賭け
一人残された部屋から出て行こうとした時、足を止めてクワトルの死体へと振り返る。振り向いた時にはクワトルの死体が光の粒子へと変わっていた。
その光景を最後に俺は部屋から出て行った。
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きゃああああああああ!!!
わぁああああああああ!!!
(ええい!! うるさいわっ!)
だって!!
だって!!!!
これぇえええええええ!!
(お主、先程と違うぞ!)
知りませぇえええええん!!
てか、これぇえええええええ!!
何これぇえええええ!!
現在俺は軍の指令室らしき所にいるのだが、機械が複雑すぎて全く分からないのだ。色々とボタンがあったり、各施設のモニターが設置してあったりとSF並みの光景なのだ。さっきから、むやみやたらにボタンを押しても何も反応してくれない。
こんなのどうしようもありしぇえええええん!!
誰か助けてぇえええええ!!
(私にもさっぱりだ)
ポンコツ幼女ぉおおおおおお!!
(うう……いい加減泣いてもいいか?)
えっ?
そんなに傷付いた?
(お主はどれだけ私をポンコツと呼んだ! いくら、私とて傷付く時は傷付くぞ!)
そ、そうか。
そいつはすまんかった。
とりあえず、目に涙を浮かべているであろうウンディーネに謝罪をする。しかし、問題は全く解決していない。やはり、元の世界と科学の次元が違う。そもそも俺はそこまで機械に詳しいわけではないのでここに来ても止めれる可能性は低かったのだ。
もう少しパソコンの勉強をしとけばよかった。
(うーむ。どうするのだ? このままでは犬死にするだけだぞ?)
わぁってるよ。
でもなぁ〜。
うーん。
首を傾げ頭をひねるが大した案は浮かばない。これぞ本当のお手上げ状態というやつに陥った。最早、俺にできる事はただ一つ。
(……五分五分が良いところだな)
だよね〜。
はぁ……
でも、やるしかないっしょ!! しょ!?
(マジそれっしょ!)
ふぁっ?
(……忘れろ)
マジ嫌っしょ!
(お主の呼吸器官を水で埋め尽くしても良いんだぞ?)
ボク、ナニモキイテナイ
(それでいいのだ)
それじゃやりますかね。
(…………このまま共に、というのはダメか?)
ダメ。
ウンディーネたんもこれ以上は巻き込めないよ。
さ、早く同化を解いて。
(…………嫌だ、と言ったら?)
答えなくても分かるだろ?
(………………短い間だったがお主と同化した時間は楽しかったぞ)
そっか。
そいつはよかった。
(うむ。それでは同化を解くぞ)
身体から何かが抜け落ちるような感覚があり、ウンディーネが俺の目の前へと姿を現した。驚く事に幼女の姿ではなく妖艶な美女になっていた。
「そっちが本当の姿?」
「ふふっ。どうだ? 惚れたか?」
「ああ。最高だ」
「現金なやつめ…………では、私は行くぞ?」
「うん。フォローよろしくね」
「……………ん!」
「うひょっ!?」
突然、ウンディーネに抱きしめられて変な声が出てしまう。戸惑う俺は硬直したままウンディーネに強く抱き締められる。豊満なボディに包まれて昂揚する。このままでは、俺の息子も立ち上がってしまう。
「ちょっ、ウンディーネ!」
「約束しろ。絶対に死なんと……」
「…………出来るだけ努力するよ」
「ダメだ!!!」
さらに強く抱き締められる。しかも、ウンディーネは浮いている所為で俺より位置が高い。だから、俺の顔はウンディーネのおっぱいに包まれているのだ。
幸せ〜〜。
「いいか! 死ぬのは絶対に許さん! お前が絶対に死なないと約束したら離してやる! それまではずっとこのままだ!」
えっ!?!?
マジで!?!?
なら、俺言わないよ?
いや、本当に!
だって、おっぱいに包まれてるもの!!
うひょひょーい!
なんてふざけてる場合じゃないんだよな……
「わかった。約束する。俺は絶対に死なない。必ず生きて戻るよ」
「…………約束だぞ」
ああっ!!
名残惜しい!!
待って!!
僕の楽園!!
ウンディーネはようやく俺から離れた。解放されたのはいいが、少し、いや、めちゃくちゃ名残惜しい。もう少しあの感触を楽しんでいたかった。
おっと、いけない。
また、バカになるところだった。
さてと……いっちょやりますかね!
ウンディーネが指令室から出て行き、一人となった俺は魔力を高めていく。無機質な音声が聞こえてきて、残りの時間を教えてくれる。残された時間は僅か三分。カップ麺が出来る時間だ。
さあ…………やるぞ!!
「漆黒闇夜!」
闇属性の魔力化を施す。再度、カウントダウンの放送が施設内を流れる。残り一分となった。ウンディーネはうまくやってくれているだろうか。いや、心配しなくてもいいだろう。何せ、彼女は水の精霊王なのだから。心配するのは自分の方か。
『カウントダウン、十、九、八』
ついに爆発十秒前となった。心を落ち着かせる為に深呼吸をする。
『三、二、一』
今だっ!!!!
◆◇◆◇◆◇◆
「国民の避難状況は?」
「俺的に完了っす」
「こっちもオッケー!」
「無事……終了」
「問題無しじゃ」
基地の外ではジン達の迅速な対応のおかげで国民の全てが避難を完了していた。イスカンテには非常時に備えてシェルターが存在しており、すべての国民はそこに避難をしている。
「あの……ジンさん達はシェルターに入らないのですか?」
「ああ。俺達は見守る義務がある。それに……あいつを信じているからな」
「…………」
「なぁ、嬢ちゃん。確かにあいつがした事は最悪だったと思う。だけど、嬢ちゃんの妹は無傷で助けられただろ?」
「…………それはそうですけど」
「やっぱり、許せないか?」
「…………」
「嬢ちゃん。別に許してやれ、なんて言わない。でも、一番近くで嬢ちゃんがあいつを見てきたじゃねえか。だから、少しは信じてやったらどうだい?」
「あっ…………」
思い返すのはショウと歩んだ日々。基本アホでスケベな彼だったが絶対に自分を守ってくれた。理解し難い行動も多々あった。それでも、その行動にはちゃんと意味があった。彼はワザと人を傷付け、自身から遠ざける。
「なんで……なんで、私……」
次の瞬間、世界が震えた。
後少しで、イルミゾート編を終わらせます。
終わったら、一旦番外編に入ります。




