何気ない日常
今、俺は宿屋でゴロゴロしている。今日は依頼を受けないからだ。つまり、本日は休日と言うわけなのだ。
俺は一日中ゴロゴロするんだぁー!
ベットの上を転がっている。やることもなくただゴロゴロと。俺がゴロゴロしてると、マリーさんが部屋に入ってきた。
「毎回思うんですけど、なんでノックもせずに勝手に入るんすか?」
「いいじゃない別に……私ん家なんだし」
「いや、宿屋なんでしょ? それに俺は客っすよ?」
「えっ?」
「何、それ怖い」
「それより洗濯物干すの手伝ってよ」
「マルコはどうしたんすか?」
「学校よ? 知らなかったの?」
「マルコ、学校行ってたんすか!!?」
「そうよ。まだ初等部なんだから当たり前じゃない。学校に行ってないショウがおかしいのよ」
マジか!!
マルコ学生だったのか!
そういや、よく考えたら俺が平日宿にいる時ほとんど見かけない。いつも夕方に姿を見せるのは学校に行ってたからなのか。これで納得だ。
「ショウ! はいこれ!」
推理が終わった俺にマリーさんは大量の洗濯物が入った洗濯カゴを渡して来た。
「マリーさん?」
「じゃ、後よろしくね」
「ちょちょ! マリーさん!」
俺が制止しようとするもマリーさんはそのまま部屋を出て行った。なので、仕方なく俺は洗濯物を干すため庭に出て洗濯物を干していく。しかし、洗濯物を干そうと手に取った時、俺に衝撃が走る。
女性物の下着…………
ふおおおおおおおおおおおお!!!
こ、これはああああああ!!!!
パ、パパパンティーやないか!!!
俺は周りを警戒しながら洗濯物の中身を確認する。最早、その仕草は犯罪者そのものである。恐らく、目撃でもされたら刑務所に問答無用で叩き込まれるだろう。
黒、白、青、ピンク、縞………
ぐおおおおおお!!!
Tバックだとおおおおおおおおお!!!!
こいつはやべえぜ!!
なんて威力だ……!
誰が履いてんだろ?
セラさんか?
いや、セラさんはどちらかと言うと、こっちの白の清潔そうなやつだな!
間違いない!!
うん!
マリーさん……!
マリーさんは確かに履きそうだけどこっちの黒だな!
いや、まさかの縞かもしれない!!
やはり、これはセリカさんだ!!
多分!!!
わかんないけど!!
興奮してしまい周りの警戒を怠ったため気づかなかった。あの人に見られていたなんて。まさか、想定している中で最悪の人物、ルドガーさんに見つかるとは思いもしなかった。
尋常ではない殺気が自分に向けられていることに気づきそちらを振り向く。そこにいたのは観音菩薩のような顔をしたルドガーさんだ。
ルドガーさんはゆっくりと俺に近づいて来る。俺は何故だかその場を動くことすら出来なかった。
「ショウ、何をしている?」
まるで我が子に問いかけるような優しい声色で俺に問いかけてくる。その表情は悟りを開いた菩薩のように変えて。
「せ、洗濯物を干してます」
「そうか……手伝いをしてくれてるのか。良い心がけだな」
仏様が善行を行った人間を褒めるように俺を褒めてくれる。
「ところでショウよ……その手に持ってる物はなんだ?」
「こ、ここここここれは……!」
「それは……妻の下着だ……」
「あっ、やっぱりそうだったんすか!」
はっ!
気付いてしまう。ルドガーさんの肩が僅かに震えていることに。
「ふふふ……貴様は……娘だけならず……我が妻にも手を出すか……」
「あ……ああ……ああぁ」
ルドガーさんの顔は観音菩薩から一気に不動明王へと変貌する。この世の者とは思えない豹変振りに俺は震え上がる。
「この世に生を受けたことを後悔しながら逝くがいい!!! 今日という今日は貴様を殺すっ!!! 覚悟しろ、小僧ッッッ!!!」
目を真っ赤にして、今にも血の涙を流しそうな勢いで喚き散らしながら襲いかかってくる。
「ひえええええええええ!!!」
俺はセリカさんのTバックを握りしめたまま逃げ出した。
やばいやばいやばい!!
どうやったらあんな顔が出来るんだ!?
「奇栄栄栄栄栄栄栄栄栄栄栄栄栄栄!」
ひいいいい!!
いつもより凄まじい!!
アレは俺が冗談を言った時の数倍!
いや数十倍だ!
あんなの勝てるわけが無い!!
俺は必死に逃げる。明日を生きるために俺は逃げ続ける。しかし、今度のルドガーさんは本気も本気で逃げ切る事は叶わない。
「追い詰めたぞ小僧……」
「神よ仏よ……」
天に祈る。我を救いたまえと。もう、出来る事は神頼みしかない俺は両手を合わせて懇願するのみだ。
「去ねやああああああああ!!!!」
俺は目を閉じる。せめて、一思いに苦しむことなく死なせてと思っていたら、中々攻撃が来ないので恐る恐る目を開けてみた。
目を開けると、そこにいたのは女神だった。
「セリカ……」
ルドガーさんが震えている。俺にはわかる。アレは恐怖を感じた時の震えだ。
「……握り潰すわよ?」
俺はその一言を聞いた瞬間に脂汗がブワッと湧き出た。まさに恐怖、これこそ真の意味での恐怖。ルドガーさんはその一言により、その場を去って行った。
助かったのか……
ホッとしているとセリカさんがこちらに振り返る。頬に手を添えて困ったように笑いながら、指摘する。
「もう、ショウ君たら~! 何を大事そうに握りしめてるの!」
「へっ?」
俺は自分が握り締めている物を見ると先程のセリカさんの下着があった。
「いや! これは違うんすよ!」
「こんなおばさんの下着なんて興奮しないでしょ」
「そんな事ないっすよ! セリカさんめちゃくちゃ美人なんすから!」
あっ……
やってしまった……!
「ふふっ、嬉しいわ~ショウ君にくら替えしちゃおうかしら? でも、ショウ君ならきっといい子が見つかるわ」
俺はセリカさんの優しさに黙ってしまった。この人は女神様なんだ。人妻のパンツ握り締めて、歯の浮くような台詞を言う俺に引く事ないなんて、女神としか言いようがない。
「そう言えば、なんで私の下着なんかを持ってるの?」
「あっ! 洗濯物干すの忘れてた」
「ショウ君が干してくれてたの? マリーに任せた筈なんだけど?」
「押し付けられました」
「ごめんなさいねえ~後で私がキツーく言っとくから」
「はい……!」
若干背筋が震えたが、俺は洗濯物干すため、また庭へと戻って行った。俺が洗濯物干していたらマリーさんの悲鳴が聞こえたが、気にすることなく俺は洗濯物を黙って干した。
俺は昼食を済ませた後、街へと出かける。特に何もすることがなかったので街を適当に歩くつもりだ。
暇だなぁ~
歩いていると後ろから声を掛けられる。
「やあ!! 久しぶりだね、ショウ!」
「お、お前は……グルド!!」
「クルトだよ! 濁点を付けないでくれ」
「悪りぃ悪りぃ。で? 何してんだ?」
「それはこっちのセリフだよ。君こそ一人で何をしているんだい?」
「俺は暇だから街を散歩してた。お前は?」
「僕は……君と同じさ」
「なんだよその間は? まさか! お前、奥さんと喧嘩でもしたのか?」
そう聞くとクルトは俯き黙ってしまう。どうやら図星だったらしい。
「おいおい、マジか」
「ぐっ……聞いてくれ!! リジーは、リジーは!!」
「わ、わかったよ! とりあえず道で話すのもなんだから喫茶店行こうぜ!」
俺とクルトは喫茶店へと入って行く。喫茶店に入り席に着くとクルトはリジーと喧嘩した経緯を話してきた。要約すると、夜の話である。
知るかよ!!
なんでそんなことを俺に話すんだよ!!
嫌味かてめえ!!
ぶっ殺すぞ!!!
下とか上とか知るわけねえだろ!!
何がどっちが攻めで受けだよ!!
惚気か!?
そんなに死にてえのか?
俺は我慢して話を聞いていた。クルトは話たおかげかわからないが、大分落ちついていた。
「ありがとう。こんな話を真剣に聞いてくれて」
「まあ、うん、大変だな……」
俺とクルトはコーヒーを二杯ほど飲み、喫茶店から出て行った。クルトと喫茶店で別れた俺は、また一人で街をブラブラしてると後ろからまた声を掛けられる。
「お久しぶりです! ショウさん!」
振り返るとそこにいたのは、クルトの妻であるリジーがいた。夫婦揃って俺に遭遇とかやめ手欲しい。先程の件もあるから尚更にだ。
「ああ、久しぶりです」
「ここで会ったのも何かの縁ですから、少しお話しませんか?」
そのままリジーに連れられて喫茶店へと戻ってしまった。席に着いたリジーの顔は何やら思い詰めた顔をしている。もう、嫌な予感しかしない。
「あのショウさん実は相談が…」
もうやだ……
また夜の話……
夫婦の営みがどうとか……
いじめたいとかいじめられたいとか……
かけたいとかかけられたいとか……
もうなんなのお前ら??
俺を精神的に追い詰めようとしてねえか??
狙ってやってんじゃねえの?
そもそも男の俺に相談する事じゃないだろ!
しかし、俺は一つだけ名案を思いついた。きっと、これなら二人の問題を解決に導いてくれるかもしれない。
「リジーさん! セリカさんに相談するっす!! きっと、セリカさんなら夫婦円満の秘訣を知ってる筈っす!!」
「そうですね! セリカさんなら!」
「俺がセリカさんに言って来るっす!」
「お願いします!」
俺は喫茶店を飛びだして、宿へと戻りセリカさんを呼ぶ。
「セリカさん!!」
「あら? ショウ君、どうしたの?」
「ちょっと来て欲しいっす!」
俺はそう言うとセリカさん連れて喫茶店へと戻った。
「連れて来たっす!」
「確かリジーさんでしたよね?」
「はい!」
「それで私に相談ってなーに?」
「実はですね……」
はっきりと言おう……
俺はルドガーさんに同情した……
これで、ルドガーさんがあそこまで怯えるわけがわかった。セリカさんこの人は敵に回してはいけない。もし回してしまえば命はない。俺は心に固く誓った。
セリカさんだけは敵に回さないと……
リジーさんとセリカさんの話が終わり宿へと帰る。俺は夕飯まで、部屋でゴロゴロとして夕飯になって下におりた。俺は食事中にルドガーさんに憐れみの目を向けてしまった。
ルドガーさんは気持ち悪いと言っていたが俺はあの話を聞いてしまったので同情する以外、何もなかった。
俺は一つ成長したと思う……
同時に聞かなければよかったと思う。
改訂済み




