やれるだけやる
窓の外を眺めて下に列車を発見する。ようやく列車に追い付き、高度を下げて列車より少し上を飛行する。並走するように速度を段々落として行き、列車の真上まで合わせる。
「二人とも、追い付いたぞ」
「うぷっ……」
「速いね〜! おじさん、ビックリしまくりだよ」
おっさんの方は元気だが、ハンナが酔っている。このままだど、中で吐かれてしまう。臭いが残るのも嫌だし、何より美少女が吐く姿を見たくない。
「おっさん。冒険者ならここから飛び降りて列車に乗れますよね?」
「まあ、このくらいの高さなら余裕かな」
「なら、先に降りていて下さい。俺はハンナを連れて降りるので」
「了解」
おっさんはハッチを開き、下を走っている列車の屋根に飛び降りた。無事に着地したのを見てブラックバードを消し去る。重力に引かれるように下へと落ちる。ハンナを抱きかかえて屋根に着地した。
「ふぅ〜」
「……」
「どうやら、お嬢ちゃんはしばらく動けそうにないね」
ハンナの顔は死人のように真っ青になっている。お姫様抱っこからおんぶに変えて、屋根を伝って先頭車両へと移動する。
先頭車両につき、中に入ると今までに見た事のない機械ばかりで全く訳が分からなかった。
「ちょっとおじさん、こういうの得意だから任せといてかった
戸惑っていた俺におっさんがそう言ってくる。おっさんは慣れた手付きで機械を操作し始める。色々と機能を確かめているのか、それとも列車を止める方法を探っているのだろうか?
よく分からなかったが、おっさんが機械を操作するのを止めてこちらに振り返る。その表情は曇っており、非常に言いにくそうな事を言おうとしている顔だった。
「……残念ながら、この列車を止める方法はない。正確に言えばここでは止める事が出来ない」
そんなの嘘だろ。
冗談だと言ってくれよぉ!
「ここでは無いって事は他にはあるんですか?」
「一応、各車両ごとに手動で掛けるブレーキが備えつけられてる」
「じゃあ、早速そのブレーキを掛けていきましょう!」
俺とおっさんは手分けして各車両の手動ブレーキを掛けていく。俺が最後尾からでおっさんが最前列から。一つ一つブレーキを掛けていき、止めて行く。
ブレーキは車輪を回らないように止めるタイプではなく、レールに固定しロックするタイプだった。
「さて、これで速度はどれだけ落ちたか……」
一旦、先頭の車両へと戻り速度を確認する。
「80キロか……僅かに落ちたばかりか……」
「ちなみに聞きますけど、イスカンテまで、あとどれくらいですか?」
「そうだね。3時間って所かな」
「結構来てますね……」
これは困った。手動のブレーキも気休め程度にしかならなかった。残り3時間でイスカンテへと辿り着く。このままでは、この列車がイスカンテに突っ込み甚大な被害を及ぼすだろう。
「おじさん、何とかしてみるよ」
「出来るんですか?」
「さてね? でも、やらないよりかは良いだろ?」
「そうですね。なら、俺もやりましょうか」
ハンナを操縦席に座らせて、先頭車両から出て行こうとするとおっさんが声を掛けてくる。
「どこに行くんだ?」
「逃げますっ!」
「は?」
俺は先頭車両から出て行き、最後尾の車両へと移動した。流れる景色を眺めながら深呼吸する。腹は決まった。後は己が持つ全てを出し尽くすのみ。
「さあ、ぶちかますぜっ!!」
****
「くっそ、マジかよっ! あいつ、お嬢ちゃん置いて逃げやがった!! ちくしょうが!!」
ショウが逃げたと思い、おっさんは壁を強く叩いた。大きな音が鳴り、その音でハンナが飛び起きる。
「ふぇっ!?」
「あっ、ああ。悪い、起こしちまったか」
「あっ、いえ、大丈夫です。それより、ショウさんはどこに??」
「あいつなら逃げたさ。お嬢ちゃんを置いてね」
「えっ!!」
「驚くのも無理はない。でも、本当なんだよ。ついさっき、そこの扉を出て行ったよ」
「そうですか」
「あ、あんまり、落ち込まないんだね?」
「だって、きっとショウさんの事ですから何か理由があっての事だと思います。それに――」
「それに?」
「ショウさん、アホですけど信じてるんです。私」
「……分からないな、俺には」
その時、列車が大きく揺れた。
「きゃっ!!」
「うおっ!!」
列車が大きく揺れたと思いきや、今度は列車が減速し始めたのだ。スピードメーターが見る見る下がっていくのを見ておっさんが驚く。
「どうなってる!? 一体これは……」
「ショウさんですよ! きっとショウさんが何かしてるんですよっ!!」
「何かって一体何を……」
「それは……分かりませんけど。でも、列車が減速しているのは間違いなくショウさんのおかげです!」
****
こんちくしょうがぁああああああああ!!!
最後尾の車両にグレイプニルを巻き付け、列車とは反対方向に向かって進んでいる。最初はブラックバードを使おうとしたのだが、機体が保たないのですぐに諦めた。
今はヘルメスの靴を履いて俺自身が空中を蹴り列車を減速させている。徐々にだが速度は落ちている実感がある。魔力化を施し雷速で進んでいるものの、列車の重量で中々上手く引っ張らないのだ。
「あああああああああああああああ!!!」
本気で引っ張り続けるが列車は一向に止まらない。しかし、ゆっくりとだが確実に速度は減少している。
だが、ここで予想だにしなかったことが起こる。バギンッと列車の方から音が鳴り、振り返るとブレーキが壊れたのだ。ブレーキが壊れた所為で列車の速度は増して行く。
「くそったれがあああああ!!」




