思わぬ人物
ついにクレアが俺の元へと辿り着く。倒れている俺の顔面に手の平を翳して魔法を撃とうとする。手の平に魔力が収束していくのをただ黙って見ている。
魔力の収束が終わり、今魔法が放たれようとした瞬間に閃光が走る。終わったと思い目を閉じた時、思いもよらぬ事が起きた。
「クレアァアアアアア!! やめなさいっっ!!」
突然、ハンナの叫び声が聞こえたと思ったらクレアの手の平から魔力が胡散していった。つまり、魔法を撃たずに解除したのだ。
やっぱり理性あるくね?
いや、これは良くあるやつだ!
内側で必死に戦ってるてきな!
多分、そうだ!!
そうに違いない!!
いや、そうであってほしい!!
「クレア。良い子だからやめなさい」
「アウ……ああ……お姉……ちゃん」
おっ?
おおおお??
これは!!
姉妹の想いがクワトルの思惑を凌駕するパターンやで!
おっと。
今の内に回復、回復〜!
「お姉……ちゃん!!」
ついにキタコレ!
「ニョロホホ。貴方、目障りデスよ」
クレアが正気に戻りかけた時、クワトルはハンナの胸を魔法で撃ち抜いた。ハンナの胸から血が流れ落ち、ゆっくりと倒れた。
「ハンナァアアアアアッッ!?!?」
「あっ……ァアアアアアァアアアアアァアアアアア!?!?!?」
「ッッ!!!」
今まで以上の魔力が溢れ出て、嵐のように周りのものを吹き飛ばした。勿論、俺も例外なく魔力に吹き飛ばされた。
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!!! コロスッッッッ!!!」
次の瞬間、目の前にクレアが現れる。
えっ?
まさかの俺?
クワトルじゃないの??
ねえっ!
ちょっとぉおおおお!?!?
クレアはめちゃくちゃに魔法を撃ってくる。それを紙一重で避け続ける俺。紙一重で避けているとは言ったが実際には擦り傷が出来る程度には当たっている。このままだと、いずれ直撃するの時間の問題であると。
難なく避けていたら、背後から魔法が飛んで来て直撃してしまう。魔法を受けてしまった事により集中砲火を浴びてしまった。
「あがぁ……」
くそったれ……
なんで背後から……
後ろには誰もいねぇぞ……
ジン達が裏切る筈もないのに……
そういや、何度かこんな事があったっけ……
ちくしょう……
意識が………
いいや!!
まだだ!!
こんな所で死ぬ訳にはいかん!!
一刻も早くクレアとケリをつけてハンナの元へと急がねば!!!!
「うおおおおおお!!!」
崩れ落ちそうになった身体を無理矢理奮い立たせる。正直、今にも意識を失って倒れてしまいそうだ。この旅で何度も経験してきたが、今回は、いや、今回も相当厳しいものだ。だけど――
「勝たなきゃいけねぇよな!!」
――よくぞ言った――
「は?」
どこからともなく声が聞こえた。頭の中に直接響き渡る声。どこかで聞いたことのある声だが、一体どこから? それに何故こんなタイミングで?
「ウヴヴヴ……ァアアアアア……」
突然、目の前のクレアが頭を抱えて苦しみ始めた。頭を抑えるように蹲り丸くなる。しばらく苦しんでいたと思ったら、クレアの身体から魔力が噴き出した。
魔力が噴き出し終わるとクレアは苦しみが無くなったのか、ゆっくりと立ち上がりこちらへと顔を向けてきた。戦闘態勢に入り、クレアの出方を伺う。
「まあ、待て。落ち着くといい」
んん??
後ろから声が!?
バッと後ろを振り返ると、そこには何時ぞやで見た事がある幼女が浮かんでいた。
「久しいな。異世界の者よ」
「あ、あんたは幼女ウンディーネちゃん!」
「幼女言うなっ! あと、ちゃん付けするでない! 私はお前よりも何百年と年上なんだぞ!」
「そりゃ、わかってるけど見た目が……」
「これは力を抑えてるからだ! 今、本当の姿を見せてやる!」
「いら、無理しなくていいよっ! なんか実年齢のしわくちゃババアが出てきそうで怖いから嫌だ」
「貴様は!!!!」
俺とウンディーネが口論をしていたら、魔法が飛んできた。俺は障壁を張り魔法を防ぐ。どうやら、痺れを切らしたクレアが魔法を撃ったようだ。まあ、目の前で口喧嘩をしている敵がいたら普通は攻撃するよね。だって、油断しているもの。
「くっ! 少し話がしたい!!」
「いや、状況見ろよ! 俺ピンチだからね!」
「それくらいなんとかしろっ! 男の子だろうが!」
「男の子だからって強いというのはおかしい! 女の子だって強い奴いるだろっ! 現に俺の目の前に!」
「あれは特殊な奴だ! 全世界の女の子に謝れ!」
「うるせえっ! 特殊とか関係ないわっ! 性別が女なんだから良いだろ!」
「良くない! あれは――」
「危ねえっ!!」
ウンディーネの背後に突然魔法が現れ、ウンディーネ目掛けて放たれた。あと少しで直撃という所で庇うことに成功した。
「くそっ! なんで何もない所から!」
「だから、それを話したいのにお前が私を馬鹿にするから」
「なら、とっととその話に入れやぁっ!!」
「ちょっ、やめろ、肩を掴むな。揺らすな。気持ち悪い」
「おおっ、すまんすまん」
「頭に血が上りすぎだ。全く」
「とりあえず話したいが……流石に今のままだと無理だな」
障壁を張り巡らせてクレアの魔法を防いではいるが、障壁は既にヒビだらけで砕け散る一歩手前といったところだろう。なんとか時間を稼がねば。




