飲み比べの勝敗
「まだ、俺は飲めるぞ……」
「くっ……」
コリンは悔しげに、上着を脱ぎ捨てた。今、コリンは靴、靴下、ベルトと脱いでいる。ちなみに、靴と靴下は1足ずつ脱いでいた。おかげで、酒を大量に飲むハメになってしまった。
しかし、その甲斐あってかようやく、コリンの衣服に辿り着くことが出来た。嬉しい反面、少し不味い。思った以上に酔いが回って来ているのと胃が限界を迎えており、いつ吐いてもおかしくない。
「さあ、次いこうか」
「いい加減諦めたらどうでありますか?」
「馬鹿を言え……ここまで来て諦める訳にはいかないんだよ!」
「そうですか……」
ギリっと歯軋りをするコリン。どうやら、コリンも相当追い込まれているようだ。最初の頃よりも威勢が無くなってきている。だけど、コリンは不思議な事に酔っている様子はない。
まさか、コリンはアルコールに強いのか?
だとしたら、不味いぞ……
そんな事を考えていると、酒が注がれたグラスを渡される。考えるのを止めて、俺は並々と酒が注がれているグラスに目を向ける。正直、もう見たくないが、コリンの裸を見るためならと意を決する。
「それじゃあ、よーい、ドン!!」
合図と共にぐいっとグラスを口に持っていき、一気に酒を飲み干す。飲み干すと同時に、グラスをテーブルに叩き付けてコリンの方へと振り向く。コリンは俺が振り向いて、少ししてから飲み干した。
飲むスピードは俺の方に分がある。だが、酒を一気に飲み終えたと言うのにコリンの表情は大して変わっていない。辛い表情を見せないコリンだが負けた事で悔しがってはいるのだ。
その表情を見る限り、演技では無さそうなのだが、どうしても疑ってしまう。コリンは忌々しそうに、俺を見ながらズボンを下ろした。
俺は当然、その光景を凝視したのだが想像していた光景とはかけ離れていた。コリンはズボンの下に下着ではなくスパッツのような物を着ており、そう易易とパンツを見せてはくれなかった。
うっ……
不味い……
吐きそう……
だが、ここで負ける訳には……
少しでも気を紛らわせようとコリンに話しかける。
「思った以上に飲めるんだな」
「ええ。こう見えても反乱軍の中では一番の酒豪でありますから」
「なっ……嘘だろ?」
「事実であります。だから、こんなに呑んでも平気なのですよ」
確かに言われてみれば、相当な量を飲んでいる。あの小さな身体のどこにそんな量の酒が入るのだろうか、本気でそう思ってしまう。
「お喋りはそこまでだ。準備はいいな?」
「うっ……」
「私はいつでも」
コニーが手に持っているものを見て俺は呻き声をあげてしまう。何故なら、グラスではなくジョッキがコニーの手に握られていたからだ。
「ま、待てよ。なんで、急に入れ物を変えたんだよ!」
「いやー、結構いい勝負してるから、ここらでちょっと趣向を変えようと思ってな」
「趣向って……お前これは無いだろ」
「別にいいだろ。文句あるならお前の負けな」
「なっ!! くっ、いいぜ。飲んでやるよ!」
「へへっ、さっすが〜!」
半ば強引にコニーからジョッキを受け取り、コリンへと向き直る。コリンもコニーからジョッキを受け取ると、ゆっくり俺の方へと振り向いてくる。お互いに準備万端である。後は合図を待つのみ。
「それじゃあ、いくぜ! よーーい! ドン!!」
今まで以上に気合の入った合図を聞き、ジョッキを口元まで運び一気に酒を口の中へと流し込む。今まで以上にグビグビと喉を鳴らして酒を飲んでいくが、やはり限界だったようで俺は飲むのを止めてしまう。
うっ……
もう、無理……
ジョッキを戻そうとした時、チラリとコリンの方に目を向ける。すると、コリンは俺と目が合うと、僅かに勝ち誇ったかのように笑ったような顔をした。俺は、それを、もしかしたら見間違いかもしれないが、それでも確かな事が一つだけあった。
――負けられない、と――
俺は約束した。
俺は託された。
男達の夢を!!!
ならばこそ!!
俺はここで負ける訳にはいかないんだぁっ!!
戻しかけていたジョッキを再び傾けて、酒を飲んでいく。そして、遂に俺はコリンを追い抜き、見事に酒を飲み干したのだ。
「……」
だが、その代償はあまりにも――大きかった。
「そんな……」
「嘘だろ……」
「ここまで来たっていうのに!!」
「吐くな、吐くんじゃねえ!」
「頼む! まだ、吐くんじゃねえ!!!」
俺は盛大に吐いた。
『うわああああああああああ!!!!』
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』
食堂に反乱軍全員の悲鳴が轟き渡った。
◇◆◇◆
「ふぅ……危ない所でした」
「上手くいったな」
「うむ。しかし、酷いことになった」
コリン、コニー、ブライアンの三人は食堂の惨劇を目の当たりにしながらも会話を続ける。
「大体、姫様がお酒に強くないのはお二人共知っていましたよね!? どうして、あんなことになったのでありますか!! もう少しで姫様があの変態にバレる所だったんですよ!?」
「うっ、それはすまない」
「わ、悪い、コリン。俺もつい調子に乗っちまって」
「全くですよ、もう!」
「本当に申し訳ない。しかし、コリンの作戦が上手くいって良かったが……」
「そうでありますね。結果的には上手く行きましたが、かなり危ない所でありました」
「そうだな。俺もこれは不味いと思って酒の入れ物を無理矢理変えたからな」
「アレはナイスフォローでありました」
三人が話すコリンの作戦とは、シルヴィアの代わりにコリンがショウと飲み比べをして、潰すという単純な作戦である。ショウの条件には予想していなかったが、あそこで引いてしまえば酔っていたシルヴィアが何を言い出すか分からなかった。
だからこそ、デメリットしかない条件でも飲まざるを得なかった。だが、その条件以外は概ね想定内であり、ショウは見事に潰されたのだ。作戦内容としては、コリンにはただの水をショウには最もアルコール度数の高い酒を飲ませると言った作戦だ。
「しかし、まさか、ショウがあそこまで強いとは思わなかったな。ショウに渡していた酒は私でも三杯飲めばダウンするほどのものだぞ」
「だからこそ、相当焦ったであります。もし、コニーお兄様のフォローがなければ私は完全に下着まで脱がされてました」
「へへっ、どうよ!」
「最も、コニーお兄様とブライアン殿が姫様を止めてればこのような事態にはならなかったのですがね!」
語気を強めて二人に言い放つ。二人はシュンと肩を落としてしまった。
「はぁ……それでは、後片付けに行きましょう」
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