復讐者と奴隷エルフ
現在、隆史は国境を越えて、ある商人の護衛をしていた。
「いやー、まさか貴方みたいな強い方が護衛になってくれるなんて願ったり叶ったりですよ」
隆史に語りかける男は背の低い小太りの男だった。
「商業国まで乗せてくれる約束だからな」
隆史は護衛をする代わりに商業国アルツェイルに乗せていって貰える。この商人は一体なんの商人かと言うと奴隷商であった。隆史は荷物を見せてもらった時に檻の様な馬車に数十人の男と女がいた。
隆史はそれを見た時すぐに確信した。こいつは奴隷商人だと。
だが、隆史は別にどうこう言うつもりはなかった。たまたま魔物に襲われている所を、助けただけに過ぎない。
隆史には気配感知などのスキルが無いため常に周りに気を配る必要がある。隆史は何もいないことを確認して気を緩めた時、魔物が飛び出してきた。
一瞬、遅れてしまったせいで奴隷商人の男は魔物に首を食い千切られ絶命してしまう。
「ガルル……」
見た目は黒豹のような魔物だ。この魔物は気配を隠すのが上手い上に途轍もなく素早い。隆史が一瞬だけ気を緩めた瞬間に奴隷商人の首を食い千切ったのだから。
「ふん……先に俺を殺さなかったのは間違いだったな……《無慈悲なる暴虐》」
隆史はスキルを唱える。その隙を狙って魔物が襲い掛かる。隆史は慌てることなく魔物に向けて魔法を放つ。
魔物は魔法が飛んで来たので躱そうとしたが直撃してしまった。直撃した魔物は困惑している。あの程度の魔法なら避けることが出来たのにと。
魔物は知らない。自身のステータスが半減していることを。
「グルルル……」
「理解することなく死ね!! 氷尖!」
尖った氷柱が魔物に襲い掛かる。魔物は避けたと思ったが直撃して、そのまま死んでしまった。
「他愛もないな……」
隆史は奴隷達がいる馬車へと歩いていく。檻の中にいる奴隷達を見て隆史はあることを尋ねる。
「この中に転移を使える者はいるか?」
転移、この魔法は空間属性という希少属性の魔法。この魔法は一度行ったことのある場所に一瞬で移動できる魔法である。
とても便利なのだが空間属性があまりにも希少なため、ほとんど見ない。
「やはりいないか……」
隆史は、やはり希少な空間属性の持ち主など都合よくいないことに顔を伏せる。
「あの、私出来ます」
一人の女性が手を上げて出来ると言って来たのだ。まさか、いるとは思わなかったがこれならばと隆史は思う。
「そうか。なら今から俺がこの檻を壊す。少し離れてろ」
隆史は魔法を撃つ構えをする。奴隷達は檻の奥へと移動した時、隆史が魔法で檻を壊した。
「出ろ。全員だ」
隆史に言われて恐る恐る檻の外へと出て行く奴隷達。
「おい女、来い」
先程、転移が使えると言った女性を呼ぶ。そして隆史の目の前に来た女性はエルフだった。
「お前エルフか?」
「はい」
「転移は?」
「この首輪が魔力を遮断してしまうので使えません」
「鍵とかあるのか?」
「あるとは思いますが奴隷商人が持ってると思います」
「あの豚なら死んだ」
隆史が奴隷商人は死んだと言うと奴隷達は驚き騒ぎ始める。
「静かにしろ!」
その一言ですぐに黙る奴隷達。
「鍵を取って来る。逃げようと思うなよ」
そう言って隆史は奴隷商人の死体の所に行き懐を漁る。どうやら鍵はあったようだ。隆史が奴隷達の元へと戻る。
「鍵だ。外してやるから、もう少しこっちへ寄れ」
エルフは首輪を外して貰う為に隆史へと近づく。ガチャリと首輪の外れる音がしてエルフの女性から首輪が外れた。
「あの、いったい私はどうしたら?」
「お前には少し仕事をしてもらう」
エルフの女性は首を傾げる。隆史は奴隷達に問いかけた。
「俺はお前らをどうこうするつもりは一切ない。だから選ばせてやる。戻りたいか、それともここで死ぬか、好きな方を選べ」
その問いに全員が戻りたいと言ってきた。隆史はエルフの女性に奴隷達を転移させるよう命令する。
「こいつらを送ることは出来るな?」
「はい。出来ます」
「なら、やれ」
隆史は鍵をエルフの女性に渡して馬車の方へと歩いて行き食料を取り出す。隆史はもう奴隷達に興味を無くして事が終わるまで黙っていた。
「では、貴方が帰りたい場所を強く思い浮かべてください。私が転移させますから」
エルフの女性は次々と奴隷達を元の場所へと帰していった。そして最後に残ったエルフの女性に隆史が近づき尋ねる。
「お前で最後か?」
「はい……」
「ならさっさと帰れ」
「……」
「どうした?」
「帰る場所はありません」
「なに?」
「私には帰る場所が無いんです。私の家族は魔物に殺されてしまって帰る家が無いんです」
「……」
「それで路頭に迷ってた私は奴隷商人に捕まってしまいました。転移を使えば逃げれたんですけど、家を思い出してしまって……」
「だからなんだ?」
「えっ」
「同情でもして欲しいのか?」
「い、いえそんなことは」
「お前がどんな境遇だろうと俺は知ったことじゃない。死にたいというなら勝手に死ね」
「……」
「ただ生きたいのなら俺について来い」
「えっ?」
「お前の空間属性は希少だ。ここでお前を失うのは惜しい。死にたいなら殺してやる。だが生きたいのなら俺に尽くせ」
「それは貴方の奴隷ということに?」
「首輪をつけて欲しいならそうするが?」
「首輪を付けてしまったら転移使えませんよ」
「……」
「ふふっ……」
「早く決めろ!」
「わかりました。貴方に救われた命です。貴方の為に、この命を尽くします」
こうして隆史はエルフの女性と同行することになった。
「幸い馬が生きている。これに乗ってアルツェイルに行くぞ」
「はい、ご主人様!」
「……」
「ご主人様?」
「俺の名は福田隆史だ。名前で呼べ」
「しかし」
「命令だ」
「では……タカシ様で」
「……もうそれでいい」
「私の名前はエレノアです。タカシ様!」
「ああ……」
隆史は素っ気なく答えて馬に乗り先へと進もうとする。
「くっ……うおっ……」
しかし、乗馬をしたことない隆史は苦戦している。エレノアはそれを見て助け舟を出す。
「あのタカシ様。私がご一緒しましょうか?」
「なっ、一人で乗れる!」
「はあ……」
「っと! わわっ!」
「……ふふっ」
「ぐ……おい!」
「……」
「おい!!」
「……」
「無視するな!! おい!」
「エレノアです」
「う……エレ、ノア……!」
「はい! タカシ様!」
「なんなんだよ、お前は!」
「タカシ様の奴隷です!」
「さっきまでとキャラが違うぞ……」
「細かいことは気にしちゃいけませんよ。タカシ様」
「はあ~、エレノア。馬を頼む」
「はい。喜んで!」
結局、隆史はエレノアと一瞬に馬に乗ることにした。
「あの、タカシ様」
「なんだ?」
「奴隷商人が乗っていた馬車を使えば良かったのでは?」
「……」
「タカシ様?」
「戻ろう」
「わかりました」
エレノアは馬車がある場所へと戻すため馬を走らせた。
「走る必要はないだろ!」
隆史はエレノアにしがみつくようにして叫ぶ。しかし、エレノアは楽しそうに笑う。
「いえ! もしかしたら誰かが馬車を盗むかもしれません!」
「そ、そそんな心配ないだろ!」
「可能性はゼロでは無いですよ! さあ、もっと飛ばしますので掴まっててください!」
「う、うわぁっ!」
エレノアはさらに馬を走らせる。エレノアの顔は笑っていた。最初はとても怖かったが本当はとても優しい隆史に抱き締められているのが嬉しくて。
「速い!! もう少しゆっくりーー!!」
隆史は絶叫するがエレノアは馬を走らせ馬車が置いてある場所へと急ぐ。エルフは感情によって耳が動く。エレノアの耳は嬉しい為にピコピコと動いていた。
「えへへ……」
「うわああああ!」
エレノアは隆史が本気でビビってるのに気付いていなかった。
改訂済み




