一蹴されてしまう。
「うげっ!」
「てめえ、よくもっ!」
もう一人の男が、仲間をやられたことに怒りコリンへ向かって殴りかかろうとするが、声を掛けられて動きが止まる。
「やめろ……」
酷く冷たい声が店内に響き渡る。声を発したのは、今の今まで沈黙を保っていた黒髪の男だ。黒髪の男は、ゆっくりと席から立ち上がるとコリンと男たちの方へと向かって歩いて行く。
「何しに来た」
「ボ、ボス……」
「お前らに、話しかけちゃいない。俺はこいつと話があるんだ」
「……」
しかし、コリンは黒髪の男の問いに答えようとせず、ただジッと黒髪の男を見詰めているだけだった。
「おい、お前! ボスが話し掛けてるのに、なに黙ってんだ!!」
なにも答えようとしないコリンに男が、怒りながら近寄ると、男の首が握り潰されるのでは無いかと言う勢いで後ろから掴まれる。
「かっ……」
「何を出しゃばっている。お前らは、引っ込んでろ」
黒髪の男は首を掴んでいる男を後ろに放り投げる。投げた先には、コリンに一蹴された男がいてその男とぶつかった。
「それで、何のようだ。コリン?」
「随分と酷いことをしますね。貴方の部下でしょう?」
「……あいつらが勝手に言っていることだ。惚けてないで、さっさと、質問に答えろ」
「そう睨まないで下さい。ただでさえ極悪人のような顔をしているのに、そんなに眉間に皺を寄せると益々悪人面に見えてしまいますよ? ショウ?」
少し、茶化しながらコリンはショウに話しかける。ショウは残った左目で射抜くような目付きでコリンを見る。失った右目は布で覆っており、無精髭が生えているせいでコリンの言葉通りショウの見た目はまさに悪人面とも言えよう。
「茶化してないで、さっさと要件を言え」
「回りくどいことを言うつもりはありません。私と共に、王都へ向かい、あの国王の手から姫様を救ってください」
コリンの口から出た言葉は店内の客たちを騒ぎ立てる。ざわめく客たちの中、ショウは興味が無くなったのか、一人さっさと席に戻り酒を飲み始める。
「無視してないで何か言ったらどうですか!?」
声を荒らげて、酒を飲んでいるショウに問い質す。
次回からはまたショウの視点へと戻ります




